分配構造の転換につながり得る賃上げを/連合が来春の闘争方針決定

2019年12月6日 調査部

[労使]

連合(神津里季生会長)は12月3日、千葉県浦安市で中央委員会を開き、「2020春季生活闘争方針」を確認した。賃上げ要求水準は、「2%程度とし、定期昇給分(定昇維持相当分)を含め4%程度とする」としたうえで、今回は企業規模間と雇用形態間の二つの観点で、それぞれ目標水準と最低到達水準を設定。企業内最低賃金についても、「時給1,100円以上」を掲げた。神津会長は、「労働組合の有無にかかわらず、一人ひとりの働きの価値に見合った処遇が担保されなければならない」と述べ、分配構造の転換につながる賃上げを求めていく姿勢を強調した。

社会・経済の構造的な問題解決をはかる『けん引役』を果たす

方針は、2020春季生活闘争を「国民生活の維持・向上をはかるため、労働組合として、社会・経済の構造的な問題解決をはかる『けん引役』を果たす闘争」と位置付けている。

2020春季生活闘争の基本的な考え方について方針は、「家計の状況をみると、社会保険料負担の上昇が賃上げによる雇用者報酬増を上回る一方で、社会保障をはじめとする将来不安が一向に解消されないため、収入の増加分の大部分が貯蓄に回る等、極めて防衛的な行動となっている」などと指摘。「働く者の将来不安を払拭し、『経済の自律的成長』『社会の持続性』を実現するためには『人への投資』が不可欠であり、分配構造の転換につながり得る賃上げが必要だ」と強調し、そのために「すべての企業労使は日本経済の一端を担うという社会的役割と責任を強く意識し、すべての働く者の労働諸条件の改善につなげていかねばならい」とした。

中小や有期・短時間・契約等で働く者の賃金を『働きの価値に見合った水準』へ

また、「社会全体に賃上げを促す観点とそれぞれの産業全体の『底上げ』『底支え』『格差是正』に寄与する取り組みを強化する観点から、月例賃金にこだわり、賃上げの流れを継続・定着させる」「中小組合や有期・短時間・契約等で働く者の賃金の『格差是正』の取り組みの実効性を高めるためにも、働きの価値に見合った賃金の絶対額にこだわり、名目賃金の最低到達水準の確保と目標水準への到達、すなわち『賃金水準の追求』に取り組んでいく」などと説明。こうした観点から、賃上げについては、「底上げ」「底支え」「格差是正」の取り組みを再定義し、「広く社会全体に賃上げを促す」とともに、「企業内で働くすべての労働者のセーフティネットを強化していく」考えを示した。「中小組合や有期・短時間・契約等で働く者の賃金を『働きの価値に見合った水準』へ引き上げていく」ことも強調している。

企業規模間と雇用形態間での目標水準と最低到達水準を設定

具体的な要求内容を見ると、産業相場や地域相場を引き上げていく「底上げ」については、要求水準を「2%程度とし、定期昇給分(定昇維持相当分)を含め4%程度とする」とした。

「格差是正」は、企業規模間と雇用形態間の二つの観点で、それぞれ目標水準と最低到達水準を設定。「社会横断的な水準を額で示し、その水準への到達をめざす」こととした。

企業規模間の格差是正は、目標水準として「30歳:25万6,000円」と「35歳:28万7,000円」を提示。最低到達水準は、「30歳:23万5,000円」と「35歳:25万8,000円」を定めた。雇用形態間の格差是正については、目標水準を ① 昇給ルールを導入する ② 昇給ルールを導入する場合は、勤続年数で賃金カーブを描くこととする ③ 水準については、「勤続17年相当で時給1,700円・月給28万500円以上となる制度設計をめざす」考え。最低到達水準は、「企業内最低賃金協定1,100円以上」と定めている。なお、男女間の格差は、「職場実態を把握し、改善に努める」。

企業内最低賃金1,100円以上をめざす

産業相場を下支えする「底支え」は、「企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する」とし、締結水準は「生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、『時給1,100円以上』をめざす」。連合によると、1,100円の水準は、2017連合リビングウェイジと2017年賃金センサス高卒初任給を総合勘案して算出したものだという。

加盟組合の個人別データの収集に向けた支援を強化

方針は、賃金水準闘争を強化していくための体制整備も訴えている。中小組合や有期・短時間・契約等で働く者の賃金を「働きの価値に見合った水準」に引き上げ、企業内の男女間賃金格差を是正していくためには、「賃金実態の把握と賃金制度の確立が不可欠だ」と強調。構成組織が、「加盟組合の個人別賃金データの収集とその分析・課題解決策に向けた支援を強化する」ことに加え、産業や地域の相場を引き上げ、未組織労働者への波及効果を高めていくためにも、「地方連合会との連携を一層強め、地域における賃金相場の形成に向けて、『地域ミニマム運動』へ積極的に参画する体制を整える」考えも示した。

働き方の見直しや取り引き適正化の推進も

人手不足が深刻化し、企業労使にとって「人材の確保・定着」と「人材育成」に向けた職場の基盤整備が重要課題になるなかでの「すべての労働者の立場にたった働き方」の実現に向けた取り組みについては、2020年に「働き方改革関連法」が本格的な施行を迎えることを踏まえ、「『時間外労働時間の上限規制』の中小企業への適用、『同一労働同一賃金』への対応など法令遵守はもちろんのこと、有期・短時間・契約等で働く者の雇用の安定、65歳から70歳までの就業機会確保と60歳以降の処遇のあり方への対応、職場の安全対策、安心して育児・介護、治療と仕事が両立できるワーク・ライフ・バランスの実現など、個々人のニーズにあった多様な働き方の仕組みを整え、安心・安全で働きがいのある職場の構築に取り組んでいく」姿勢を強調した。

取引の適正化の推進に関しても、「大企業等による長時間労働是正をはじめとした取り組みが、下請け等中小企業への『しわ寄せ』とならないように取り組みを進めることが重要」「消費税増税分を確実に取引価格に転嫁できるよう、職場労使を含め連合全体で取り組むとともに、経営者団体および関係省庁と連携し社会全体に訴えていく」などと主張する一方で、「働く者は同時に消費者でもある」と指摘。「一人ひとりが倫理的な消費行動を日々実践していくことも大切な営みだ」として、消費者教育の推進を呼び掛けていくことも明記した。

生産性三原則の価値に対する認識を日本全体に拡げる/神津会長

神津会長はあいさつで、2020春季生活闘争を取り巻く情勢について、「緩やかな回復が続いていた成長は停滞感を見せている。国民の多くが将来不安を抱いてくらしているなかで、勤労者世帯の消費行動も慎重な動きが続いている」などと指摘。「だからこそ、この6年間、連合が思いを一つにして、それぞれの交渉努力の集積として実現してきた賃上げの流れを決して止めてはならない」と強調した。そのうえで、「むしろ、組織の内外に賃上げのうねりを広げ、社会全体のものとしていくことが重要だ」として、「労働組合の有無にかかわらず、一人ひとりの働きの価値が重視され、その価値に見合った処遇が担保されなければならない」などと述べた。

さらに、生産性三原則の重要性についても触れ、「私たちは、① 雇用の維持・拡大 ② 労使の協力と協議 ③ 成果の公正な配分――がいかに重要な概念かを知っているが、それはまだ世の中の一部にとどまっている」と説明。「その価値に対する認識を日本全体に拡げていかねばならない」などと訴えた。