2020年度3,000円、2021年度3,000円以上を基本/基幹労連が向こう2年間の賃上げ方針を決定

2020年2月12日 調査部

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄、建設などの労働組合で構成する基幹労連(神田健一委員長、27万3,000人)は5日、都内で中央委員会を開き、向こう2年間の賃金改善要求について、「2020年度3,000円、2021年度3,000円以上を基本」とする方針を決めた。減益見通しの企業の組合も多く、前の2カ年度の方針から500円要求額を引き下げた。65歳現役社会の実現の取り組みでは、2021年度の60歳到達者への65歳定年制の導入に向け、会社側との詰めの協議を急ぐ。

鉄鋼総合は大幅減益見込み

基幹労連は、「魅力ある労働条件づくり」と「産業・企業の競争力強化」を好循環させていくという基本理念にもとづき、2年サイクルで労働条件改善(AP:アクションプラン)に取り組んでいる。賃金改善については、「賃金」「一時金」「退職金」「労働時間・休日」など「人への投資」に総合的に取り組む年と位置づける「総合改善年度」に、2年分の統一要求を掲げる形をとっている。2020年は、この「総合改善年度」にあたる。

加盟組合に関連する主な産業の業績状況をみると、鉄鋼については、世界経済の成長鈍化や国内外の鉄鋼需要の減退、それに伴う市況の悪化による生産量の減少などが想定されており、総合メーカー3社(日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼)の2019年度通期見通しはともに大幅な減益を見込んでいる。総合重工(三菱重工、川崎重工、IHIなど)は、2019年度通期見通しで6社中4社が減益となっており、船舶やエネルギーなどが厳しい事業運営を余儀なくされている。非鉄では、ベースメタルの国際価格の下落や在庫評価の影響などにより、総合メーカー6社(三菱マテリアル、住友金属鉱山など)のうち5社が減益予想となっている。

「経済・社会の持続的発展の土台と思って交渉を」(神田委員長)

中央委員会であいさつした神田委員長は「国内経済は製造業を中心に弱さが一段と増しており、基幹労連に関わる各産業においても業種・業態の違いはあるものの、総じて厳しい状況におかれ、その内情は、かつてとは一変していることも認識している」と述べつつも、「しかしながら私たちはオイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、自然災害など世界の経済・社会が大きく揺れ動くなかで、もがき苦しんだ経験をもっている。そのなかで、ものづくり産業の労使は、合併・統合、分社化、合理化等、あらゆる経営施策を推進し、企業基盤の強化と雇用の確保に取り組んできた。そして、そこには労使双方の力が相まってつくりあげた変化への対応力があったことを忘れてはならない」と強調。

「AP14春季取り組み以降、労使による真摯な議論の下、6年連続して賃金改善を果たしてきたが、その重みも、負担も十分承知している。それだけに今次取り組みはかつてない厳しい情勢の中で決して容易なことではないが、経済の好循環の軸を握る個人消費をどのように回復基調へと導くのか、また、超少子高齢社会のもとで産業の担い手となる『人財』の確保をどう進め、現役の活力発揮をどう促していくのかなど、大きく変わりゆく社会のなかで、人への投資のありようを労使がそれぞれの立場から真摯に議論し、互いのもう一踏ん張りで解を導き出すことが、産業・企業、ひいてはわが国経済・社会の持続的発展の土台となり得るとの思いをもつものであり、各組織にはそうした気概をもって臨んで欲しい」と述べた。

3,000円はギリギリの許容範囲

方針が掲げた具体的な各項目の要求内容をみていくと、賃金改善では、「基幹労連が一体となって、2020年度・2021年度の中で2年分の賃金改善要求を行う」とし、「要求額は、『2020年度3,000円』、『2021年度3,000円以上を基本とする』とした。

前の2年サイクルである2018年度・2019年度では、「2018年度3,500円、2019年度3,500円以上を基本とする」との方針だった。2年前の方針から要求額を500円引き下げた根拠について神田委員長は、4日に開かれた会見のなかで「言葉にはしていないが、基幹労連の月例賃金の平均の1%にあたるのがおおむね3,500円で、これを(要求の)ミニマムだということでやってきた。今回、(ベア復活以降)初めて厳しい状況(のなかでのAP)だが、(主に中小で構成する)業種別労組をしっかり支えていくということと、ギリギリの許容範囲という点を踏まえて3,000円と設定した」と説明した。

