JR産別が相次いで定期大会を開催

2019年6月14日 調査部

[労使]

JRグループの二大産別であるJR総連、JR連合は6月上旬、都内で定期大会を開き、2019年度の運動方針を決定した。JR総連は、JR東労組の再建を強く訴える大会となった。一方、JR連合は、向こう5年間の「中期労働政策ビジョン(2019~2023)」を新たに打ち出し、役員選挙では新会長に荻山市朗副会長が選出された。

JR東労組から離脱した組合員の再結集を/JR総連

JR総連(榎本一夫委員長、約4万2,000人)は6月3日、都内で定期大会を開催した。

JR東日本の多数派組合であるJR東労組では、18春闘以降、組合員の大量脱退があった。冒頭、榎本委員長はあいさつで、「残念ながら、再加入の取り組みは前進していない」などと指摘。「東労組が真っ先に取り組まなければならない課題は、離脱した組合員の再結集と、組織の再生を実現することだ」として、JR東労組の再建を呼びかけた。

JR貨物労組が2年連続のベア獲得

2019春闘では、連合の「底上げ・底支え」「格差是正」の観点から、ベア6,000円の統一要求を掲げ、JR東労組が1,050円(ベアに相当する「平均改善額」)の回答を引き出したほか、JR貨物労組も2年連続のベアを獲得した。一方、JR北海道労組は所定昇給の実施にとどまった。

方針は19春闘を振り返り、「ベア非公開という『春闘のけん引役』不在のなかで、春闘そのものの転換点ともいえる事態は、今後の統一要求・統一闘争のあり方に大きく影響する」と指摘。「春闘の歴史と伝統を守り抜き、今後とも統一要求・統一闘争としてたたかい抜いていく」ことを強調した。

長時間労働の是正や非正規労働者の待遇改善を

「働き方改革」関連法が4月に施行され、残業時間の罰則付上限規制や年5日の年次有給休暇の取得が企業に義務づけられた。方針は、「要員不足のなか、業務量減や人員増をせず残業時間の削減だけを労働者に課せば、企業の『残業隠し』は横行する」「残業時間の上限には休日労働が含まれていないため、企業が労働者に休日出勤を強いることも予想される」などと課題を指摘。「真の『働き方改革』の実現に向け、長時間労働の是正と非正規労働者の待遇改善を求め、すべての市民・労働者、連合の仲間と共に固く連帯してたたかう」としている。

安全を大前提に運行・営利優先の経営体質を

安全を巡る問題については、国の運輸安全委員会は3月、JR西日本の新幹線のぞみ号が台車に亀裂が入ったまま走行した重大インシデントについて報告書を公表し、JR西日本の安全に対する企業体質を指摘した。また、国土交通省は4月、JR東日本の度重なる輸送障害に対して警告文書を発し、原因究明と再発防止を強く求めた。こうしたなか、方針は「鉄道の安全は各系統の情報共有と連携というチームワークで成り立つ作業」「社員間の過度の競争原理は安全・安定輸送を阻害する要因」として、「あくまでも安全を大前提に、運行・営利優先の経営体質を許さず、生命をすべての価値基軸とする安全対策を求めていく」ことを明記している。

ソフトバンク労組が脱退

なお、大会では、ソフトバンク労働組合(鈴木建行委員長)の脱退が承認された。脱退理由について榎本委員長は、「産業を異にする産別への加盟の意義、さらに、政府による情報通信政策の関与による組合員の生活への影響」などと説明した。

グループで過去最高の54単組がベア獲得/JR連合

JR連合(松岡裕次会長、約8万3,000人)は6月11、12の両日、都内で定期大会を開いた。

2019春闘では、JR各単組で定期昇給を確保したほか、主力組合ではJR西労組、JR東海ユニオンが6年連続、JR九州労組が5年連続でベアを獲得。さらに、グループ労組(93単組)でも過去最高の54単組がベアを獲得した。こうした結果について、挨拶した松岡会長は、「JRグループ全体における『底上げ・底支え』『格差是正』は確実に前進した」と評価した。

