活動方針に第4次産業革命への対応を追加/金属労協(JCM)定期大会

2019年9月6日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、髙倉明議長、200万人)は9月3日、都内で定期大会を開き、昨年決めた2年間の運動方針を補強する活動方針を確認した。方針は新たに、「第4次産業革命への対応」を追記。産業構造の転換や雇用・働き方の変化に関わる認識を深めるとともに、産業革命の成果を労働時間短縮に配分していくことなどを検討していく考えを示している。

外国人労働者に関する考え方を整理

金属労協は昨年決定した2年間の運動方針で、主軸となる活動を ① 国際活動と国内活動の相互連携 ② 産別を越える「場」の提供 ③ 産別共通課題への取り組み――の三本柱とし、そのうえで具体的な活動項目を15分野に整理することで、活動の「選択と集中」を図ってきた。今回は、各活動を補強するとともに、活動項目に第4次産業革命への対応を追加した。

補強内容を見ると、「国際活動と国内活動の相互連携」では、来年10月に開かれるインダストリオール第3回世界大会に向けて、主要組織との連携をさらに深め、主体的に議論に参画していくとしている。また、海外労組とは様々な機会を捉えて接点を模索し、収集した情報を加盟産別と共有する。

増加する外国人労働者への対応についても、長期的な労働力需給の見通しを前提に、基本政策の確立と、その具体的な施策の立案・実施を要求。JCMとしても外国人労働者に関わる問題についての考え方を整理し、外国人労働者が各事業所で勤務する場合の留意点を検討していく。

「産別を越える『場』の提供」では、2年前から実施しているオープンカレッジのウェブサイトなどを活用した加盟組合への周知を図るほか、情報共有の基盤づくりとして広報ツールの役割の明確化・内容の見直しを検討する広報担当者意見交換会の開催や、加盟組合向けサイトのリニューアルの検討を行っていく。

企業内最賃協定の基準引き上げを検討

社会的波及効果を目指した賃金・労働諸条件の改善などを掲げる「産別共通課題への取り組み」については、「生産性運動三原則」の具体化に向けて、「経営者団体等に働きかけるとともに、その今日的なあり方を検証し、議論を深める」としたほか、賃金制度の整備・改善の促進なども記載した。

そのうえで、2020年闘争についても言及。「消費税率引き上げの影響なども踏まえ、物価動向を注視しながら、実質賃金の維持・向上のための取り組みを強化していく」ことや、「賃上げ額はもとより、賃金水準による社会的相場形成によって底上げ・格差是正を強化するための具体的取り組みについて検討する」ことに加え、個別賃金水準や労働時間の実態調査を実施・充実することも明記した。

金属産業で働く者全体の底上げ・格差是正を図る特定最低(産業別)賃金に関しても、その基礎となる「企業内最低賃金協定の水準について議論を深め、2020年闘争に向けて、基準の引き上げを検討する」としている。

第4次産業革命の成果を労働時間短縮に配分していくことも

新たに追加した「第4次産業革命への対応」では、まず運動のポイントとして、「自動化の推進は、深刻な人手不足に対応するための有望な対応手段であるが、これによって雇用が失われる不安がある」「肉体的・精神的な負荷が高い仕事の負荷軽減により、働きがいの増進、障がい者や高齢者の働く機会の増加も期待」などとメリット・デメリットを挙げつつ、「すべての人が仕事の変革に対応できるよう、教育・訓練や人材の適切な再配置など、公正な移行」を前提に、「第4次産業革命を好機と捉え、積極的に推進する立場を明確にし、生産性の向上や働き方の改革につなげる」とした。

そのうえで、現段階では第4次産業革命について、現場で働く者の立場から意見を発信する機会は乏しく、「産業・雇用・社会への影響に関する議論は広範に行われているが、具体的に産業構造、雇用・働き方にどのような変化が生じていくのかについては、いまだ明確に見通せる状況となっていない」との課題認識を示したうえで、今後、産業政策・労働政策の立案に活用するためのヒアリング調査を実施する。「公正な移行」の具体策や、第4次産業革命の成果を労働時間短縮に配分していくことなどについても検討を深めていくとしている。

「底上げ・格差是正」の取り組みは着実に前進

大会ではまた、春季生活闘争の最終総括である「2019年闘争評価と課題」を確認した。金属労協の全体集計によると、賃上げ額の平均は1,450円で、前年の1,512円を62円下回った。規模別で見ても、1,000人以上が1,238円(前年1,489円)、300~999人が1,303円(同1,371円)、299人以下が1,536円(同1,571円)といずれも前年を下回っている。ただし、低下幅は1,000人以上で前年を251円下回っているのに対し、299人以下は35円と、小規模の方が小さい。

また、2019年闘争では299人以下の組合が、3年連続で1,000人以上の組合の賃上げ額の平均を上回った。300~999人の組合の賃上げ額では、2017、2018年は1,000人以上の組合の賃上げ額の平均を下回っていたが、こちらも2019年闘争では上回った。

こうしたことから、評価と課題は「『底上げ・格差是正』の取り組みを着実に前進させることができた」などと評価した。その一方で、全体の3割以上、中小労組の4割が賃上げを獲得できなかったことなどから、「賃上げの十分な定着までには至っていない」とも記述。今後も「賃金の底上げ・格差是正の取り組みを進めていくことが重要だ」と強調した。

なお、JC共闘のあり方については、「賃上げによる相場形成を図りながら、賃金水準による社会的な相場形成の強化に向けて、具体的な検討を深めていく必要がある」としている。

「賃金水準の社会的相場形成のあり方やJC共闘のあり方などの議論を深める」(髙倉議長)

あいさつした髙倉議長は、2019年闘争について、「経営側が賃上げに対する抵抗感を強めてきたことに加え、米中新冷戦構造による中国経済の減速をはじめ、企業にとって先行き不透明感が強まることなどにより、例年になく大変厳しい交渉になった。しかし、人への投資の必要性を粘り強く訴え続けることによって、こうした状況を跳ね返し、賃上げの流れを継続し、全体の底上げ・格差是正に寄与する闘争結果を導き出せた」と評価。これから方針案策定に向けた議論が本格化する2020闘争に向けて、「賃金の底上げ・格差是正、配分の歪みの是正に向けた賃金水準の社会的相場形成のあり方や、JC共闘のあり方など、議論を深めていきたい」と訴えた。

政権交代可能な政治勢力の結集を

一方、髙倉議長は、金属労協の構成組織から3人の候補者を国民民主党の比例代表候補として臨んだ今夏の第25回参議院議員選挙についても言及した。「野党が分断し、国民民主党の政党支持率が伸び悩むなかで、国民民主党比例の連合候補5名の個人名の合計得票数が111万2,000票と、立憲民主党連合5候補の得票数69万9,000票を圧倒的に上回ったにもかかわらず、われわれの仲間全員を国政の場に送り出すことができなかった」と指摘したうえで、「連合が参院選で支持政党が分立したのは、1995年第17回参院選以来24年ぶり。今回の様な構図での選挙は今後、絶対に回避すべき。今一度、政権交代可能な政治勢力の結集に向けて汗をかくべきであり、連合はそのための役割と責任を果たさなければならない」と主張。金属労協としても「『民間・ものづくり・金属』の観点からの政策実現力を高めていかねばならず、今後も5産別で頑張っていきたい』と強調した。

なお、役員改選では、髙倉議長、浅沼弘一事務局長は再任となった。