格差是正分として2%までの幅を目標に賃上げを/UAゼンセン臨時大会

2021年2月3日 調査部

[労使]

国内最大の産別労組であるUAゼンセン(松浦昭彦会長、約179万9,000人)は1月28日、都内およびリモート会場(全国7カ所)で臨時大会を開き、昨夏に書面開催した定期大会の内容を確認するとともに、今春の賃上げ交渉に向けた「2021労働条件闘争方針」を決定した。「すべての加盟組合は賃金体系維持分に加えなんらかの賃金改善に取り組み、格差是正分として2%までの幅を目標に賃金を引き上げる」方針。

ウィズ・ポストコロナの持続可能な社会を目指した働き方改革を

UAゼンセンは、繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、食品、流通、レジャー・サービス、福祉・医療産業など幅広い業種をカバーしていることから、「製造産業部門」(944組合)、「流通部門」(546組合)、「総合サービス部門」(794組合)の3部門に分かれて組織運営されている。春の賃上げ交渉では、UAゼンセンが産別全体としての闘争方針である「労働条件闘争方針」を決め、同方針に基づいて各部門が業種実態に応じた部門方針を決定する。今年は1月29日に、3部門がそれぞれ評議員会を開いて部門方針を決定している。

闘争方針は、今次闘争の基本的な考え方として、 ① 新型コロナ危機を克服し組合員の生活を守る闘争に取り組む ② ウィズ・ポストコロナの持続可能な社会を目ざし、働き方改善に取り組む ③ 組合員一人ひとりが参加を実感できるよう取り組む――の3つの柱を掲げている。

ポストコロナを見据えた賃上げに取り組む

2021賃金闘争要求の考え方では、まず、「コロナ禍の特異な事態を踏まえ、ポストコロナを見据えた賃金引き上げに取り組む」として、「すべての加盟組合は賃金体系維持分に加えなんらかの賃金改善に取り組み、格差是正分として2%までの幅を目標に賃金を引き上げる」方針を示した。今年4月から中小にも同一労働同一賃金の法改正が適用されることを踏まえ、「雇用形態間での均等・均衡処遇の取り組みをさらに進める」構え。短時間(パートタイム)組合員については、「正社員組合員との均等・均衡、最低賃金要求基準を意識した要求を行う」などとしており、一時金・退職金については全組合員についての制度化を目指す。

さらに、企業内最低賃金の引き上げ・協定化を「必須の取り組み」とすることも明記。「企業内最低賃金を必ず協定し、業種ごとに公正労働基準(最低基準)の確立を進める」ことや、「未組織労働者への波及に向け、法定の特定最低賃金の改正・新設に取り組む」ことも掲げている。

「異例の年」であっても賃上げの流れを止めるわけにはいかない(松浦会長)

あいさつした松浦会長は、今次の賃上げ闘争を取り巻く環境が、 ① 物価上昇率や生産性向上分でマクロの視点からの要求根拠を組み立てることが困難 ② 産業・業種のおかれた現状にあまりにも幅がある――などの特徴を挙げて、「新型コロナ禍の影響によりいくつかの点で『異例の年』と言わざるを得ない」と指摘する一方で、「私たちの求める『産業間』『企業規模間』『働き方』による三つの格差の是正はまだまだ続けていかなくてはならない」「賃上げを止めることが、デフレの長期化・加速化につながる」などと説明。「こうした異例の年であっても、ここ数年続けてきた賃上げの流れを止めるわけにはいかない。賃上げの必要性・重要性を共有し、雇用確保を大前提にそれぞれの産業・業種の置かれた環境を踏まえるなかで、精一杯の要求・交渉を展開していこう」などと訴えた。