中期労働政策ビジョンを提起

大会では、「JR関係労働者にとって相応しい働き方と今後5年間の到達目標」を示した「中期労働政策ビジョン(2019~2023)」を確認した。同ビジョンには、深刻化する労働力不足対策や政府の進める「働き方改革」、技術革新への対応、JR労働者を取り巻く環境変化を踏まえた目標が並ぶ。

賃金のあり方は絶対水準を重視し、JR各単組は所定内賃金について「賃金構造基本統計調査」における「全産業 大企業1,000人以上 中位数」を必達目標に据え、2023年度までに到達する。さらに、必達目標を達成した単組は、「全産業 大企業1,000人以上 第3四分位数」を上位目標として設定し、その到達に向けて取り組むなどとしている。また、グループ労組では、「工務」「運輸」「陸運」「物販」「ホテル」などの「業種毎に分科会を形成し、今後5年間で到達すべき目標水準を設定し、その到達に取り組む」。

そのほか、JRおよびグループ労組の共通項目として、① 55歳時における賃金ダウンや60歳以降の再雇用制度等による大幅な賃金ダウンの解消 ② 非正規雇用社員と正規雇用社員の賃金の不合理な格差の解消③社会の賃金水準の上昇幅とJR産業内の賃金水準の上昇幅の乖離を踏まえた基本給の引き上げと各種手当ての見直し・引き上げ――なども明記している。

一方、雇用・労働のあり方については、「子育てや介護、治療等において、多種多様な事情・背景を抱える人財が就労を希望する限り、働き続けることができる多様な働き方、労働環境・条件の整備・充実を図る」ことや、「社会人経験者や障がい者、外国人など、多種多様な人財の採用・確保と定着を図るための環境や労働条件の整備、制度の改善・充実を図る」ことなどを基本項目に挙げている。

今後、JR連合は、新「中期労働政策ビジョン」の周知・共有化を図り、将来を見据えた活動を通じ、すべてのJRグループに働く者の労働条件・労働環境の持続的な向上を目指す考えだ。

安全確立と死亡事故・重大災害ゼロを

運動方針では、「働く者の安全確保が、ひいては鉄道全体の安全性向上につながる」との認識に立ち、「すべてのJR関係労働者の死亡事故・重大労災ゼロ」を最重点テーマに掲げて活動を進める構え。しかし、昨年度は6件の死亡事故が発生するなど、JR関係労働者の労災は、微増減を繰り返しており、とりわけグループ会社や協力会社での発生率が相対的に高くなっている。そこで方針は、「『ヒューマンエラーは結果であり原因ではない』『安全は絶対に譲らない』という信念のもと、加盟各単組とともに、安全確立に向けた取り組みを深化させる」姿勢を示している。

10万人組織達成とグループ労組活動の推進を

組織拡大は、当面の目標である「10万人組織」を目指して、加盟単組等と連携した取り組みを進めている。特に力点を置いているのは、JR各社が展開する駅ビルや不動産、外食、ホテル等の事業を担うグループ会社へのアプローチ。JR連合が結成した「JRグループ労組連絡会」では現在、93単組2万5,000人が加盟し、人員はJR連合の約3分の1を占めている。方針は、「労働組合が未結成のグループ会社における組合結成や加盟各単組の組織拡大に取り組む」としている。

松岡会長はあいさつのなかで、JR東労組の組合員脱退問題などにも触れたうえで、「民主的な組織と運動を拡げ、組織強化・拡大を図ろう。あわせて組合未組織のグループ会社における組織化や各種活動の充実を図り、JR関係労働者の社会的地位の向上につなげていこう」などと訴えた。

荻山市朗会長、尾形泰二郞事務局長を選出

大会では、役員改選が行われた。新会長には荻山市朗副会長(JR西労組)が選出され、新事務局長には、尾形泰二郞執行委員(JR東海ユニオン)が選ばれた。