絶対額重視に加え、企業内最賃も取り組みの柱に/自動車総連の2020賃上げ方針

2020年1月15日 調査部

[労使]

自動車総連(髙倉明会長、約79万人)は9日、愛知県名古屋市で中央委員会を開催し、今春の賃上げ交渉に向けた「2020年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。昨年の取り組みと同様、賃金の絶対額を重視し、各単組が自らの賃金課題にもとづいた賃上げ要求額を設定するとした。企業内最低賃金の取り組みをこれまで以上に強化し、協定未締結の単組は必ず新規締結に向けた要求を行うことも盛り込んだ。

昨年の賃上げ交渉から引き上げ基準額を示さず

自動車総連は、賃金の絶対額を重視した取り組みを重視するとともに、単組が自らの賃金課題にもとづいた賃上げ要求をしていくため、2019年方針から、産別としての平均引き上げ方式での具体的な引き上げ額を提示しないことにした。

今年もその方針は継続。2020年方針は、月例賃金の具体的な取り組みについて「全ての単組は、2020年総合生活改善の『取り組みの意義』を踏まえ、賃金の底上げ・底支え、格差是正に向けて取り組む」と記述するとともに、「取り組みにあたっては各単組自らが考え、それぞれの目指すべき賃金水準及び賃金課題の解決に向けて主体的に取り組む」と明記。取り組み方としては「『個別ポイント賃金の取り組み』と、その実現に向けた『平均賃金の取り組み』を併せ持って取り組む」とした。

取り組み基準をみると、「全ての単組は、求める経済・社会の実現、自らの目指すべき賃金水準の実現および賃金課題の解決に資する基準内賃金の引き上げに取り組む」とし、個別賃金要求における要求ポイントでは、昨年と同様「技能職若手労働者(若手技能職)」と「技能職中堅労働者(中堅技能職)」の2点を設定。両点について、単組が目指すべき水準を、ミニマムから上位単組が目指すべき水準まで5段階に分けて示した(若手技能職が21万5,000円~32万3,200円、中堅技能職が24万円~37万円)。

平均賃金の取り組み基準では、一般組合員については「全ての単組は、現下の産業情勢を認識する一方で、物価上昇、労働の質的向上、賃金の底上げ・底支え、格差是正の必要性などの要素を総合的に勘案し、賃金カーブ維持分を含めた引き上げ額全体を強く意識した基準内賃金の引き上げに取り組む」とし、要求額については各単組が目指すべき賃金水準や賃金について抱える課題の解決に向けて「自ら取り組むべき賃金水準を設定し要求する」とした。

非正規雇用も今回は単組自らが引き上げ額を設定

「非正規雇用で働く仲間(直接雇用)」については、昨年は「一般組合員との取り組みの連関性を強く意識しつつ、原則として、時給20円を目安とした賃金改善分を設定する」と具体的な時給引き上げ額を明記したが、今回は「一般組合員との取り組みの連関性を強く意識し、これまでの取り組みを踏まえ自ら取り組むべき賃金水準を設定し要求する」とした。なお、過去2年の平均要求実績額は2019年が時給22.7円で、2018年が19.8円となっている。

18歳最賃協定額では16万4,000円以上を目指す

今回の方針では、賃金の絶対額を重視した取り組みに並べて、企業内最低賃金の取り組みをこれまで以上に強化していく姿勢を明確にしたことも特徴。企業内最低賃金額を引き上げることで、自社の魅力を向上させたり、自社の社員の賃金の底上げ・底支えを図るだけでなく、特定最低賃金への波及も狙いとして掲げる。

具体的な取り組みとして、全ての単組が協定締結と水準引き上げ、対象者拡大に取り組むことを盛り込み、取り組み基準を「(1)協定未締結の全ての単組は、必ず新規締結に向けて要求を行う(2)すでに締結している単組は、それぞれの状況を踏まえ、着実に取り組みの前進を図る」と設定。取り組みにあたっては金属労協(JCM)の中長期的目標(月額17万7,000円程度)を目指しながら、要求する締結額については、18歳要求額は「16万4,000円以上」とし、締結額の引き上げに向けては「高卒初任給に準拠した水準での協定化を目指す」などとするとともに、締結対象の拡大に向けては「非正規雇用で働く仲間への対象拡大を目指して取り組む」とした。

年間一時金の要求については「年間5カ月を基準とする」とした。

「経済の自律成長、将来不安の払拭に向け賃上げが必要」(髙倉会長)

中央委員会であいさつした髙倉会長は、世界経済と日本経済を取り巻く環境情勢について、厳しい認識を示す一方、「わが国経済が安定的かつ持続的な成長を遂げていくためには、国内外の様々な変動要因に耐えうる『強固な日本経済』、すなわち個人消費が経済をリードし底支えする内需主導の経済体質を構築していくことが不可欠であり、そのためにも今次取り組みを強力に推進していかなければならない」と強調。

今年の賃上げの取り組みの意義について、「2014年以降、働く者の賃金の底上げ・底支え、格差是正に向けて、賃上げの取り組みを継続してきたなか、昨年の取り組みからは『上げ幅』だけでなく『絶対額を重視した取り組み』を推進し、目指すべき賃金水準の実現に向けて大きな一歩を踏み出した。しかしながら、個人消費は依然として力強さを欠き、実質賃金もマイナス傾向で推移するなど、働く者の消費マインドの向上にはつながっていない。業種間・企業規模間・雇用形態間などの格差是正の取り組みも道半ばであり、日本経済の自律的成長、そして全ての働く者の将来不安の払拭に向けては引き続き賃上げに取り組む必要がある」と述べた。

一方、企業内最低賃金の取り組みに関しては「企業内最低賃金の意味合いや必要性、すなわち自社で働く全ての人たちの安心・安定感に結びつくことや、特定最低賃金への波及を通じ、未組織労働者や非正規雇用で働く仲間にも影響を与えることなどをしっかりと理解し、すべての単組にて協定の新規締結や水準引き上げ、対象者拡大といった取り組みを進めてほしい」と要請した。

方針変更で要求幅が上方へ拡大

同日の会見で髙倉会長は、目下の自動車産業の業況について「総じて部品メーカーを含め減収減益となっており、期の途中での業績の下方修正も相次いでいる」と説明する一方、「厳しい時だからこそ、それを乗り越えるためには、企業の競争力拡大の最大の源泉である働く人への投資を今こそすべきだ」と強調した。

単組が主体的に引き上げ額を設定する方針については「産別が3,000円を引き上げ基準としていた時は、単組の要求額が3,000円に収れんしたが、昨年方針を変えたことで要求の幅が上方に広がった」「決着後に、賃金課題について労使検討委員会を設置する単組がいくつも出ている」などと述べて、引き上げ額を提示しないことによる好影響をアピールした。自動車総連によれば、昨年の取り組みで、配分や賃金制度の見直しなどについて労使委員会や労使で継続的に協議することを確認した単組数は57あったという。

トヨタ労組が評価結果に応じて、賃上げ原資を分けて配分する要求を検討しているとの報道があったことに関連して、そうした要求方式の他労組への影響を尋ねられた金子晃浩事務局長(トヨタ労組出身)は、トヨタ労組に対する直接的な言及は行わなかったが、「そもそもトヨタをはじめ、自動車総連加盟単組で組合員一律にベアを配分しているところは現実的にはなく、役職や資格に応じた配分がなされている。今回取り上げられたような内容は、とくに新しいものとは捉えていない」と感想を語った。