3,000円以上の賃上げに取り組む/金属労協の2021闘争方針

2020年12月9日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別労組でつくる金属労協(JCM、髙倉明議長)は3日、WEB会議システムを併用して都内で協議委員会を開催し、来春闘に向けた「2021年闘争の推進」(2021年闘争方針)を決定した。方針は、「各産別は、3,000円以上の賃上げに取り組むことを基本としつつ、おかれている状況を踏まえて、具体的な方針を決定する」とし、2020闘争と同様に「3,000円以上」の賃上げ要求基準額を掲げながらも産別主導で方針を決定するスタンスを強めた。

「成果の公正な分配」の実践を要求

方針は、2021年闘争に向かう基本的考え方として、「政労使で確認してきた『生産性運動三原則(雇用の維持・拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配)』において、『雇用の維持・拡大』はまず第一に掲げられている。産業動向・企業業績が厳しい状況では、雇用調整助成金の活用など、さまざまな支援策を活用しながら、『雇用の維持』を最優先に『労使の協力と協議』を尽くしていかなければならない」と雇用維持を重視する姿勢をあらわしつつも、「生産性運動の目的は、『国民の生活水準の向上』である。そのためにも、『生産性向上の諸成果は、経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて公正に分配されるものとする』という『成果の公正な分配』を実践していかなければならない」と指摘した。

賃上げの継続性維持が極めて重要

さらに、「雇用の維持・拡大」を図り、「成果の公正な分配」を確保していくことは、 ① 働く人の生活の向上と安心・安定の確保 ② 金属産業が「現場力」をさらに強化し、大変革を勝ち抜いていくための「人への投資」――の手段として不可欠だと主張するとともに、「これは同時に、個人消費の拡大により経済の迅速な回復を促し、個人消費を中心とする安定的かつ持続的な成長軌道を実現することにもつながる」と主張。JCMがこの5年間、賃上げについて「3,000円以上」の要求基準を掲げてきたことにも言及したうえで、「『成果の公正な分配』を永続的に確保してくため、こうした賃上げの継続性維持がきわめて重要だ」とし、賃上げの継続の必要性を強く訴えた。

潜在的な成長率は1%弱程度を維持

方針はまた、交渉を取り巻く環境について、「わが国経済・産業はコロナ禍の打撃を受けているが、少なくとも現時点では、リーマンショック時のように金融システムが毀損するような状況には至っておらず、わが国の潜在的な成長力は、引き続き1%弱程度で維持されているものと見られる」と分析。「2020年度はマイナス成長が予測され、産業動向・企業業績も厳しい状況にあるが、生活の安心・安定を確保し、大変革への積極的な対応を図り、持続的な成長を実現していくため、『人への投資』として、賃上げの流れを止めることのないよう、取り組んでいく必要がある」と強調した。

個別賃金水準の目標基準は前年と同額

具体的な要求基準をみると、賃金の引き上げの取り組みでは、「すべての組合は、定期昇給など賃金構造維持分を確保する」とし、「JC共闘に集う各産別は、3,000円以上の賃上げに取り組むことを基本としつつ、おかれている状況を踏まえて、具体的な方針を決定する」とした。

また、水準を重視した闘争の継続から、「35歳相当・技能職の個別(銘柄別)賃金について、めざす水準への到達に向けて、賃上げに取り組む」とし、JCMとしてめざす賃金水準を提示。各産業をリードする企業の組合がめざすべき水準である「目標基準」では「基本賃金33万8,000円以上」、全組合が到達すべき水準である「到達基準」で「同31万円以上」、全組合が最低確保すべき水準である「最低基準」で「到達基準の80%程度(24万8,000円程度)」とした。なお、これらの基準額は2020年闘争時と同額となっている。

「各産別が主体的に検討を」(髙倉議長)

2020年闘争方針では、平均賃上げの要求基準では単に「3,000円以上の賃上げに取り組む」と記述したが、今回の方針では、3,000円以上の賃上げ取り組むことを「基本」とするし、「おかれている状況を踏まえて、具体的な方針を決定する」との文言を加えた。

髙倉議長(自動車総連会長)は挨拶で「今次取り組みの具体的方針においても、賃金引き上げ額とともに、目指すべき個別(銘柄別)賃金水準を提示するので、それぞれの賃金実態を精査し、産業間・産業内における賃金水準の位置づけを明確にしたうえで、底上げ・格差是正に取り組んでほしい。よって、各産別の具体的な要求方針については、JC共闘の闘争方針を踏まえて、それぞれの産業ごとの産業・企業の業績の動向、さらには自らの賃金水準・賃金実態を踏まえた格差是正や賃金体系の整備などにかかわる問題意識に基づき、各産別が主体的に検討を進め決定してほしい」と話した

企業内最低賃金は 17万7,000円程度が中期的目標

企業内最低賃金協定については、協定の全組合締結と水準の引き上げに取り組んでいくとし、協定の水準は「高卒初任給準拠を基本とする」とした。月額17万7,000円程度(時間当たり1,100円程度)をJC共闘の中期的目標とし、各産別でその達成をめざして計画的に取り組んでいくとしている。一時金については、「年間5カ月分以上を基本」とし、最低獲得水準として年間4カ月分以上を確保するとした。

回答のヤマ場の設定については、今後、戦術委員会、中央闘争委員会で決定するとし、JC共闘全体で「3月月内決着の取り組みを強化」するとしている。

JAMは6,000円基準の「人への投資」が原案

方針に関する討議では、各構成産別が闘争に向けた決意を表明。自動車総連は、「今次取り組みを通じて、職場の力を高めることで、産業の変革期やコロナ禍に負けない職場をつくり、自動車産業の永続的な発展を目指す。賃金の引き上げにとどまらず、働く者の総合的な底上げ、底支え、格差是正に向けて取り組みを推進していきたい」として、月例賃金の絶対額を重視した取り組みや企業内最低賃金協定の新規締結・水準引き上げなどに向けた取り組みを継続していくと話した。

電機連合は、「今次闘争では、組合員の雇用と生活を守ることを一義としつつ、日本の産業基盤を支える金属産業としての価値にふさわしい賃金を求める観点、金属産業のさらなる発展の原動力となる組合員のモチベーションの維持・向上の観点から、継続した人への投資に向けた取り組みが必要だ」とし、「継続した賃金水準の改善に向けては厳しい交渉が想定されるが、これを打破するためには5産別の強固な結束をベースとしたJC共闘の推進が不可欠」などと述べた。

JAMは「厳しい経済情勢を踏まえたうえで、連合・JCMは2014年からの賃上げの流れの継続に向け、昨年と同等の賃上げ水準を示した。JAMも6,000円基準の人への投資を求めることを原案とした」と報告するとともに、日本経済の持続性のためには雇用の維持と生産性3原則に基づく分配が必要であることの労使共有が必要だなどと強調した。

基幹労連は、「2年サイクルの個別年度として、雇用確保を大前提としながら、人への投資に向けた継続的な取り組みを進める」とし、年間一時金や格差改善を主要な項目として取り組むこととを表明。全電線は、「賃金については、将来の電線産業を担う人への投資として、賃金の社会性や横断性、実質賃金の維持・向上、生産性向上分、世間動向や過去の獲得状況、全電線の賃金実態と他産業との格差、個人消費による自律的成長の観点から、魅力ある労働条件整備に向けた対応を継続的に図る」とし、8年目の賃上げに向けて論議をしていると報告した。