3,000円以上の賃上げに取り組む/金属労協の2020闘争方針

2019年12月6日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の五つの産業別労組で構成する金属労協(JCM、200万人、議長:髙倉明・自動車総連会長)は12月4日、都内で協議委員会を開き、2020春闘方針となる「2020年闘争の推進」を決定した。方針は「経済・産業情勢は大変厳しい状況にある」としたうえで、「だからこそ、基本賃金の引き上げを基軸とする賃金・労働諸条件の引き上げに取り組む」と強調している。賃金引き上げの要求基準は2019闘争同様、「定期昇給など賃金構造維持分を確保した上で、3,000円以上の賃上げに取り組む」としている。

賃金・労働諸条件の引き上げに強力に取り組む

方針は要求の柱に、 ① 「生産性運動三原則」の実践 ② 「人への投資」の拡充 ③ 底上げ・格差是正 ④ バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」――を掲げた。2020年闘争に向けた基本的な考え方として、米中貿易摩擦などの国際環境の悪化に加え、消費税率引き上げ後の需要の落ち込みもあり、方針では「一部に好調な業種・企業も見られるものの、全体として、輸出の減少・生産・出荷の低迷、中国にある現地法人の不振など、大きな打撃を受けている」などと分析。そのうえで、「経済・産業情勢は大変厳しい状況にあるが、だからこそ、基本賃金の引き上げを基軸とする賃金・労働諸条件の引き上げに強力に取り組み、生活の安定と向上、産業の新たな発展基盤の確立、経済の持続的成長を実現するための『人への投資』を継続的に行っていかねばならない」との基本姿勢を前年に続き強調している。

「人への投資」が最優先、基本賃金の引き上げ基軸に/髙倉議長

髙倉会長はあいさつで、「今次闘争を取り巻く環境は、日本経済では減速傾向が続くことが懸念される」などと指摘。「このような情勢のなかで経営側は、昨年以上に労働コスト・人件費の引き上げに対しては慎重になり、『人への投資』を抑制してくることが予想される」と述べた。そのうえで、「それでは個人消費の活性化にはつながらず、経済や企業の成長を阻害することになると同時に、働く者の意欲や活力、希望が損なわれ、企業の競争力の最大の源泉を削ぐことにつながる」と主張。「企業の経営環境の厳しさが深まる今だからこそ、経営として最優先で考えるべきことは『人への投資』であり、その手法は基本賃金の引き上げが基軸だ」と強調した。

個別賃金で35歳・技能職の基準を設定

具体的な要求内容を見ると、賃金では「定期昇給など賃金構造維持分を確保した上で、3,000円以上の賃上げに取り組む」とした。JCMが平均方式で3,000円以上の引き上げ方針を掲げるのは5年連続。その一方で、賃金の絶対水準での底上げ・格差是正を図ることと、日本の基幹産業にふさわしい賃金水準を確立する観点から、35歳相当・技能職の個別賃金での基準も示した。

35歳相当・技能職の基準は、 ① 「目標基準(各産業をリードする企業の組合がめざすべき水準)」として基本賃金33万8,000円以上 ② 「到達基準(全組合が到達すべき水準)」として同31万円以上 ③ 「最低基準(全組合が最低確保すべき水準)」として到達基準の80%程度(24万8,000円程度)――の3通りを設定した。なお、ここでの基本賃金は、所定内賃金から家族手当、住居手当、地域手当、出向手当などの各種手当を除いた賃金を指す。

企業内最賃で月額17万7,000円、時間あたり1,100円程度の中期目標も

金属産業で働く者の賃金の底上げを図る「JCミニマム運動」では、 ① 企業内最低賃金協定の全組合締結と水準の引き上げ ② 特定最低賃金の水準引き上げ ③ 「JCミニマム(35歳)」の取り組み--を展開する。

金属産業全体で働く者全体の賃金の底上げ・格差是正に寄与する「企業内最低賃金協定」は、非正規雇用も含めた協定の全組合締結をめざす。協定の水準は高卒初任給準拠を基本とし、具体的には地域別最低賃金の水準が2019年度と同程度の引き上げが行われていくと仮定して、「2022年度には、全国加重平均が1,000円程度、とりわけ東京都、神奈川県では1,100円程度となることが見込まれる」と予測。「当面、少なくともこれに抵触しない水準として月額17万7,000円程度(時間あたり1,100円程度)を中期目標とする」ことを掲げた。各産別は、この中期的目標の達成に向けて計画的に取り組みを進める。

地域別最低賃金が上昇するなか、産業の魅力を高めて人材を確保するなどの観点から「特定最低賃金」も、「取り組みを一層強化する必要がある」とした。すべての特定最低賃金について金額の改正に取り組むとともに、企業内最低賃金協定に準拠した水準への引き上げをめざす。さらに、地域別最低賃金に対する水準差を維持・拡大するため、地域別最低賃金の引き上げ額以上の引き上げ額を確保する。

金属産業で働く35歳の勤労者の賃金水準を下支えする「JCミニマム」の水準は、基本賃金を月額21万円と定め、各組合は賃金実態を把握したうえで、この水準以下で働くことのないよう取り組む。

一時金は従来同様、「年間5カ月分以上」を基本としたうえで、「生計費の固定支出に相当する年間4カ月分を最低獲得水準と位置付けて、企業業績に関わらず確実に確保する」。

60歳以降の雇用と処遇改善にも取り組む

一方、働き方の見直しについては、2019闘争に引き続き、年間総実労働時間1,800時間の実現をめざす。所定外労働の削減や年次有給休暇の完全取得などによる総実労働時間の短縮とともに、1日あたりの所定労働時間の短縮や休日日数の増加など、所定労働時間を含めた所定労働時間短縮に取り組む。さらに、働き方改革関連法への対応でも、「労働時間規制や時間外労働の割増率については、労使協議の下で、法の求める以上の対応を迅速に実施する」としている。

仕事と生活の両立支援の充実では、「出産・育児、看護・介護、病気治療などを理由に、本人が望まない退職をすることなく、いきいき働き続けることのできる職場環境を整備していく」ことを要求。60歳以降の雇用と処遇改善については、「働くことを希望する者全員に、少なくとも65歳までの雇用を確保する」としたうえで、「『同一価値労働同一賃金』を基本として、60歳以前の世代との均等・均衡待遇を確保する」ことなどを求めていく。

バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の構築を

関連企業などを含むバリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の構築では、組織内および経営側に対し、考え方の一層の理解促進を図る取り組みを展開する。

具体的には、各業界団体の作成する「適正取引自主行動計画」や、経団連などの「長時間労働につながる商慣行是正に向けた共同宣言」に基づき、労組として納入側・購入側の双方の立場から職場レベルでのチェック活動を推進。産別労使、大手企業労使はバリューチェーンを構成する中小企業の付加価値の拡大に向けて支援策の検討も進める。

このほか、非正規雇用で働く労働者の雇用と賃金・労働諸条件の改善や、ものづくり産業・金属産業の健全な発展とそこに働く者の生活向上に向けた政策・制度要求実現の取り組みなども盛り込んでいる。