環境激変の影響を一定程度に押し止めたとする2020闘争評価を確認/金属労協(JCM)

2020年9月2日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、髙倉明議長、202万人)は9月1日、第59回定期大会をWeb開催し、今春闘の最終総括である「2020闘争評価と課題」を確認した。交渉期間中に新型コロナウイルスの感染拡大が進み、最終的な賃上げ額は全体平均で昨年を下回ったものの、「全体としては、2014年闘争以来の賃上げの流れを継続させ、環境激変の影響を一定程度に押し止めることができた」などと総括した。

賃上げ回答額は昨年を220円下回る

2020闘争では、金属労協は賃金の引き上げについて、「定期昇給など賃金構造維持分を確保した上で、3,000円以上の賃上げに取り組む」ことを方針とした。最終集計結果(7月17日現在)では、回答を引き出した2,680組合のうち、賃金改善などの賃上げを獲得したのは1,292組合で、賃上げ回答額の平均は1,230円となっている。前年と比べると、賃上げ獲得組合の数は前年(1,693組合)から401組合減少し、回答額は220円下回った。

回答額を規模別で見ると、1,000人以上が961円(前年1,238円)と1,000円台を割り込んだが、300~999人が1,123円(同1,303円)、299人以下が1,316円(同1,536円)となり、中堅・中小の賃上げ額が大手を上回った。また、4年連続で、299人以下の回答額が最も高くなっている。

コロナで先行きが見通せない交渉状況に

評価と課題は、今年の取り組み経過について「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が加わり、先行きが見通せない状況での交渉となった」とし、3月下旬以降は「外出自粛要請、休業要請などによって経済活動が大幅に制限されることとなり、経済と企業業績の極度の悪化が不可避となるなかで、厳しい交渉を余儀なくされた」と振り返った。

回答結果については「賃上げ獲得組合の比率は半数程度にとどまり、賃上げ獲得組合の賃上げ額も全体平均で1,200円台に低下した。しかしながら、緊急事態の状況下において、労働組合として社会的相場形成の力を発揮することにより、全体としては、2014年闘争以来の賃上げの流れを継続させ、環境激変の影響を一定程度に押しとどめることができた」と評価した。

年々高まる経営側の賃上げへの抵抗

一方、賃上げの課題としては、特に大手企業で賃上げに対する経営側の抵抗が年々高まっていることをあげた。「2019年闘争以降、大手組合における賃上げ獲得比率の低下が顕著になっている」と言及するとともに、4年連続で中小労組の賃上げ額平均が大手を上回ったことについて「これは格差是正の取り組みが成果を上げてきたと同時に、大手労組の賃上げ額が低下していることも要因の1つであることが否定できない」と分析。そのため今後も、「働く者の生活の基盤である基本賃金の引き上げこそが成果配分、『人への投資』の基軸であるという方針を揺るぎのないものとして堅持し、取り組んでいかなくてはならない」と強調した。

引き続き必要な大手労組の役割

格差是正の取り組みについては、「新型コロナウイルスの感染拡大の状況下で、とりわけ中堅・中小の労使を中心に、速やかに有額回答での決着を図り、感染対応を急いだところ、極度の収益悪化により有額回答に踏み切れなかったところなど、それぞれ対応が分かれるところとなった」とし、中小が大手を上回る回答を引き出す流れが広がりを見せているものの、「大手労組が賃上げ要求を行わないと中小労組も要求できない、大手労組が賃上げ回答を引き出せないと中小労組も引き出せない、という状況は根強く残っている」と分析しながら、「共闘を高める上で、引き続き大手労組は役割を果たしていく必要がある」とした。

また、中小労組の回答引き出しに対する賃上げ獲得組合の比率が42.7%と2014年以降で最も低い水準にとどまったことから、「2極化が顕著になった」とし、中小労組の交渉力強化の必要性を訴えた。

来年の春季生活闘争に向けては、「新型コロナウイルス感染症などの影響により、経済・産業情勢、雇用環境がここ数年とは大きく様変わりしてきている中で、国内外の景気動向や物価の動向、産業動向、雇用動向、賃金水準の動向などを精査し、2021年闘争に向けて検討を深め、方針を確立していく」と記述した。

3年間で活動見直しを準備する

連合や加盟産別と運動期間を揃えるため、今大会では2021年度限りの1年間の運動方針を策定した。方針には、金属労協としての活動の見直しに向けた準備に着手することなどを盛り込んだ。

金属労協では、厳しい財政状況にあるなかでの組織・財政を含む活動の見直しの検討を2015年度から開始。2018年大会では、組織財政検討プロジェクトが検討状況を中間報告しており、今回の方針には、プロジェクトの最終答申に盛り込んだ内容を反映している。

それによると、2024年度を、金属労協として「あるべき姿への組織改革を実現する」目標年に設定。それまでの3年間で改革に向けた準備を行い、この先1年間(2021年度)では、見直すべき活動項目(統合や削除、追加など)の洗い出しを行う。来年9月に開催予定の第60回定期大会では、2年間の運動方針(2022年度~2023年度)を決定することになっているが、実行できる活動があれば早速2022年度からの方針に盛り込んでいく。

春闘は連合の金属部門連絡への役割移行も検討

見直しの方向性としては、金属労協としての活動を ① 金属労協が主体となり、産別が参画する活動 ② 金属労協と産別が共同して進める活動 ③ 産別が主体となり、金属労協が協力する活動④連合との連携を強化して取り組む活動――の4形態に整理し、連合や加盟産別との重複感のない活動をめざす。金属労協が主体となる活動としては、加盟する国際産別組織であるインダストリオールのリード役としての活動や国際分野での人材育成などを行う。春季生活闘争での役割については、連合の金属部門連絡会や共闘への移行も検討する。

大会で改革の方向性を説明した浅沼弘一事務局長は、加盟産別に対するヒアリングでは、「JCMの強みを活かした活動に特化すべき」「JCMがなかったらできない活動とは何かといった視点をもつべき」「長年のJCM運動の蓄積を無にしない改革とすべき」などの意見があったと説明した。

海外との会議ではWebを活用

組織改革以外では、国際活動の充実や特定最低賃金の取り組みなどを盛り込んだ。国際活動では、延期されたインダストリオール世界大会に向けて、主要加盟組織との連携を強化。海外労組との定期交流は継続的に実施することを前提に、Web会議システムを活用するなど、手段を問わずに積極的な交流を推進するとしている。特定最低賃金の取り組みでは、企業内最低賃金協定の締結拡大に取り組むとともに、高卒初任給準拠を基本に、中期的目標である月額17万7,000円に向けて交渉に活用できる教宣資料を作成するとしている。

役員改選を行い(任期は1年)、髙倉議長(自動車総連)、浅沼事務局長(電機連合)は留任となった。