賃金体系が維持されていない組合は9,500円または4%を目標に格差是正を

平均賃金での引き上げ要求基準については、正社員(フルタイム)組合員には、3段階の賃金水準指標への到達状況に応じて内容が異なる要求基準を示している。賃金水準指標は、【ミニマム水準】(到達水準をめざすための第一ステップ)、【到達水準】(すべての加盟組合が到達をめざす)、【目標水準】(中期的にめざす賃金水準)の3つ。「高卒35歳勤続17年」と「大卒30歳勤続8年」の2銘柄に分けてそれぞれ金額を示し、具体額は「高卒35歳勤続17年」「大卒30歳勤続8年」ともに【ミニマム水準】が「24万円」、【到達水準】が「25万5,000円を基本に部門ごとに設定」、【目標水準】が「部門ごとに設定」――としている。

【ミニマム水準】に未達もしくは水準が不明の組合は、「賃金体系維持に加え、2%を目標に格差是正に取り組む」とし、賃金体系が維持されていない組合は「賃金体系維持分を含めた要求総額として9,500円または4%を目標に格差是正に取り組む」とした。【到達水準】に未達の組合は、「格差是正の必要性を踏まえ、部門ごとに要求基準を設定する」とし、すでに【到達水準】以上の組合については「目標水準に向け、部門ごとに要求基準を設定する」とした。

なお、到達水準以上の組合については、「賃上げ要求基準のうち、一定率を超える部分については、賃金以外の労働条件の改善を賃金引き上げの代替分として要求することができる」として、総合的な労働条件改善を賃上げ相当として評価することも明記している。

格差是正が必要な短時間組合員は正社員以上の要求を

短時間組合員の要求基準も、「制度昇給分に加え、2%を目標に時間額を引き上げる」とし、制度昇給分が明確でない場合は、「制度昇給分を含めた要求総額として4%を目標に引き上げる」としている。正社員組合員との均等・均衡を考慮して、「格差是正が必要な場合は正社員組合員以上の要求を行う」こととし、「正社員組合員と同視すべき短時間組合員は、正社員組合員と同様に要求する」。

企業内最低賃金の要求基準では、「月額16万9,000円、時間額1,040円をもとに、各都道府県別に算出した金額以上とする」としたうえで、「月の所定労働時間が平均的な労働時間を超える場合、所定労働時間に比例した金額を月額とする」とした。「法定最低賃金×110%に達していない場合は、まずその水準を目ざす」。

一時金は年間4.8カ月を基準に

2021年期末一時金については、構成組織の業種・業態によって業績のバラつきが大きいなかで、「年間4.8カ月を基準に各部門で決定する」としたうえで、「好調な企業業績にある組合は、昨年の要求(5.0カ月基準)をベースに上積みを求める」考え。短時間組合員については、「一時金の制度化を前提に年間2.0カ月以上とし、各部門で決定する」とした。

労働時間の短縮・改善に関しては、「年間総実労働時間1,800時間の確立をより具体的に推進するために、2025年を目途に実現する総労働時間を設定する」とし、 ① 所定労働時間の短縮 ② 健康確保のための労働時間の上限規制等 ③ 年次有給休暇の完全取得と連続休暇の設定――の取り組みを挙げている。

70歳までの就業確保やハラスメント対策、デジタル技術革新への対応も

総合的な労働条件の改善にかかる取り組み項目では、同一労働同一賃金に関する法改正を踏まえ「個々の待遇ごとに点検・見直しを行い、是正に取り組む」としている。

定年制度改定では、「65歳定年制度を2021年4月1日までに実施」する。また、高年齢者雇用安定法が今年4月に改正されることから、それに対応して70歳までの就業確保の取り組みも進めていく。退職金は、「雇用形態や働き方に関わらず、適切に制度化する」ことを要求。正社員組合員は「定期採用者60歳定年扱い退職金水準2,000万円を基準」として部門ごとに決めることとし、短時間組合員は「正社員組合員との均衡等を考慮し、労使で合理的な制度を構築する」などとしている。

このほか、方針は、「職場のハラスメント対策」や「デジタル技術革新への対応と人材育成強化」、「仕事と生活の両立支援」などに取り組むことも掲げている。