8年連続での賃上げ要求を掲げる闘争方針を決定/連合

2020年12月2日 調査部

[労使]

連合(神津里季生会長)は1日、千葉県・浦安で中央委員会を開催し、2021春季生活闘争方針を決定した。航空や飲食など新型コロナウイルス感染症拡大の影響により業績が悪化する産業もあるなか、8年連続となる賃上げ要求を方針に盛り込んだ。2%程度の賃上げを実現することで、「感染症対策と経済の自律的成長の両立をめざす」としている。

前年と同じ定昇確保と2%程度の賃上げ求める

定期昇給相当(賃金カーブ維持相当)分だけでなく、ベアや賃金改善など賃上げの要求を掲げるのは、2014春闘以降、これで8年連続。前回の2020春闘でも、賃上げの要求基準は「2%程度」と設定した。

来春闘を取り巻く情勢としては、観光、飲食、鉄道、航空など一部の産業にコロナ禍の影響が大きく及んでいる。また、もともと資金が潤沢ではない中小企業や、雇用契約の更新が景気に左右されやすい有期・短時間労働者などへの影響も深刻な状況となっている。

方針は、こうしたコロナ禍の影響が続く経済環境下にあるものの、来春闘の意義と目的について、「賃金は労働の対価であると同時に、経済や社会基盤を支える財源でもある」と主張。「感染症対策とともに経済を再生していく過程においては、雇用の確保を大前提に、社会全体で雇用を維持・創出すると同時に、『底上げ』『底支え』による所得の向上と社会基盤を支える中小企業や有期・短時間・契約等労働者の『格差是正』を実現することで、将来不安を払拭し、個人消費を喚起し、内需を拡大させていくことが不可欠である」と指摘した。

感染対策と経済再生の基盤は賃上げの実現

さらに、「その基盤となるのは、ニューノーマルの中で、公務・民間、企業規模、雇用形態にかかわらず、安心・安全に働くことのできる職場環境を整備し、個々人のニーズにあった多様な働き方の仕組みを整えることであり、分配構造の転換につながり得る賃上げを実現していくこと」だと強調。「したがって2021闘争においても、生産性三原則にもとづく『賃上げ』『働き方の見直し』を求めるとともに、働き方を含めた『サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配』に一体的に取り組むことで、誰もが安心・安全に働くことのできる環境を整備していく」と訴え、とりわけ賃上げについて、「『底支え』『格差是正』の観点を重視し、労働組合の有無にかかわらず、一人ひとりの働きの価値が重視され、その価値に見合った処遇が担保される社会の実現をめざす。そのためにも、生産性三原則にもとづく労使の様々な取り組みをいまだ届いていない組織内外に広く波及させていくための構造と『賃金水準』闘争を実現するための体制の整備に引き続き取り組んでいく」と述べて、来春闘でも働きの価値に見合った賃金水準の実現に向け、水準の到達闘争をさらに強めていく姿勢を示した。

「社会・経済基盤の脆弱さ克服のために賃上げの流れを止めてはならない」(神津会長)

あいさつした神津会長は、2014年闘争以降、7年連続で賃上げを達成してきたものの、「これは残念ながら連合のなかでの動きにとどまっている。日本全体の賃金の状況をみれば、格差はむしろ拡大を続けており、水準についても平均で見て先進国のなかで唯一日本のみが依然として停滞しているのが実情だ。企業規模間の賃金格差は依然、年齢が上がるほど広がっており、雇用形態間格差をみても、有期・短時間・契約等で働く人は、年齢や勤続年数に応じた昇給がほとんどなく、賃金カーブを描けていない。これではわが国を支えてきた産業社会の健全な発展を望むことはできない。それどころか、このような実態を放置し続けるならば、賃金低下と少子化の悪循環によって、社会の安定性が大きく損なわれかねないことは火をみるより明らかだ」と、賃金の社会的な課題が解決されていない点を問題視。「こうした目の前にある社会・経済基盤の脆弱さを克服していかなければ、社会の持続性は担保できない。そのためにも、これまでの賃上げの流れを止めてはならない」と強調しながら、引き続き、分配構造の転換につながり得る賃上げの取り組みの必要性を訴えた。

企業内最低賃金協定では時給1,100円以上を目指す

具体的な要求基準について、方針は月例賃金に関しては、「すべての組合は、定期昇給相当(賃金カーブ維持相当)分(2%)の確保を大前提に、産業の『底支え』『格差是正』に寄与する『賃金水準追求』の取り組みを強化しつつ、それぞれの産業における最大限の『底上げ』に取り組むことで、2%程度の賃上げを実現し、感染症対策と経済の自律的成長の両立をめざす」とした。

同時に、企業内で働くすべての労働者の生活の安心・安定と産業の公正基準を担保する実効性を高めるため、企業内最低賃金の協定化に取り組むとし、その締結水準として前年と同様、時給1,100円以上をめざすとした。有期・短時間・契約などの労働者の賃金を「働きの価値に見合った水準」に引き上げていくため、昇給ルールの導入に取り組むとし、ルール導入時の水準については前年同様、「勤続17年相当で時給1,700円・月給28万500円以上」となる制度設計をめざすとした。

方針はまた、「すべての労働者の立場にたった働き方」の見直しを掲げ、36協定の点検・見直しなどの長時間労働の是正、有期雇用労働者の無期転換の促進などすべての労働者の雇用安定に向けた取り組み、均等待遇実現に向けた取り組みなどを盛り込んだ。

共闘連絡会議で回答のヤマ場を3月16~18日とすることを確認

闘争の進め方では、5つの部門別共闘連絡会議を今回も設置し、相互に情報交換と連携を図る。コロナ禍を勘案し、闘争期間中の集会については、デジタル空間の活用なども含め幅広く検討するとしている。

中央委員会の終了後、同会場で「2021春季生活闘争共闘連絡会議」の第1回全体代表者会議を開催。回答のヤマ場を3月16日(水曜日)~18日(金曜日)とすることなどを確認した。

方針案まで賃上げ要求水準示されず

今回の方針策定までの議論では、コロナ禍による産業間での業況のばらつきが大きいこともあり、方針案のたたき台となる「春闘構想」を議論する中央討論集会(11月5日)の段階でも、「具体的な数字を出すべきかどうかも含めて議論したい」(冨田珠代・連合総合労働局長)として、賃上げ要求の具体的な水準が示されず、方針案(11月19日確認)となって初めて水準が盛り込まれる異例の展開となった。討論集会では、自治労の民間中小部門、機械・金属関連の中小労組を多く抱えるJAM、全国ユニオンから、具体的な要求水準を掲げた方針の策定を求める意見が出ていた。