一定の条件を満たせば、統一闘争における妥結で柔軟対応も/電機連合が2020年闘争方針を決定

2020年1月29日 調査部

[労使]

電機連合(野中孝泰委員長、56万8,000人)は1月23、24の両日、神奈川県横浜市で中央委員会を開催し、「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の賃金水準について3,000円以上の改善を求める「2020年総合労働条件改善闘争方針」を決定した。高卒初任給については4,000円の水準引き上げを求める。一方、統一闘争について、賃金水準の改善を軸に取り組む姿勢は変えないものの、一定の条件を満たす場合に限り、妥結における柔軟性を認めることにした。

各社の業績にばらつきも、財務体質は改善

電機連合大手の賃上げ交渉では、大手メーカーで構成する中闘組合が、スト権を確立したうえで、要求から妥結まで足並みを揃えて交渉に臨む産別統一闘争を展開する。中闘組合が引き出した回答が、その後、回答を引き出す他の加盟組合に波及していく構図となっている。

中闘組合は、パナソニックグループ労連、日立グループ連合、東芝グループ連合、全富士通労連、三菱電機労連、NECグループ労連、シャープグループ労連、富士電機グループ連合、村田製作所労連、OKIグループ連合、安川グループユニオン、明電舎、パイオニア労連の13労組で構成。昨年は中央委員会で事前に、パイオニア労連の中闘組合資格凍結の予定が野中委員長から表明されたが、今年は特にそうした表明はなかった。

電機連合によると、パイオニアを除く中闘企業12社の2018年度の売上高合計の前年度比は0.3%増で、営業利益では1.5%増。2019年度通期業績見通しでは、売上高合計が前年度実績比3.4%減で、営業利益は3.7%減となっている。個別の会社別にみると、中間期決算までに売上高を3社が上方修正し、6社が下方修正。営業利益では、3社が上方修正、4社が下方修正しており、各社の業績動向にはばらつきが見られる。一方、財務体質は総じて回復傾向にあり、12社の自己資本比率(2018年度)は37.9%と前年度から3ポイント以上増加している。

「生活維持向上に継続した賃上げは必須」(野中委員長)

2020年闘争方針は、こうした産業情勢のほか、労働分配率がリーマンショック前の水準に戻っていないこと、電機産業で働く人のモチベーションの維持・向上や個人消費の拡大を経済成長に繋げることの必要性などをあげた上で、「継続した『人への投資』に取り組み、賃上げの流れを継続・定着させるとともに、中堅・中小労組へのさらなる波及効果の拡大に取り組む」と強調。今次闘争の基本方針として、継続した賃金水準の改善の要求や均等・均衡処遇の取り組み、長時間労働の是正など8項目にわたる取り組みを推進するとした。

中央委員会であいさつした野中委員長は「2020年闘争の意義は『生活不安、雇用不安、将来不安』の払拭と、すべての労働者がいきいきと働ける環境をめざし、継続した『人への投資』に取り組む、と位置づける。春闘という仕組みを最大限に活かし、すべての労働者の生活の維持・向上のため労働条件の改善に取り組み、そして社会的課題の解決に向けても、その役割と責任を果たす闘争にしていかねばならない」と呼びかけた。また、「これまでの6年間、連続して賃上げを実施してきた。しかし日本社会全体を見ると、可処分所得は上向きつつあるものの、リーマンショック前の水準には戻っていない。また実質賃金はマイナスが続いている。労働分配率は中長期的に低下しており、生活水準の維持向上を図るためにも、継続した賃上げは必須だ」と強調し、7年連続をめざす賃上げ獲得の必要性を強く訴えた。

5年連続で「開発・設計職基幹労働者賃金」は3,000円以上を要求

具体的な要求基準をみると、賃金では、「開発・設計職基幹労働者賃金(基本賃金)」(30歳相当)の賃金水準の引き上げと、産業別最低賃金(18歳見合い)の水準改善を、スト権を立てて産別統一闘争の対象とする「統一要求基準」項目に設定。「開発・設計職基幹労働者賃金」の引き上げについては、賃金体系維持を図ったうえで、3,000円以上の水準改善を求めるとした。3,000円以上の水準改善を要求基準とするのはこれで5年連続のこと。

各社の最低賃金協定額となる産業別最低賃金(18歳見合い)については、現行の協定水準に対して4,000円の引き上げとなる16万7,000円への改善を掲げた。

スト権の対象項目とはしないものの、統一決着を目指す「統一目標基準」の項目としては、「製品組立職基幹労働者賃金(基本賃金)」の水準引き上げ、年齢別最賃金、高卒初任給、大卒初任給などを据えた。高卒初任給については、「他産業と比べ水準が見劣り」(神保政史書記長)することから、昨年に引き続き、「開発・設計職基幹労働者」の改善額(3,000円以上)よりも高い改善額を設定。現行水準に対して4,000円引き上げる16万9,000円以上を求める。大卒初任給についても「他産業への優位性が失われつつある」(同書記長)ことから、「開発・設計職基幹労働者」の改善額と同じ3,000円以上の引き上げ(21万5,500円以上)を要求する。

