実質賃金引き上げを重視し2%基準で要求/UAゼンセンの2020労働条件闘争方針

2020年2月5日 調査部

[労使]

国内最大の産別労組で、パートタイマーの組合員が半数以上を占めるUAゼンセン(松浦昭彦会長、約177万人)は1月30日、都内で中央委員会を開き、今春の賃上げ交渉に向けた「2020労働条件闘争方針」を決定した。実質賃金の引き上げなどに重きを置き、2%を基準に賃金水準の引き上げを要求する。短時間(パートタイム)組合員についても2%基準で時間額の引き上げを求め、期末一時金では全組合員の制度化をめざす。

生産性向上に見合う実質賃上げを

UAゼンセンは、繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、食品、流通、レジャー・サービス、福祉・医療産業など幅広い業種をカバーしていることから、「製造産業部門」(972組合)、「流通部門」(548組合)、「総合サービス部門」(812組合)の3部門に分かれて組織運営されている。春の賃上げ交渉では、UAゼンセンが産別全体としての闘争方針である「労働条件闘争方針」を中央委員会で決定し、同方針に基づいて各部門が業種実態に応じた部門方針を決定する。今年は製造産業部門と総合サービス部門が1月31日に、流通部門が1月29日にそれぞれ部門方針を決定している。

闘争方針は、今次闘争の基本的な考え方として、① 家計改善と経済の持続的成長に向けて実質賃金の引き上げを行う ② 働き方改善と生産性向上の好循環に向け総合的に労働条件改善をはかる ③「顔の見える共闘」、「けじめのある闘争」を推進する――の3つの柱を掲げる。米中貿易摩擦などの影響による輸出減少や消費税率引き上げ後の消費減退など、景気悪化リスクが高まっているからこそ、「労働者の家計を維持改善し内需主導の経済成長を持続させるために、着実な賃上げが必要である」とし、「日本経済全体の生産性向上にみあう実質賃金の引き上げを行うことが公正な配分」などと主張している。

「今年の賃金闘争は正念場の闘争」(松浦会長)

賃金闘争における要求の考え方では、まず、「実質生産性の伸びを基準に実質賃金を引き上げる」として、「実質の生産性向上の伸び率と消費者物価の伸び率を踏まえ、2%を基準に賃金水準の引き上げを要求する」とまとめた。また、今年4月からの「同一労働同一賃金」に向けた法改正を踏まえ、雇用形態間の均等・均衡処遇と企業規模間・産業間格差是正に取り組むと強調。複数の雇用形態が社内に存在する場合には必ず個々の待遇ごとに内容を確認しながら、短時間組合員については「正社員(フルタイム組合員)との均等・均衡、最低賃金要求基準を意識した要求を行う」などとしている。

あいさつした松浦会長は今次交渉に向け、「今年の賃金闘争はここ数年続けてきた賃上げの流れを弱めることなく、きちんと継続できるのかどうか、正念場の闘争となる」と述べるとともに、「連合・各産別ともに要求そのものはほぼ前年並みだが、米中貿易問題や消費増税の影響などから製造業大手企業では今から厳しい環境が強調されており、こうした風潮に乗ってしまうとUAゼンセンおよび各産業・業種の相場感を引き下げることになることは必定だ」「業績が堅調な企業はもちろんのこと、業績が昨年より低下した企業でも、では水準としては過去5年と比べものにならないほど低い業績となっているのか、賃上げ余力が本当にない状況なのか、しっかり検証した交渉を進めなければならない」とし、景気の先行き不透明感を理由に、安易に消極的な交渉姿勢となることへの警戒感を示した。

そのうえで、「もとより中期的な視点で賃上げを行ってきた私たち労働組合が『一時的な業績低下=賃上げ低下』を容認してしまってはデフレ経済の再来を止めることはできない」と強調。「よほどのことがないと前年妥結を下回ることは容認出来ない、逆に、今年こそ格差是正を進めるチャンスである、との認識を各部門、業種、都道府県支部で共有し、これまで以上に連携を強化し、共闘機能を最大限に発揮することができるか、これに今次闘争の成否はかかっている」と述べ、賃上げ獲得に向けた積極的な取り組みを加盟組合に促した。

到達水準は高卒35歳、大卒30歳ともに25万5,000円

具体的な平均賃金での引き上げ要求基準について正社員(フルタイム)組合員からみていくと、昨年同様、UAゼンセンが設定する3段階の賃金水準指標への到達状況に応じて内容が異なる要求基準を提示した。賃金水準指標とは、【ミニマム水準】(到達水準をめざすための第一ステップ)、【到達水準】(すべての加盟組合が到達をめざす)、【目標水準】(中期的にめざす賃金水準)の3つ(いずれも基本賃金ベース)。「高卒35歳勤続17年」と「大卒30歳勤続8年」の2銘柄に分けてそれぞれ金額を示し、具体額は「高卒35歳勤続17年」「大卒30歳勤続8年」ともに【ミニマム水準】が「24万円」、【到達水準】が「25万5,000円を基本に部門ごとに設定」、【目標水準】が「部門ごとに設定」――としている。

