「日本経済の危機を乗り切るには賃上げしかない」(安河内会長)/JAMの定期大会

2019年9月11日 調査部

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱える産別労働組合、JAM(安河内賢弘会長、37万人)は8月29、30日の両日、岐阜県岐阜市で定期大会を開催し、向こう2年間の新運動方針を決定するとともに、2019年春季生活闘争総括を確認した。挨拶した安河内会長は来春闘について、「日本経済全体の危機を乗り切るには、マクロ経済の観点では賃上げしか残されていない」などと述べ、連合、金属労協とともに、賃上げに向けた世論を巻き起こしていく必要性を強調した。

賃金改善獲得額は1,618円で昨年並み

2019年春季生活闘争総括によると、最終集計による賃金改善獲得額(賃金構造維持分を明示できる組合ベース)は1,618円とほぼ昨年(1,597円)と同水準となっており、ベア・賃金改善が復活した2014年以降では2015年に次いで高い水準となっている。

平均賃上げでは、妥結額の平均は5,340円で、同一単組で前年と比較すると、規模100人未満では昨年水準を上回った。なお、JAMは、2019年闘争の要求方針では個別賃金要求を前面に押し出すとともに、平均賃上げでの要求基準は、賃金構造維持分(平均4,500円)に賃金改善分の6,000円を加えた1万500円以上とした。

個別賃金の水準開示単組数は、30歳の現行水準が570組合、要求水準が290組合、確定水準が192組合で、35歳では現行水準が552組合、要求水準が268組合、確定水準が180組合となっており、開示単組数は昨年からほぼ横ばいとなっている。

個別賃金の水準をみると、現行水準では30歳(23万3,845円)、35歳(26万3,016円)ともに、6割弱の単組が「JAM一人前ミニマム」(年齢別に定めたミニマム達成基準、30歳が24万円、35歳が27万円)に到達していない。個別賃金での現行水準、要求水準、確定水準が揃う単組の賃金改善額の平均をみると、30歳が2,375円、35歳が2,247円で、平均賃上げ集計での賃金構造維持分を明示できる単組の賃金改善分を上回る結果となった。

賃上げ水準はマクロ要請からは不十分

総括は今後の課題について、個別賃金の推進と格差是正の取り組みに関しては、「個別賃金の取り組みが平均賃上げより優位性があることを踏まえ、地方JAMにおける単組のサポートの推進、組合員賃金全数調査の継続と拡大、水準データの開示の推進をはかる必要がある」などとし、取り組みにあたっては「銘柄・賃金区分の明示、地方別、産業別、業種別といった目標水準の検討と設定など取り組みの充実を図る必要がある」と記述。個別賃金水準の開示件数が横ばいとなっている点については、「再点検した上で、通年の取り組みとしていく必要がある」とした。

賃上げ水準については「賃金改善について一定の成果はあったものの連合が求めるマクロの要請としての2%からは乖離しており不十分である」と総括し、「労働者へのマクロの分配については、物価変動を考慮した実質賃金の状況についても確認していく必要がある」などとした。

また、この6年間で、賃金構造維持分を明示している単組の5%が、一度も賃金改善を行っていないことなどを明らかにし、「春季生活闘争の要求ができない単組や賃金改善のできない単組の実態把握を行い、企業経営対策を含めた取り組みの支援を行う必要がある」とした。

「来季は本当に難しい春闘に」(安河内会長)

来年の春闘に向け安河内会長は、挨拶のなかで、「来季は本当に難しい春闘になる。足下の業績は自動車関連を中心に急激に悪化している。電機関連も自動車ほどでないにしても昨年度を大きく下回っている状況にある」と厳しい環境情勢に触れる一方、「原材料費やエネルギー価格の高騰は昨年以上に進んでいる。物価上昇率は足下で0.5%、10月には消費税率の上昇があるので、確実に物価は上がる」と指摘。金融政策での景気浮揚の限界などに言及したうえで、「日本経済全体の危機を乗り切るには、マクロ経済の観点では賃上げしか残されていない。単組の奮闘が最も重要であることは変わらないが、それ以上に連合、金属労協、JAMがしっかり世論を巻き起こし、政府・与党や経団連にどれだけ厳しく対峙できるのかが問われる」と強調した。

