かんぽ営業に係る緊急対応と抜本見直しの方針を確認/JP労組定期全国大会

2019年8月23日 調査部

[労使]

日本最大の単一労組である日本郵政グループ労働組合(JP労組、約24万4,000人)は8月21、22の両日、熊本県熊本市で定期全国大会を開き、向こう2年間の新運動方針を決めた。大会では、かんぽ生命保険の不適切契約の問題を受けて、当面の営業自粛等を踏まえた給与・手当に関わる対応や金融商品の営業方法の見直しなどについての取り組み方針も確認。増田光儀委員長は、「問題を個別に検証しつつ、金融営業のあり方について、抜本的な見直しに臨んでいく」などと述べ、企業風土の改革実現に向けて、組織の総力をあげて取り組む姿勢を強調した。

「情報がトップに伝わりにくい組織構造やマネジメント手法を改革してこなかった責任は極めて重い」(増田委員長)

冒頭、増田委員長は不適切な契約の疑い等の問題について、「お客さまの意向に沿わず、不利益が生じてしまうような契約が『お客様本位』であるはずがない」と指摘。労組として、「かんぽ営業のみならず、営業全般にわたる推進管理手法などの誤ったマネジメントの実態、営業や業務の品質に影響を及ぼしかねない目標設定や方針の危うさを再三にわたり指摘し、その是正を求めてきた」としながらも、「金融営業の抜本的な見直しに踏み込んでこなかった事実は現にあり、認識の甘さや危機感の乏しさは、報道等を通じて指摘されているとおりだ」と自省したうえで、経営陣を、「正しい情報が経営トップに伝わりにくい組織構造や、マネジメントの手法を抜本的に改革してこなかった責任は極めて重いと断じざるを得ない」と批判した。

さらに、労組の機能についても、「結果として、軽んじられてきたものと受け止めざるを得ない」と非難。「健全な労使関係のもと『事業を支えるパートナー』という自覚をもって、真摯に、そして前向きに提起を重ねてきたJP労組の意見・提言をどのように受け止めてきたのか。これまでの対応について猛省を促すとともに、今後はJP労組が届ける現場の声をどのように受け止め、どのように対応していくのか。もう一度、そういったところから経営協議を行わなければならない」と訴えた。

複合的に絡み合う構造的な問題が背景に

また、問題の背景について増田委員長は、「直接的な要因は、ノルマ主義と指摘されるような過度な目標設定と、その達成に向けた不適切なマネジメントにあるのは間違いない」としたうえで、「その背景や要因は単純ではなく、構造的な問題などが複合的に絡みあっている」と述べて5つの問題点に言及した。

まず、分社化に伴う構造的な問題として、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の金融2社と日本郵便との間の受委託関係をベースにした製販分離のビジネスモデルについて、「それぞれが自社の視点から持続性の確保を優先するなかで、お客さま本位の営業の徹底に向けた営業指導や推進管理に一体的に取り組むための、グループとしてのガバナンスが効いていなかった」ことを指摘。民営化に伴う法制度的な問題も挙げ、「郵政民営化法に加え、金融2社には銀行法と保険業法がそれぞれ適用され、いわば上乗せの規制が課されていることで経営の自由度が制限され、市場にあわせたタイムリーな商品開発などに後れを取っている」と語った。

企業風土も「官僚的で柔軟性に欠ける」と主張。「階層的な組織マネジメントのもと、縦割り的な組織運営が色濃い状況は変わらず、各階層の長あるいは自身が受け持つセクションにとって、都合の悪い事象等を覆い隠すような傾向があり、本質的な問題が究明されにくい。いわゆる大企業病と言われる症状だ」と断じた。さらに、「経済成長が前提であった時代の成功体験をベースに、ただひたすらプレッシャーをかけていくような推進管理手法をとりがち」な管理者層の求めに、「営業担当社員一人ひとりが懸命に取り組み、何とか相応の営業実績を確保してきたため、現場力が過信され、結果、マネジメント力が高まってこなかった」とも分析した。

郵便・貯金・保険を全国の郵便局で提供するユニバーサルサービスを担う「公共性」と、事業を成り立たせる「企業性」の両立も問題だとして、「厳しい経営環境とも相まって、徐々に企業性を追求する傾向が強まってきた一方で、マネジメント層においても経営感覚やマネジメント力が高まっているとは言えず、結果、営業目標やコスト削減目標などに特化した推進管理が中心となった」と述べた。

渉外営業社員の給与・手当体系の見直しも

そのほか、営業手当に偏った給与・手当体系が不適正営業を惹起したとの指摘があることについて、「一部に手当欲しさの不適正営業があったと認識せざるを得ないため、これも一つの要因だ」と認めつつも、「大宗が適正に営業努力を行っている現実からも、それを主因として捉えるのは適切ではない」と説明。その一方で、「渉外営業を担当する社員を全国画一の給与・手当体系としている現状の制度は、見直す必要がある」として、市場性等の観点からの制度の抜本的な見直しを求める考えも示した。

大会では、2019~2020年度運動方針とともに、組合員が生活不安に陥ることがないよう、当面の業務にあわせた措置を整理した「かんぽ商品に係る当面の業務運営を踏まえた給与・手当に係る対応と金融営業の抜本的な見直しに向けた取組方針」も確認した。

今後、「5つの大きな問題を個別に検証しつつ、金融営業のあり方について、抜本的な見直しに臨んでいく」(増田委員長)として、企業風土等の改革を実現していくために、組織の総力をあげて取り組む構えだ。

「社員の声を直ちに経営に行かせるような職場に」(長門社長)

なお、大会では、日本郵政グループを代表して長門正貢社長もあいさつした。長門社長は、「今回の問題で強く感じたことは、JP労組からの意見を事業運営にしっかり活かすことができていたか。社員。組合員の声を本社がきっちり組み取り切れていたかということだ」などと陳謝。「働く社員が幸せでなければ組織の意味はない。社内でスムーズに意見交換できるよう、社員の不満があればその声を直ちに経営に行かせるような職場にしていかねばならないことを経営陣一同、心に誓った。労使一体となって一日も早く働きやすい環境を取り戻し、働きがいをもって日々の業務に従事できるよう取り組んでいく」と述べた。

増田委員長、石川書記長が続投

大会では役員改選があり、増田委員長、石川幸徳書記長は再任となった。