一時金についても、例年同様、統一要求基準に設定しており、「『賃金所得の一部としての安定的確保要素』と『企業業績による成果配分要素』を総合的に勘案して、平均で年間5カ月分を中心とする」と設定。産別ミニマム基準は年間4カ月分確保と定めた。

「一定の条件」は中闘連絡会など厳格な運営のもとで決定

昨年の闘争では、「開発・設計職基幹労働者」の賃金水準改善について、中闘組合は1,000円の引き上げで妥結し、6年連続の水準改善となった。ただ、経営側からは、「『人への投資』の総原資をどう活用するかは、月例賃金などの金銭的な処遇条件にこだわらず各社労使の主体的な論議により柔軟に決めるべき」との主張が繰り返された。そのため、電機連合では2019闘争以降、「人への投資」の柔軟性をいかに実現できるかについて中闘組合・拡大中闘組合などと研究・検討を重ねた。

検討の結果、今年の方針では、「統一闘争を堅持し賃金水準の改善を基本としつつも、一定の条件を満たす場合に限り、妥結における柔軟性を認める」ことにした。その判断については「闘争期間中に実施される中闘連絡会などで確認するなど、厳格な運営の下で判断する」とした。

中央委員会初日に会見した野中委員長は、柔軟性を認める場合の「一定の条件」のイメージについて、「(賃金水準引き上げの対象としている)この基本賃金を曲げて、そこを拡大解釈して柔軟性を認めていこうとは思わない。ただ、ある程度の条件が揃えば、例えば、(各組合が継続して水準到達をめざしていく)政策指標で打ち出している絶対額があるが、その目標とする数字を超えたら一定の条件として満たされる、とか、賃金により類似した項目について一定の条件と満たす、などが考えられる。いずれにしても、厳格な運営のなかで一定の条件をつくって、それを超えたら柔軟性を認めることもあるというレアケースの形で論議されている段階。具体的な交渉が始まってみないとわからない」と説明した。

柔軟性は「統一闘争継続のために重要」(パナ労連)

今年は、2年に一度の労働協約の改定年にあたる。労働協約改定項目では、総実労働時間の短縮や同一価値労働同一賃金の実現に向けた取り組み、誰もが働きやすい職場環境の実現に向けた取り組みなどを盛り込んだ。総実労働時間の短縮では、労使委員会や労使協議の場において、働き方改革に関する会社方針を確認する。時間外労働を縮減するため、36協定では特別条項の限度時間について、1カ月80時間以下、1年720時間以下での締結を徹底する。

方針討議では、パナソニックグループ労連、NECグループ労連、全富士通労連、日立グループ連合、メイテックグループ労連の5組織から発言があった。

パナソニックグループ労連は、「6年間、賃金テーブルの書き換えを伴う総額1万円の水準改善の取り組みや、激変する経済環境を踏まえると、今回の要求は昨年と同水準とはいえ、重みは昨年の比ではない。また、水準改善を積み上げることの重要性は認めるものの、質・量ともに多様化する生活、雇用、将来不安の払拭に向けては、総合的かつ中長期を見据えた視点で自らの労働条件を考えていくことが必要だ」と述べたうえで、今回方針に盛り込まれた「人への投資」の柔軟性について「電機連合の統一闘争において、人への投資を継続するため、あるいは統一闘争を継続するための重要な内容だ。この変化点を踏まえ、役割と意義を自覚したうえで、総合的な労働条件の改善に向け取り組みを進めていきたい」とコメントした。

日立グループ連合は「今春闘でも多様な人材への投資という意味での労使論議がなされるだろう。また、経営側が主張するであろう、メンバーシップ側のメリットを活かしながらジョブ型を組み合わせるといった自社型雇用システムの検討の議論は避けられない。統一闘争の論議や結果次第では今後の闘争に影響するかもしれない」と厳しい交渉展開を見通したうえで、「おそらく、業界横並びの集団賃金交渉が実態に合わなくなってきていると経営側は主張するであろうが、電機連合統一闘争は、日本全体の賃金相場形成に果たす役割があり、また、中小企業を含む全体の底上げにも有効に機能していると考えており、この機能を失うことは日本社会にとってむしろマイナスだ」と強調。「現下の低成長時代にあっては、経済成長に必要な社会的コンセンサスとして、全体的にベースを上げる部分は集団的労使関係のなかで、一方、自社の実情に応じて検討する部分はこれまでどおりミクロの個別労使交渉のなかでと切り分けることは十分に検討に値する。世界から、物価が上がらず、賃金も安い国と見られてしまわないよう、労働組合の使命として結果を残すことが求められる」と闘争にかける意気込みを語った。