機械金属産業以外も組織化へ

新たな運動方針では、組織拡大や強化の取り組みや、企業組織の再編への対応などを活動の柱に盛り込んだ。JAMが2019年度、会長らが地方と地協を回り意見交換する「JAM総対話行動」を展開したところ、「単組役員の人材不足」、「単組機能の低下」、「組合内不要論」、「オルガナイザーの力量低下」などの課題が浮き彫りとなった。方針は、単組の組織強化に向けて、単組の執行部と組合員が一体となった組合活動の推進体制を地協がこれまで以上にサポートしていくことや、地協活動の強化などを盛り込んだ。単組が集う地協の会議開催を少なくとも年6回とすることを方針化し、また、参加率が低い個別単組の原因を明らかにし、参加率の向上を図る。

組織拡大では、組織拡大戦略として「5つの領域」を設定。5つの領域は、 ① 有期契約労働者(再雇用、有期・パート、嘱託ほか) ② JAM加盟単組の関連組織 ③ 労働相談を中心とした未組織事業所および未組織労働者の組織化 ④ 産別未加盟組織、業種別共闘に結集する中立組合 ⑤ 「中小ものづくり産業」を結集軸とする産業別組合――とした。今後は、機械金属産業にとどまらず、組織化活動を展開していく。

悪質企業には総力をあげて取り組む

企業組織を再編する動きが活発化するなか、JAMの加盟単組もその影響を受ける場合がある。方針は、再編への対応策として「組合員の雇用確保を第一義に『一連の対応の流れを掌握』しておくことが必要だとし、日常の交渉力の強化や再編を想定した協定の締結、本部・地方JAM・地協の連携強化などを盛り込んだ。

会社資本の変化によって、良好だった労使関係が突然、対立的な関係に一変する事例が発生している。大阪では、労働委員会で労使が争うケースも出ている。方針は、「悪質な企業・経営者、社労士に対して毅然と立ち向かい、労働者の権利を守るために、JAMの総力を挙げ取り組む」と強調。具体的には、「闘争の長期化にも対応できるよう単組内の闘争積立資金の強化を呼び掛けるとともに、JAM本部と地方JAM・地域協議会の物心両面の支援体制を構築していく」などとしている。

紛争中の単組支援の特別決議を採択

大会の一般活動報告では、大阪で紛争となっている当該単組の日本コンベヤ労組が現状を報告。労働協約やユニオンショップ協定を一方的に破棄されるなどの会社側の行為について、労働委員会に不当労働行為救済申し立てを行った結果、不当労働行為だとほぼすべて認められたが、会社側からは未だ謝罪はないなどの発言があった。

JAM大阪の代議員は「同労組の闘いの場は今後、中央労働委員会に移る」として、大会での支援の特別決議をすることを提案。大会手続に沿って正式に緊急提案され、「日本コンベヤ闘争支援決議」を採択した。大会で緊急提案があったのはJAM結成以来初めてのこと。

一般活動報告ではこのほか、岐阜の単組から、社長が交代し、ある企業グループ傘下になった途端にユニオンショップの破棄や労働協約の破棄を通告され、団体交渉を2年間行っているが平行線のままとの報告があった。大阪の別の単組は、好業績にもかかわらず「経営側の力であって、組合員の貢献ではない」として2017年でベアゼロ回答を受け、11日間ストライキを行ってベアを獲得したと報告したが、それ以降、報復として協約破棄を通告されたり、不当な降格人事、配置転換などが行われていると述べた。

大会ではまた、先の参議院選挙の中間まとめを確認した。組織内候補の田中ひさや・JAM副会長(国民民主党)は14万3,492票の個人得票だったが落選した。役員改選を行い、安河内会長、中井寛哉書記長は再任された。