今後の統一闘争について議論をスタート/電機連合の定期大会

2019年7月10日 調査部

[労使]

電機連合(野中孝泰委員長、57万人)は8、9の両日、神奈川県横浜市で定期大会を開催し、今春闘の総括である「2019年総合労働条件改善闘争の評価と課題」を確認した。今春闘の中闘組合の統一闘争では、「水準改善額1,000円」で決着したものの、評価と課題は、「人への投資」に対する考え方で経営側と大きな隔たりがあったと指摘。今後の統一闘争について、研究と検討を開始する方針を打ち出した。

社会的役割を果たす回答と評価

今春闘の統一闘争では、大手電機メーカーで構成する中闘組合は「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の個別ポイントにおいて3,000円以上の水準改善を図ることを経営側に要求。最終的には「水準改善額1,000円」で決着し、6年連続で水準改善が図られることとなった。

評価と課題は、賃金水準改善について「経営側は、『過去5年間連続して賃金水準改善を実施してきており、昨今の厳しい経営環境を踏まえれば、さらなる上積みは極めて慎重に考えるべき』『「人への投資」の重要性について認識の違いはないが、月例賃金などの金銭的な処遇条件にこだわらず、各社労使で柔軟に決定すべき』との主張を繰り返し、交渉は難航を極めた。しかし、膠着状態が続くなか、統一闘争の強固な結束を確認し、最後までねばり強く交渉を重ねた結果、すべての中闘組合で最終方針である『水準改善額1,000円』を引き出すことができた」と振り返ったうえで、「月例賃金引き上げの流れを継続することができ、組合員の期待に応え得るとともに、電機産業労使の社会的役割と責任を果たすことができる回答である」と評価した。

26組合が1,000円を超える水準改善を獲得

日立やパナソニックといった大手のグループ労連に加盟せず、直接、電機連合に加盟する形態をとっている「直加盟組合」の回答結果をみると、集約方向となった63組合中56組合が、「開発・設計職基幹労働者」ポイントで水準改善を図ることができ、そのうち、48組合が1,000円以上の水準改善を獲得した。また、グループ労連に加盟している組合も含めた全加盟組合でみると、集約方向となった268組合中252組合が、同ポイントでの水準改善に成功。211組合が1,000円の水準改善を獲得する一方、26組合は1,000円を超える水準改善を引き出した。

高卒初任給1,500円引き上げを高く評価

大手電機メーカーの初任給は、自動車など金属関連の他産業に比べて水準が低くなっており、なかには、電機メーカーよりも1万円程度高い産業もある。そのため、今次闘争では、電機連合は高卒初任給について、現行水準から4,000円の引き上げとなる16万7,500円以上の水準改善を掲げ、大卒初任給については、2,000円以上の引き上げとなる21万3,500円以上の水準改善を盛り込んだ。その結果、高卒初任給については、賃金水準改善額を上回る上げ幅の1,500円、また、大卒初任給については1,000円の引き上げを獲得した。

評価と課題は初任給の交渉について、「とりわけ製造に携わる現場からの強い要請があることを踏まえ、最後まで水準改善額にこだわり交渉を重ねた」とし、回答について「喫緊の課題となっている人材の確保の観点から、一定の評価ができる」と記述した。

労働時間の協議の場設置で33組合が前進

4,000円の引き上げを要求し、1,000円引き上げ(その結果、16万3,000円)で決着した産業別最低賃金(18歳見合い)や、それぞれ1,000円の引き上げを引き出した25歳最低賃金と40歳最低賃金については、「企業内のミニマム基準の底上げに加え電機産業に働くすべての労働者の賃金の底上げ・下支えと公正処遇の実現につながり、社会的要請に応え得る評価できる回答である」と強調した。

すべての中闘組合で、スト回避基準である年間4.0カ月をクリアした一時金については「組合員のモチベーション向上、労働力の質的向上により、企業の持続的な成長に資するものと考える」とした。

長時間労働の是正の取り組みに関しては、今次闘争では全加盟組合中51組合が「労使協議の場の設置」について要求。その結果、33組合で前進を図ることができ、従来から設置できている組合を合わせて、「労使協議の場の設置」ができている組合は287組合となった。

人への投資の重要性では労使の考えは一致

こうした今次闘争の結果を受け、今後の課題について評価と課題は、まず、「人への投資」に対する考え方の経営側との違いを問題提起した。最終的には月例賃金の水準改善で合意したものの、経営側は、「事業環境や業績の違いがあるなかで月例賃金を一律で引き上げることに抵抗感を示すとともに、生産性を向上させていくための『人への投資』は、多様な人材が活躍できる環境整備や人材育成投資等の施策も含め幅広い視点で検討していくことが必要であり、『人への投資』の総原資をどう活用するかは、月例賃金などの金銭的な処遇条件にこだわらず各社労使の主体的な論議により柔軟に決めるべきとの主張を繰り返した」とし、「『人への投資』の重要性については労使の考えに相違はないものの、そのあり方については大きな隔たりがあり、今後の課題と受け止めている」と明記した。

統一闘争強化から5年が経過

また、評価と課題は、統一闘争に関する研究・検討の開始を提起した。電機連合では、2015年闘争から、統一闘争を強化するため、取り組みの領域を2つに分け、1つを、闘争行動を背景に取り組む賃金引き上げや一時金などの「何としても守るべき領域」、そしてもう1つを、「各組合が業績や処遇実態を踏まえ、主体的に処遇改善に取り組む領域」という位置づけに整理した。主体的に処遇改善に取り組む領域では、各組合が達成目標にできる指標の「政策指標」を設けた。

この取り組みを始めて5年が経ったことから、評価と課題は、統一闘争について「主たる目的である『労働条件の維持・向上』と『波及効果の最大化』を堅持しつつ、『人への投資』の柔軟性をいかに実現できるかについて、引き続き研究・検討を深め、必要に応じて経営側と論議する」とした。

「統一闘争の特徴やメリット堅持が大前提」(神保書記長)

野中委員長はあいさつのなかで「5年が経過して、狙い通りの効果も多い一方、課題も見えてきた。5年という節目に総括を行い、産別労使交渉で経営側から提起のあった『人への投資』の多様性と統一闘争との関係について今後論議を進めたい」と述べた。

評価と課題について提案説明した神保政史書記長は、論議の進め方について「皆さんと丁寧かつ慎重に論議したい」と述べるとともに、「統一闘争の特徴やメリットを堅持していくことが大前提だ」と説明した。

なお、来春闘に向けて野中委員長は「大変心配しているのは、米中の貿易摩擦の動向であり、電機産業にも相当な影響が出るのではと危惧している。また、10月には消費増税が予定され、個人消費に支えられた日本経済の基盤を構築する取り組みがより重要になる」などと述べたうえで、「来春闘は労働協約改定年度でもあり、社会的課題を解決する春闘の位置づけや注目度はますます高まっていく。日本社会の活力を生み出すため、雇用不安、生活不安、将来不安という3つの不安を払拭するための着実な取り組みとする春闘としたい」と強調した。

大会ではこのほか、昨年夏から来年夏までの2年間の運動方針の補強を確認。労働時間対策指針、第7次賃金政策、第7次産業政策なども確立した。第7次産業政策には、第4次産業革命の進行に向け、新技術が導入された場合の労組としての対応方針なども盛り込んだ。