「概ねここ数年の賃上げの流れを引き継いだ」と総括/連合の2020春季生活闘争中間まとめ

2020年6月5日 調査部

[労使]

連合(神津里季生会長)は6月3日、書面審議の方式で第82回中央委員会を終え、2020春季生活闘争中間まとめを確認した。5月上旬までの平均賃上げ方式の賃上げ率(定期昇給相当分込み)は1.93%で、前年同時期の実績を0.17ポイント下回ったものの、「概ねここ数年の賃上げの流れを引き継いだ」と評価。ベアや賃金改善だけでみた中小組合の引き上げ分が、額・率ともに全体平均を上回ったことから「自らの賃金水準を意識した取り組みが前進している」とした。

賃金改善を獲得した組合の割合はほぼ昨年並み

中間まとめのベースとなる5月7日時点の回答集計によると、要求を提出したのは5,870組合で、うち月例賃金改善(定昇維持含む)を要求した組合は 4,673 組合となり、昨年同時期に比べ 212組合減少した。月例賃金について妥結済の組合は2,936組合(月例賃金要求組合の62.8%)で、うち賃金改善分を獲得した組合は1,213組合。賃金改善を獲得した組合の妥結組合に占める割合は41.3%で、昨年同時期(43.9%)とほぼ同水準だった。

4月7日に「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が出されたが、妥結の進捗具合を2016年以降で比較すると、3月末までは例年並みに推移したものの、4月中の妥結率は 15.8%と例年より低下し(昨年は24.0%)、交渉体制への影響がうかがわれる結果となった。

中小の賃金改善分の平均額・率が全体平均を上回る

賃上げ回答結果をみると、平均賃金方式では、要求・交渉を行った組合のうち3,123組合(昨年同時期比592組合減)が回答を引き出し、平均賃上げ(定期昇給相当分含む)の加重平均は5,683円・1.93%(同534 円減・0.17 ポイント減)となった。

規模別にみると、組合員1,000人以上では昨年同時期比707円減・0.20ポイント減だったのに対し、100人未満では同90円減・0.03ポイント減などとなっており、いずれの規模も昨年同時期比でマイナスだったものの、100人未満が最も減少幅が小さかった。

ベアや賃金改善などの賃上げ分が明確に分かる1,570組合の、ベアや賃金改善分だけでみた賃上げ分の加重平均は1,361円・0.45%で、昨年同時期を209円・0.05ポイント下回った。これを300人未満の中小組合だけでみると(928組合)、1,378円・0.57%となり、全体平均の数字を上回った。

月例賃金改善(定昇維持含む)を要求した4,673組合のうち、めざすべき水準を確認したうえで賃上げに取り組むなど「賃金水準の追求」にこだわって要求した組合は2,919組合だった。産別では、今次闘争から新たに、目標賃金水準を設定した組織がみられた。

時給引き上げは加重平均・単純平均ともに昨年を上回る

一方、有期・短時間・契約等労働者の賃上げの回答水準についてみていくと、時給では加重平均が28.49円(同2.01円増)、単純平均が27.10円(同1.01円増)と、いずれも昨年同時期を上回った。昨年同時期を上回るのは、2014年以来7年連続のこと。平均時給でみると、加重平均で1,029.07円、単純平均で1,039.01円。月給の賃上げ回答は、加重平均5,692円・2.68%(同1,375円増・0.60ポイント増)、単純平均4,829円・2.30%(同606円増・0.28ポイント増)となっており、いずれも昨年同時期を上回った。

企業内最低賃金協定の要求・交渉を行った組合は、延べ1,692組合(闘争前協定あり1,634 組合・なし58組合)となった。このうち、闘争前に協約があり、基幹的労働者の定義を定めている組合の基幹的労働者の企業内最低賃金は、平均で月額16万5,210円/時間額1,021 円、基幹的労働者の定義を定めていない場合では、月額16万4,870円/時間額936 円となった。

働き方の見直しやワークルール、ジェンダー平等・多様性にかかわる取り組みでは、36協定の点検や見直し、年次有給休暇の取得促進、有期・短時間・契約等で働く人たちの一時金支給の取り組み、60歳以降の処遇のあり方への対応などでの回答・妥結が目立ち、前年からの増加幅ではハラスメント防止の取り組みが目立った。

大手追従・準拠から自らの賃金水準意識へ

これらの結果について中間まとめは、「現時点での受け止め」として、「これまでに引き出された回答は、組合要求との隔たりはあるものの、概ねここ数年の賃上げの流れを引き継いだものであり、現下の厳しい状況の中、組合員の努力と日本経済に対する労使の責任と期待に応えるべく、ぎりぎりまで協議・交渉を追い上げた結果であると受け止める」と評価した。全体の賃上げ率については、5月上旬の集計時点でもまだ3月中旬の集計時点の率(1.91%)を上回るとともに、賃上げ分が明確に分かる300人未満の額・率が今年も全体を上回っているとして、「『大手追従・準拠』から『自らの賃金水準』を意識した取り組みが前進しているものと受け止める」とした。有期・短時間・契約等労働者の賃上げについては、「同一労働・同一賃金の法施行もあり、格差是正の動きが前進しているものと受け止める」とした。

「これだけの困難な状況のなかで立派な回答」(神津会長)

神津会長は開催にあたってのあいさつに代えてメッセージを発信し、2020春季生活闘争の回答結果について「これだけの困難な状況の中において、多くの組織が立派な回答を引き出してくれたことに心から敬意を表す」とし、「これまでに引き出された回答は、組合員の努力と日本経済に対する労使の責任と期待に応えるべく、ギリギリまで協議・交渉を追い上げた結果であり、加えて、協議を通じた現状認識の共有と経営の回答が、この厳しい状況を乗り切るための土台にもなっている。こうした、労働組合という存在があるからこそ生まれる労使関係の機能の重要性と、その価値に対する認識をもっと世の中に広げていかなければならない」などと強調した。

書面審議は前例がなく、そのため、書面審議に関する規約がなかったことから、中央執行委員会で具体的な開催内容を確認した。提案文書を5月27日から提示し、意見・質問を募り、3日に賛否の集約を行った。