2021年に定年延長を基本とした新制度導入の議論を/基幹労連定期大会

2019年9月13日 調査部

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連などの労働組合で構成する基幹労連(神田健一委員長、約26万5,000人)は9月5日から2日間の日程で、大阪市で定期大会を開き、第10期(2019年9月~2021年8月)の運動方針を確認した。春季取り組みの評価と課題では、大手組合と同水準の賃金改善に加え格差改善分を獲得した中小組合があることなどに触れて「賃上げの底上げ・底支えとなる回答を引き出した」などとする一方で、「格差が改善しているとは言い切れない」とも明記して、今後の取り組み方を議論していく方針を示した。65歳現役社会の実現に関しては、「2021年に定年延長を基本とした新たな制度導入にむけた加盟組合の交渉状況をフォローするとともに、全ての加盟組合が『労使話し合いの場』を設置し、確実に議論を進める」としている。

基幹労連の春季労使交渉は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方にたち、2006年の労使交渉から2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)で統一要求を掲げる形をとっている。1年目は「総合改善年度」と位置付け、大手が中心になって賃金などの主要労働条件を集中的に交渉。2年目は「個別改善年度」として、企業・業種間の格差是正などを主要交渉項目とするが、2016年のAP16からは業種・部会による単年度の要求・交渉を容認。同年の労使交渉からは、総合(大手)でも総合重工や非鉄総合の労組が単年度の要求・交渉を行っている。

業種・部門のまとまりで取り組んだ前回のAP春季取り組み

前回のサイクルでは、2018年が「総合改善年度」にあたり、「2018年度3,500円、2019年度3,500円以上を基本とする」との方針を設定した。ただし、2年サイクルとはいえ、部門や部会でまとまりをもって取り組むことを前提に、単年度ごとに賃金について要求・交渉することも可能とした。

その結果、大手では鉄鋼総合各社が2年分の賃金改善に取り組み、「2018年度1,500円、2019年度1,500円」で決着。一方、総合重工各社と非鉄総合各社は、2018年度分だけの交渉を行ったため、今次交渉で2019年度分の賃金改善を要求した。こちらは前年同様、3,500円(JX金属は3,100円)の賃金改善を要求し、総合重工は三井E&Sを除く6社が1,500円の賃金改善で決着。非鉄総合は三菱マテリアルを除く4社が賃金改善の実施となった。

AP19では167組合が前進回答を獲得

こうした状況について、大会で報告された「AP19春季取り組みの評価と課題」は、「示された回答は、要求に込めた思いをすべて満たすものではない」としながらも、「前進回答が167組合と、多くの組合で有額回答を引き出した」「業種別組合においては、総合組合と同水準の賃金改善に加え格差改善分を獲得するなど、賃上げの底上げ・底支えとなる回答も引き出した」などと指摘。「回答は、部門・部会がまとまりをもってとりくんだことによる相乗効果もあって、引き出された成果だ」と評価した。

賃金面の今後の課題については、一部の組合で有額回答を引き出せなかったことに言及。「業種別組合を牽引すべき総合組合の役割・責任として、これまで以上に総合部会のまとまりに拘りをもって取り組んでいかなければならない」ことを挙げ、大手組合に対する中小組合への積極的なフォローの必要性を強調した。

また、大手組合と中小組合の格差についても、「基幹労連の過去6年間の賃金改善結果を合算すると、1,000人以上規模では6,385円に対し、300人以上で5,463円、300人未満で4,332円となっている」などと分析。「総合組合との格差が改善しているとは言い切れない」として、今後の取り組み方を検討していく姿勢を打ち出した。

全体の基盤が整備された「65歳現役社会」の実現の取り組み

また、基幹労連では、「65歳現役社会」の実現に向けた労働環境の構築に取り組み、労使話し合いの場の設置などの基盤整備を推進している。19春季取り組みのスタート段階では、256組合で『労使話し合いの場』が設置されており、19春季取り組みでは18組合が要求し、15組合が前進回答を引き出した。加えて、91組合が現行制度の改善を求め、67組合が前進回答を引き出しているという。

こうした状況について「評価と課題」は、「回答は、会社が組合の主張を一定程度理解した結果であり、『65歳現役社会』の実現にむけた労働環境の構築について、今後具体的な取り組みを進めるにあたり、基幹労連全体で取り組む基盤が整備されたもの」と強調。そのうえで、「多くの組合で話し合いの場が確保できたが、いまだ会社の理解を得られていない組合や、要求すらできていない組合がある」として、今後は「60歳以降者の処遇改善をはかるうえで、早急に『労使話し合いの場』を確保するとともに、60歳以降者が非組合員になっている組合については組織化にも取り組む必要がある」と訴えた。

人を真ん中に据えた第4次産業革命への対応も

一方、新運動方針では、AP20・21春季取り組みに向けて、「2年サイクル運動を基本におき、AP18・19春季取り組みのなかで一定の収れんの結果として確認してきたAP春季取り組みに関する考え方のもと、『魅力ある労働条件づくり』と『産業・企業の競争力強化』という『好循環』をしっかりと回すことができる方針を検討していく」とした。

65歳現役社会の実現に関しては、「2021年に定年延長を基本とした新たな制度導入にむけた加盟組合の交渉状況をフォローするとともに、全ての加盟組合が『労使話し合いの場』を設置し、確実に議論をすすめられるよう、時宣を得た状況把握とフォローを行う」としている。

このほか、方針は産業政策の取り組み項目のなかで、「常に人を真ん中に据えた第4次産業革命への対応」も記載。基幹労連の各産業に与える影響について、「具体的な検討をすすめ必要な政策を立案・推進する」とともに、第4次産業革命が「労働政策等にどのようにかかわってくるのか、その影響はどの程度あるのか等の具体的な検討」を行う考えを示している。

神田委員長はあいさつで第4次産業革命について、「基幹労連に関わる各企業において直接的な影響はまだ出ていない」としながらも、「これからの働き方や生活にも関わる課題であり、それをいかに職場の仲間とともに意識し対応していくかを探っていかなければならない」と指摘。「変化に対しても技術を人間中心に生かしてこそ、すべての労働者・仲間が変革に対応できる土壌づくりにつながり、働きがい・生きがいを創り出していく」と強調した。

津村正男氏を新事務局長に選出

役員改選では、神田委員長が再選。弥久末顕事務局長は退任し、後任に三菱重工グループ労働組合連合会の津村正男氏を選任した。