多くが昨年を下回る改善分、トヨタは正社員の改善分獲得ならず/自動車総連の主要組合のヤマ場回答

2020年3月13日 調査部

[労使]

トヨタや日産などを含む自動車総連(髙倉明会長)の大手主要12組合は11日、一斉に賃上げなどに関する回答を会社側から受け取った。賃金改善分の回答はヤマハ発動機では昨年を上回ったが、多くの組合は昨年水準を下回り、トヨタでは正社員の賃金改善分については獲得できなかった。

トヨタの原資は定年再雇用やパートタイマー時給

メーカー部会主要12組合は、トヨタ、日産、本田技研、マツダ、三菱自工、スズキ、SUBARU、ダイハツ、いすゞ、日野、ヤマハ発動機、日本発条という顔ぶれ(いずれも組合名)。

「賃金引き上げ・人への投資全組合員一人平均1万100円」を要求したトヨタ労組は、「人への投資も含め全組合員一人平均8,600円」との回答を受け、これを受け入れた。同回答には、正社員組合員の賃金改善分は含まれておらず、定年後再雇用者であるスキルド・パートナーを拡大させる原資やパートタイマーの時給引き上げ原資が含まれている。同社がインターネット上で公表した交渉結果(『トヨタイムズ』)によると、同社の豊田章男社長は回答時に、組合に対して「これからの競争の厳しさを考えれば、すでに高い水準にある賃金を引き上げ続けるべきではない。高い賃金水準の賃金を、このまま上げ続けることは、競争力を失うことになる」などと説明。回答を受けた組合の西野勝義執行委員長は「社会全体を見ると、特に中小企業においては労使の話し合いすら難しいところもまだまだある。特に組合のないところも多くある。そうした仲間が、トヨタ改善分ゼロ、という結果だけの影響を受けてしまうのではないかと考えると、正直耐えられない気持ちもある」などと述べた。

トヨタ以外の回答をみると、ダイハツなど明確な賃金改善分として1,500円を獲得したところもあった一方、本田技研では「賃金関連総原資1,500円(ベースアップ500円含む)」で決着し、ベア獲得分としては1,000円を下回る水準となった。 

一時金では再協議の条項を入れる企業も

一方、一時金についてみると、完成車メーカー11組合ではSUBARUを除き、すべてが昨年妥結実績を下回った。経営環境の先行き不透明感を反映し、日産では「2020年度上期業績を踏まえて、会社より見直しの申し入れを行う場合がある」との回答も追加された。いすゞでは、年末の0.2カ月分について、来期移行の経営環境がさらに悪化した場合に、11月を期限に労使で再交渉することを申し合わせた。

「大変革期を乗り越えられる回答」(髙倉会長)

自動車総連が11日午後3時現在で発表した会長名の「2020年総合生活改善の取り組みについての談話」は、月例賃金の主要12組合の回答状況について「厳しい交渉環境となる中、『自らの要求』の必要性と、組合員が果たしてきた労働の質的向上、そして自動車産業の大変革期を乗り越えていくという決意をもって全ての単組が回答指定日ギリギリまで交渉を押し込んできた」「各単組の踏ん張りにより、それぞれにとっての『最大限の回答』を引き出すことができた。また今次交渉においても『賃上げによる人への投資』の流れを継続できたことは、最大限の成果と受け止める」と評価した。11日の金属労協・連合金属部門共闘連絡会議合同記者会見で髙倉会長は、「自らの要求の必要性、組合員の労働の質的向上、自動車産業の大変革期を乗り越えていくという決意をもって、すべての単組が回答日ぎりぎりまで交渉を押し込んだ」とし、「自動車産業にとって大変革期を乗り越えていくための価値ある回答を引き出せた。各単組による目指すべき賃金水準、働き方の実現に向けた取り組みによって、来年以降につながる着実な一歩を踏み出すことができた」と述べた。

髙倉会長はまた、同日の本部での会見で、今次交渉での経営側の姿勢について「賃上げに対する姿勢は相当厳しかったが、昨年と同額レベルの決着ができた。我々組合員の思いを汲んでくれたと理解している」とし、「経営側からしたら、賃上げはできない状況だったにもかかわらず、昨年並みかそれ以上を引き出すことができた」と話し、賃上げの流れを継続させたことを高く評価した。

主要12組合の賃金/一時金の回答は以下のとおり。

▽トヨタ「人への投資も含め全組合員一人平均8,600円」/242万円▽日産「賃金制度に基づく改定原資7,000円」/202万8800円(5.4カ月)▽本田技研「賃金関連原資1,500円(ベースアップ500円含む)/5.95カ月(225万2,000円)▽マツダ「人材活躍の最大化のための基盤整備:一人当たり1,500円/月相当の原資を拠出」/4.8カ月+6万円▽三菱自工「賃金・処遇改善分1,000円(賃金制度改正に向けた原資を含む)(賃金制度維持分は別途確認)」/165万1,000円(5.2カ月相当)▽スズキ「昇給制度維持分の昇給と賃金改善を実施する。賃金改善分は組合員1人平均1,300円」/5.5カ月+α(3万円相当)▽SUBARU「一人平均総額7,000円相当」/5.6カ月▽ダイハツ「賃金水準維持+賃金改善分1,500円」/5.7カ月▽いすゞ「賃金カーブ維持分+改善分1,000円」/5.0カ月+0.6カ月▽日野「組合員一人平均改定額5,900円」/5.3カ月(147万6,000円▽ヤマハ発動機「賃金改善分1,500円」/5.8カ月▽日本発条「総額6,850円(賃金カーブ維持分含む)/5.0カ月+α。