【ミニマム水準】に未達の組合は、「格差是正を強く求め、賃金体系維持に加え、2%基準で賃金を引き上げる」とし、賃金体系維持分が明確でない場合は「賃金体系維持分を含めた要求総額として9,500円または4%を基準とする」とした。【到達水準】に未達の組合は、「格差是正の必要性を踏まえ、部門ごとに要求基準を設定する」とし、すでに【到達水準】以上の組合については「目標水準に向け部門ごとに要求基準を設定する」とした。

格差是正が必要な短時間組合員は正社員以上を要求

一方、短時間組合員の要求基準をみていくと、正社員と同様の考え方で「制度昇給分に加え、2%基準で時間額を引き上げる」とし、制度昇給分が明確でない場合は、「制度昇給分を含めた要求総額として4%基準で引き上げる」とした。正社員組合員との均等・均衡を考慮し、格差是正が必要な場合は正社員組合員以上の要求を行う。

企業内最低賃金の要求基準では、「月額は16万9,000円、時間額では月額を平均的な労働時間164時間で除した1,030円を基に、消費者物価の地域差を勘案して各都道府県別に算出した金額以上とする」とし、都道府県ごとに基準額を一覧表にしたものを加盟組合に提示した。

2020年期末一時金については、短時間組合員も含めて「労働内容や働き方にかかわらず、全組合員について制度化する」とし、短時間組合員の要求基準については「同一労働同一賃金ガイドライン」を踏まえ、「一時金の制度化(最低2カ月)を前提に、労働内容、働き方、その他の事情を踏まえ、正社員(フルタイム)組合員と不合理な格差がないよう設定する」と記述し、正社員組合員と同視すべき短時間組合員については正社員組合員と「同じ要求とする」としている。

短時間組合員でも合理的な退職金制度の構築を

総合的な労働条件の改善にかかる取り組み項目では、均等・均衡処遇の取り組みとして、4月からの法改正を踏まえ「個々の待遇ごとに点検・見直しを行い。是正に取り組む」としている。労働時間の短縮、改善では、所定労働時間の削減に取り組み、到達基準を「年間所定労働時間2,000時間未満、年間休日115日以上」、目標基準を「年間所定労働時間1,900時間未満、年間休日120日以上」に設定している。

連続労働の規制では、勤務間インターバル規制や年次有給休暇の完全取得などに取り組み、インターバル規制については最低でも連続11時間以上の休息時間を設けるよう求める。定年年齢では、65歳以上とするか、定年廃止を2020年度から実施するよう要求。退職金については、短時間組合員についても正社員組合員との均衡などを考慮し、「労使で合理的な制度を構築する」としている。

流通部門は企業内最賃闘争を強化

闘争方針をもとに決定された各部門方針の特徴をあげると、製造産業部門は、賃上げ要求基準を「賃金体系(カーブ)維持分に加え、1%以上の賃金引き上げ、到達水準との格差是正を含め2%基準の要求を行う」と昨年と同内容とした。同部門では9割弱の加盟組合が300人未満であり、「今年も格差是正に注力する」(斗内利夫・部門事務局長)としている。

組合員の7割を短時間組合員が占める流通部門では、すべての組合が取り組む項目(平均賃金の引き上げ)に「(短時間組合員について)同組織の正社員組合員の要求基準と同等、もしくはそれ以上を要求する」ことを掲げた。短時間組合員にも賃金制度が導入されている組合では、「制度にもとづく昇給・昇格分に加え2%以上とし、正社員組合員と同等、もしくはそれ以上の賃金引き上げを要求する」などとしている。「地域別最低賃金が上昇し、その水準に時給がはりつくパートタイマーが増えている」(西尾多聞・部門事務局長)ことを踏まえ、企業内最低賃金闘争についても「必須取り組み」と位置づけ、すべての組合が協定化を要求する。労働協約改定闘争では企業内託児施設の設置や営業日・営業時間の労使協議事項への追加などを求める。

総合サービス部門では毎年、総合的労働条件について部会ごとに統一して取り組み項目を定め、要求している。今年は、「フードサービス部会」は年間所定休日(公休)の完全取得や連続勤務日の上限設定など、「ケータリング部会」は健康診断受診率100%やノロウィルス感染時の対策、インフルエンザ予防など、「ホテル・レジャー部会」は勤務間インターバル規制の導入、「パチンコ関連部会」は受動喫煙の防止などに統一して取り組む。同部門では、「フードサービス部会」に属する「すかいらーくグループ」が、先の年末年始に営業時間を短縮し、約80%にあたる店舗が大晦日は午後6時まで、元旦は正午からの営業としたことが話題となったが、原田光康・部門事務局長はこれらの取り組みも「昨年の闘争で組合側が深夜労働の見直しを要求したことの成果だ」としている。