方針はさらに、「具体的には部門・部会のまとまりを重視して要求を行う」ことや「条件が整う組合は格差改善にも積極的に取り組む」こと、「60歳以降者にも、一般社員に準じた賃金改善を求める」ことも明記した。

2年サイクルとはいえ、部門や部会でまとまりをもって取り組むことを前提として、単年度ごとに賃金について要求・交渉することも可能としており、今回も「基幹労連として統一的な取り組みを基本としつつ、もっとも効果的と判断しうるものとなるよう取り組み方も含め検討し、時々の業種・業態の状況を見極めて、部門・部会でまとまりをもって取り組むことを互いに認め合う」としている。2018年度・2019年度の取り組みでは総合重工6社で構成する船重部門と、非鉄大手で構成する非鉄総合部門が単年度ごとに要求・交渉を行ったが、この2部門は2020年度・2021年度でも単年度ごとの取り組みとなる見込みだ。

企業内最賃はJCM中期目標に計画的に取り組む

賃金改善以外の取り組みについてみると、企業内最低賃金について、金属労協(JCM)の中期的目標である17万7,000円程度(時間当たり1,100円程度)の達成に計画的に取り組むとし、未協定組合は協定化に取り組む。年齢別最低賃金は、18歳を100とした場合、20歳=105、30歳=130、35歳=140、40歳=150などのレベルを目標として各組合で設定するとした。2019年の取り組みでは「16万4,000円以上の水準をめざす」と具体的な目標額を提示したが、今回、目標額を示さなかったことについて津村正男事務局長は、基幹労連の現時点での協定平均額が16万2,219円となっており、「金属労協の中期的目標との乖離が大きいことから今回は文言での記載にとどめた」と説明。今後、部門や業種別部会のまとまりをもって方針の示し方について検討していきたいと話した。

年間一時金については、業種別部会でのまとまりを重視した要求を行うとし、要求を組み立てる際の構成要素は「生活を考慮した要素」と「成果を反映した要素」に分けて検討。具体的な要求基準は、金額で要求する方式では、「生活を考慮した要素」を「120万円ないし130万円」、「成果を反映した要素」を世間相場の動向などを踏まえながら「40万円を基本」に設定するとした。「金額+月数」で要求する方式は、「40万円+4カ月」を基本とし、月数要求方式では5カ月を基本とする。業績連動型決定方式の場合は、中期ビジョン(2017年以降、10年を期間とする基本方針)の考え方を踏まえる。

鉄鋼総合の定年延長、3月までに決着か

2018年春から取り組みをスタートさせた「『65歳現役社会』の実現にむけた労働環境の構築」では、2021年度に60歳に到達する者から年金支給開始年齢が65歳になることを踏まえ、65歳定年制など2021年度から該当者に適用できる制度の導入を目指し、労使検討の場の設置などを会社側に求めているが、今回も、「『労使話し合いの場』が未整備の組合は設置を行う」とし、「すでに労使議論が深まって、先行して具体要求できる組合は一貫した雇用形態となる新たな制度導入を求める」などと盛り込んだ。

加盟組合のなかでは鉄鋼総合各社で、2021年度以降に60歳に到達する者から定年年齢を60歳から65歳に引き上げるとともに、処遇についても連続性のある制度とする方向で検討することを、2019年4月に労使が合意。その後、制度の細部にかかる協議が続けられているが、基幹労連本部では「3月中までには各社から最終制度案の提案を受けるものと思っている」としている。

方針討議では、三菱マテリアル総連(非鉄総合部門として)、普通鋼部会、特殊鋼部会、JFEスチール労連、日本製鉄労連、川崎重工労組の6労組から発言があった。三菱マテリアル総連、JFEスチール労連、日本製鉄労連、川崎重工労組の各大手労組からは、グループ関連組合や業種別組合の格差改善についても積極的に交渉を支援していく内容の意思表明があった。