「真の多様性」が根付く職場・社会の実現をめざす/連合が新運動方針を決定

2019年10月16日 調査部

[労使]

今年で結成30周年を迎えた労働組合ナショナルセンターの連合(神津里季生会長、686万人)は10月10、11の両日、東京・新宿文化センターで第16回定期大会を開催し、「2020~2021年度運動方針」を決定した。大会スローガンは、「私たちが未来を変える~安心社会に向けて」。運動方針では、「真の多様性」が根付く職場や社会の実現などを重点項目に据えた。役員選挙では、神津氏が3期目となる会長に選ばれた。

ビジョンを盛り込んで方針を策定

連合は1989年11月、全日本民間労働組合連合会(いわゆる民間連合)と官公労組が統一を果たし、結成。今年はちょうど結成30周年にあたる。30周年を迎え、連合は、ほぼ15年先の社会を展望した中長期的な運動と政策の方向性を示した「連合ビジョン 働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す」を策定した。大会で決定した新運動方針は、この「連合ビジョン」を踏まえた内容としているのが特徴だ。

「まもる」「つなぐ」「創り出す」運動を目指す

連合ビジョンでは、目指す社会像を「働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件のもと、多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型社会である。加えて、『持続可能性』と『包摂』を基底に置き、年齢や性、国籍の違い、障がいの有無などにかかわらず多様性を受け入れ、互いに認め支え合い、誰一人取り残されることのない社会」と定義。こうした社会の実現に向けて必要となる運動について、 ① 働く仲間一人ひとりを「まもる」運動 ② 働く仲間・地域社会を「つなぐ」運動 ③ 社会・経済の新たな活力を「創り出す」運動――と整理した。これらの運動を展開することで、「働く」「学ぶ」「くらし」「離職」「健康・長寿」という分野をつなぐ「安心の架け橋」をかけると主張し、公平・公正なワークルールの整備や雇用セーフティー強化など安心の架け橋を実現させるための具体的な政策パッケージを明示している。

中長期の改革パッケージも提示

新運動方針ではまた、① 運動領域と重点化 ② 組織体制・運営 ③ 人財の確保と育成④財政――の4項目に分けて、中期的な改革パッケージについても合わせて提起していることが特徴となっている。

運動領域と重点化では、運動資源を集中させる「重点分野」を設定することにした。組織体制・運営では、地方連合会・地域協議会の活動と運営体制の見直しや、新たな加盟形態の検討などに具体的に取り組むことを表明している。財政では、連合会費を含む財政改革の検討を進めることを盛り込んだ。改革パッケージに盛り込んだ取り組みのうち、すぐに実行できるものは運動方針に反映してすぐに取り組みを開始する。なお、パッケージの中身については、社会環境の変化を踏まえ、5年ごとに検証を行う。一方、平和・人権、国際労働運動など、他団体や個人、グローバル組織、政治と連帯しながら着実に活動を進める必要があるテーマについては「推進分野」と位置づけ、連合全体で相乗効果が発揮できるよう運動を刷新していくとした。

労働者代表制の法制化、協約拡張適用の仕組みづくりを検討

向こう2年間の今回の運動方針では、「重点分野」について、① 「すべての働く仲間をまもり、つなぐための集団的労使関係の追求と、社会に広がりのある運動の推進」 ② 「安心社会とディーセント・ワークを守り、創り出す運動の推進」 ③ 男女平等をはじめとして、一人ひとりが尊重された『真の多様性』が根付く職場・社会の実現」――の3分野を設定した。

具体的な活動内容をみていくと、「すべての働く仲間をまもり、つなぐための集団的労使関係の追求と、社会に広がりのある運動の推進」では、「労働者代表制の法制化」と「労働協約の拡張適用を可能とする法改正を含めた仕組みづくり」についての検討を挙げる。いわゆる「曖昧な雇用」で働く就業者について、「労働者概念の拡張も含めた法的保護に関する考え方を取りまとめ、その実現をはかる」ことも盛り込んだ。

また、現在、地方連合会に直加盟し、産別組織に加盟していない労組を念頭に置き、そうした中小地場労組の受け皿となれる加盟形態として、「地域ゼネラル連合(仮称)」を創設していくことを提起。さらに、フリーランスなども含めた多様な雇用・就労形態で働く人たちが緩やかに連合とつながる仕組みである「ネットワーク会員(仮称)」の創設について、検討を始めることも掲げた。

組織化戦略については、現在展開している「1,000万連合」の活動期間が2020年10月で終了することから、その後の戦略として「1,000万連合NEXT(仮称)」を策定するとし、連合本部、構成組織、地方連合会における体制を強化していくとしている。

