個別賃金による要求方式を基本に/JAM2020春季闘争方針の職場討議案

2019年12月11日 調査部

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(安河内賢弘会長)は12月1日から2日間、滋賀県大津市で2020年春季生活闘争中央討論集会を開催し、本部が提示した2020春闘方針の職場討議案(闘争方針大綱)について、地方組織や単組を交え意見交換した。方針大綱は来春闘に向けた基本的なスタンスとして、「賃金の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組みを継続」すると表明。今年も個別賃金要求方式の考え方を基本として産業内格差や企業内格差などに取り組むとしている。なお、月例賃金水準の引き上げ基準としては2019春闘と同様、「賃金構造維持分平均4,500円に6,000円を加え、1万500円以上」と設定した。

底上げ、底支え、格差是正の取り組みは継続

JAMには、ダイキン工業やコマツ、クボタなど大手労組も加盟するものの、加盟単組の8割以上を300人未満の中小が占める。そのため、特に大手に比べると賃金水準が見劣りする中小労組の賃金水準向上を図るため、2017年から個別賃金要求の取り組みを方針の最前面に掲げている。

方針大綱は、来春闘に向けた基本的なスタンスとして、「賃金の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組みを継続し、情勢も踏まえ、すべての単組が、月例賃金の引き上げを中心とした『人への投資』の取り組みを行う」と表明。賃金水準の引き上げにあたっては、「所定労働時間で生活できることを前提に、個別賃金要求方式の考え方を基本とし、『産業内格差』及び『企業内格差』の是正、社会的水準の確保、30歳または35歳の一人前労働者、標準労働者の賃金水準開示など具体的に取り組む」と強調した。

賃金要求の考え方については、「すべての単組は、賃金の『底上げ』『底支え』『格差是正』に向け、賃金の絶対額を重視した取り組みを追求する。自らの賃金水準のポジションを確認したうえで、JAM一人前ミニマム基準・標準労働者要求基準に基づき、あるべき水準を要求する」と賃金の絶対額にこだわる姿勢を明確にし、産別としての月例賃金の引き上げ水準については連合の2020春季生活闘争方針も踏まえ、「構成単組は、あるべき水準との乖離を確認した上で、『底上げ』『底支え』と『産業内及び企業内の格差是正』をめざし、月例賃金水準の引き上げを中心に、賃金構造維持分を除き、6,000円を基準とし『人への投資』を要求する」と記載した。討論集会の冒頭で方針大綱を説明した水口雅文・労働政策委員長は、「経済情勢が悪化しているからこそ、踏ん張って闘わないといけないということが大前提となる」と参加者に檄を飛ばした。

一人前ミニマム基準は18歳~25歳までを引き上げ

賃上げ要求基準の具体的な内容を見ると、個別賃金要求基準では、組立や加工などの仕事において一人前の技能を保有する労働者がたどる賃金カーブの目安である「JAM一人前ミニマム基準」(所定内賃金)について、組合員の賃金全数調査の結果をもとに18歳:16万4,000円、20歳:17万7,000円、25歳:20万9,000円、30歳:24万円、35歳:27万円、40歳:29万5,000円、45歳:31万5,000円、50歳:33万5,000円と設定した。18歳から25歳までの額については、「未達成組合が1割程度に減少してきたことから」(水口労働政策委員長)昨年から1,500円~2,000円の範囲で引き上げた。

到達基準的意味合いの標準労働者の要求基準については、高卒直入者の所定内賃金で30歳・35歳という二つの年齢ポイントを掲げ、「全単組が到達すべき水準」である【到達基準】では30歳を27万円、35歳が31万円、「到達基準に達している単組が目標とすべき水準」である【目標水準】では30歳を29万円、35歳が33万円と設定した。これらは昨年と同額となっている。

平均方式での要求基準では賃上げ分6,000円を提起

一方、中途採用者や無期転換された有期雇用労働者の、採用時賃金の最低規制の意味合いを持たせている「年齢別最低賃金基準」については、18歳ポイントを16万4,000円、25歳を16万7,500円、30歳を19万2,000円、35歳を21万6,000円と設定。18歳と25歳については、一人前ミニマム基準の増額に連動させて額の引き上げを行っている。

個別賃金要求を前面に掲げているとはいえ、現実的には多くの単組が平均賃上げ方式で要求していることを踏まえ、今年も平均賃上げ要求基準も示している。具体的には、連合方針における賃金引き上げ目安(2%程度)を踏まえ、「JAMの賃金構造維持分平均4,500円に6,000円を加え、1万500円以上とする」と昨年と同じ記載内容とした。

時間当たり賃金についても点検

月例賃金以外の項目を見ると、企業内最低賃金協定では、18歳以上企業内最低賃金協定を締結していない単組は締結に取り組み、年齢別協定を締結していない単組は一人前労働者の賃金カーブをもとに協定を締結するなどとしている。

一時金要求については「(1) 年間5カ月基準または半期2.5カ月基準の要求とする (2) 最低到達基準として、年間4カ月または半期2カ月」とした。

労働時間の取り組みでは、残業に依存しない賃金や仕事を確立するとの狙いから、「36協定(労基法36条)は免罰効手続きであることを労使で再確認したうえで、時間当たり賃金や仕事量・適正人員の点検を行う」ことも盛り込んだ。

取引条件の改善など「価値を認めあう社会へ」の取り組みでは、昨年と同様、全単組が取引条件の見直しを企業に要請する。

「春の闘争のために単組基盤の強化を」(水口労働政策委員長)

方針大綱について議論した分散会では、「平均賃上げ方式で要求せざるをえない単組はまだ多く、平均方式での6,000円の引き上げ基準についての根拠を産別として明確に示してほしい」「別の産別労組の企業との取引のなかで厳しい要請を受けることもあることから、『価値を認めあう社会へ』の取り組みについては他産別にも働きかけてほしい」「60歳以降の高齢者の処遇向上をどのように進めたらよいか、処遇についての具体的な目安を産別として示して欲しい」などの意見が出された。

分散会後の全体のとりまとめのなかで水口労働政策委員長はあらためて、賃金プロット図を使って賃上げ根拠を経営側に説明することや、賃上げ後の配分にも組合が主体的にかかわることの重要性を強調。また、より効果のある賃上げ闘争を展開するため、日頃の組合活動の基盤強化の必要性なども訴えた。