解雇の金銭解決制度は導入を阻止

「安心社会とディーセント・ワークを守り、創り出す運動の推進」の分野では、「働き方改革関連法」の職場への定着をはかるため、36協定の適正化・労働時間把握など長時間労働是正の取り組みや商習慣の見直しを徹底する。パート労働者などと、正規雇用社員との間の不合理な待遇の是正に向けた労働条件改善などの取り組みも推進。解雇の金銭解決制度については「構成組織や地方連合会と連携し、導入阻止に向けて取り組む」とした。

賃金や中小企業の基盤強化の取り組みでは、春季生活闘争や通年の労使協議を通じて「賃上げ」「すべての労働者の立場に立った働き方の実現」の実現とあらゆる格差(規模間、雇用形態間など)の是正をはかると強調。「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正配分」の実現などの向けた取り組みも推進するとしている。

また、AIやIoTなどの技術革新の影響について、連合としての考え方をまとめる。

「フェアワーク推進センター」を設置

「男女平等をはじめとして、一人ひとりが尊重された『真の多様性』が根付く職場・社会の実現」の分野では、ハラスメント根絶に向け、ILO条約の批准に向けた取り組みや、職場のハラスメントの根絶を推進すると強調。「真の多様性」が根付く職場・社会の実現に向け、「フェアワーク推進センター」を設置することを打ち出した。同センターを通じて、従来のパート・有期労働者にとどまらず、フリーランスや外国人なども対象とした「真の多様性」の実現に向けたフェアワークの必要性・重要性を組織内外に広く発信し、労働相談体制のあり方を検討するとしている。なお、同センターの設置により、従来の「非正規労働センター」は発展的解消となる。

一方、推進分野では、政治活動について「健全な議会制民主主義が機能する政党政治の確立、働く者・生活者を優先する政治・政策の実現、与野党が互いに政策で切磋琢磨する政治体制の確立に向け、政権交代可能な二大政党的体制をめざすことなど、『連合の政治方針』の『連合の求める政治』を基本に、政治活動を進める」などと記述している。

「労働組合は、地域における重要なステークホルダー」(神津会長)

挨拶した神津会長は、連合ビジョンの考えを盛り込んだ新運動方針の実践に向け、「人々が互いに認め、認められ、支え合う共生社会の構築をめざして、労働組合は、地域における重要なステークホルダーとして、連携を強化し、共生社会の構築に向けた役割を担うことのできる存在だ。わが国に根強く巣食う自己責任論は極めて危険。オールフォアオール、皆が皆を支える社会の構築に向けともに歩んでいこう」と会場の組合員に呼びかけた。

神津会長挨拶

「働き方改革」については「これを本当の意味で社会に根付かせなければならない。その際、すべての働く者にとって集団的労使関係の確立と拡大が不可欠であることを、私たち連合はさらに強く訴えていかなければならない」と集団的労使関係の重要性を強調。賃金の問題については「『賃上げ』の流れをもっと社会全体の広がりにつなげていかなければならない」と述べた。

いわゆる曖昧な雇用の拡大についても言及した。神津会長は「とりわけ問題なのは、事実上、従属的雇用関係にありながら、法規定の解釈やその適用の課題によって当然の権利が与えられない労働者の増加が進んでいることだ」とし、連合が当該労組の闘争を支援している企業名をあげたうえで、「契約の形式を乱用・偽装すれば労働法を潜脱できるというビジネスモデルを断じて許してはならない」と訴えた。

会長、会長代行、事務局長は続投

運動方針に関する討議では、「フェアワーク推進センターでは、非正規労働センターが積み上げてきた知見や経験を活かして、対象を明確にした活動を」(UAゼンセン)、「解雇の金銭解決制度について本腰を入れた運動が必要だ」(全国ユニオン)、「(今後の審議会対応などに向けて)行動理念と経験を備えた連合プロパー職員の育成が必要」(JAM)、「連合評価委員会報告から16年が経過するが、連合が国民の共感を得られていないと指摘された状況は改善されていないどころか、むしろ進んでいるのではないか」(電機連合)など、13の加盟組織・地方連合会から発言があった。

役員選挙が行われ、会長に神津氏(基幹労連)、会長代行に逢見直人氏(UAゼンセン)と川本淳氏(自治労)、事務局長に相原康伸氏(自動車総連)が選ばれた。以上の上3役体制は前期から変更なし。神津氏は3期目の会長職となる。