「大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動」が定着・前進/連合中央委員会

2019年6月7日 調査部

[労使]

連合(神津里季生会長)は6月6日、都内で中央委員会を開き、2019春季生活闘争の中間まとめを確認した。中間まとめは、5月8日時点で賃金改善分の獲得率が昨年同時期とほぼ同水準だったことや100人未満の中小組合の賃上げ率が初回集計から一貫して昨年同時期を上回っていることなどから、「『大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動』が定着・前進したものと受け止める」などと評価。今月下旬頃に予定されている「賃金水準検討プロジェクト・チーム」の答申などを踏まえ、今後の闘争方針や共闘体制のあり方などを検討する姿勢を示している。

回答額の加重平均は6,217円(2.10%)で前年比156円(0.01ポイント)増

5月8日時点の要求・妥結状況をみると、要求を提出した6,082組合のうち、月例賃金の改善(定期昇給維持分を含む)を要求したのは昨年同時期比640組合減の4,522組合。妥結済みとなっているのは3,318組合で、このうち賃金改善分を獲得したのは1,457組合で、こちらも昨年同時期に比べて100組合少ないが、賃金改善獲得率は昨年同時期(43.6%)とほぼ同水準の43.9%となっている。

回答引き出し状況をみると、平均賃金方式で要求・交渉を行った組合のうち3,715組合が回答を引き出している。回答額の加重平均は6,217円、率は2.10%で、昨年同時期より額で156円増、率も0.01 ポイント増とほぼ横ばい。ベア・賃金改善などの賃上げ分が明確に分かる2,000組合の集計では、賃上げ分の加重平均は1,570円(0.50%)で、昨年同期比で44円減、0.03ポイント減となった。これを300人未満の中小組合(1,204組合)に限ってみると、賃上げ率は前年同時期と同じ0.62%で、全体の賃上げ率(0.50%)を上回っている。

個別賃金はA,B方式いずれも引き上げ額が昨年を上回る

連合は2019春闘で、月例賃金の引き上げにこだわり、賃上げの流れを継続・定着・拡大させるとともに、中小組合や非正規労働者の賃金を働きの価値に見合った水準に引き上げていくため、賃金の「上げ幅」だけでなく「賃金水準」を追求する闘争を強化することとし、年齢や能力に応じた賃金の絶対額である「個別賃金」を重視する方向に舵を切った。

個別賃金方式で要求・交渉を行った組合をみると、A方式(特定した労働者【例えば勤続17年・年齢35歳生産技能職、勤続12年・年齢30歳事務技術職】の前年度の水準に対して、新年度に該当する労働者の賃金をいくら引き上げるかを交渉する方式)35歳の引き上げ額・率は2,219円・0.78%(昨年同時期比223円増・0.07ポイント増)、同30歳は2,024円・0.81%(同464円増・0.17ポイント増)。B方式(特定する労働者【例えば新年度勤続17年・年齢35歳生産技能職】の前年度の賃金に対し、勤続と年齢がそれぞれ1年増加する新年度にいくら引き上げるかを交渉する方式)でも35歳が7,231円・2.68%(同580円増・0.17ポイント増)、同30歳が8,887円・3.78%(同900円増・0.33ポイント増)と、いずれも昨年同時期を上回った。

なお、非正規労働者の賃上げの回答水準は、時給では単純平均26.09円(昨年同時期比3.61円増)、加重平均26.48円(同1.14円増)と、どちらも昨年同時期を上回った。また、月給も単純平均4,223円(同58円増)、加重平均4,317円(同88円増)と、いずれも昨年同時期を上回っている。

継続している「賃上げ」の流れ

こうした状況について中間まとめは、「賃上げの継続と定着を意識して取り組んだ結果、賃上げ要求組合の割合は昨年同時期を若干下回るものの、賃上げ獲得率は昨年同等となっており、『賃上げ』の流れは力強く継続している」などと評価。そのうえで300人未満の中小組合について、「賃上げ分が明確に分かる組合の賃上げ率が昨年同時期とほぼ同等となるとともに、100人未満の中小組合は初回集計から一貫して昨年同時期を上回っており、『大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動』が定着・前進したものと受け止める」とした。

個人別賃金の実態把握と中小組合へのサポート体制の構築を

また、「賃金水準」を追求する闘争については、「300人未満の中小組合においても、自らがめざす賃金水準を明確化し、そこへの到達時期も意識した要求を構築し、要求主旨に沿って交渉を追い上げる組合があったなど、『賃金水準』追求に対する認識がより高まった」と評価する一方で、「認識は深まったものの、賃金実態把握や分析のための体制が取れなかった、あるいは経営環境から今年は取り組みに至らなかった組合なども少なからず見られた」点にも言及。「中小組合の賃金水準はいまだ低位にあり、中小組合の賃金水準追求の取り組みの実効性を高めていくためにも、『個人別賃金の実態把握』とそれに基づく『賃金制度の確立』に向けた取り組みの継続に加え、中小組合に対するサポート体制の構築が必要だ」と総括した。

働き方改革関連法の改正事項を先取りする取り組みで前進

一方、2019春闘で格差是正とともに重視してきた「すべての労働者の立場にたった働き方の見直し」については、「長時間労働の是正」に関する要求がのべ7,521件あり、このうち2,254件で回答が引き出された。具体的には、「年次有給休暇の取得促進に向けた取り組み」「インターバル規制の導入に向けた取り組み」「事業場外みなし労働者、管理監督者も含めたすべての労働者の労働時間管理・適正把握の取り組み」等の法改正事項で要求・回答ともに昨年を上回った。

また、「非正規労働者の雇用安定や処遇改善」に関する要求はのべ5,936件で、回答はのべ1,881件になった。雇用安定に向けた「正社員への転換ルールの整備と運用状況点検」や、処遇改善に向けた「福利厚生全般および安全管理に関する取り組み(点検、分析・検討、是正等の取り組み)」「育児・介護休業の取得を正社員と同様の制度とする取り組み」などで昨年の要求・回答の件数を上回っている。

賃上げの流れを交渉中の組合や社会全体に広げる/神津会長

神津会長はあいさつで、「今次闘争においても、賃上げの流れはしっかりと継続している。とりわけ、規模の一番小さい100人未満の組合で、賃上げ分が率では第1回集計から一貫して昨年を上回るとともに、大手組合をも上回っているのは特筆すべき成果だ」と強調。「こうした流れを、現在も交渉を続けている組合や社会全体に広げていかなければならない」と訴えた。

また、「賃金水準」を追求する取り組みについては、「最終的な評価は8月の『まとめ』で行う」としながらも、「必要性について、従来以上に認識が深まったものと受け止めている」などと述べ、「今年の取り組みを基礎とし、さらに幹の太い運動になるよう全体でじっくりと取り組んでいきたい」と運動の継続に意欲を見せた。

ワークルールの取り組みにも触れ、「本年4月から、いわゆる『働き方改革』関連の法改正が順次施行されているが、長時間労働是正や職場における均等・均衡待遇実現について、適用を先取りする、あるいは法を上回る取り組みを相当数実現してきていることは、組織労働者としての務めを果たさんとする性格を帯びたものだ」などと評価した。

闘争体制強化のあり方を検討

中間まとめは今後に向けた検討課題として、「中・長期的な視点を持って、引き続き、『連合ビジョン』および『連合運動強化特別委員会「報告」』、賃金水準検討プロジェクト・チーム(賃金PT)の答申(6月下旬頃を予定)なども踏まえ、今後の闘争方針策定議論につなげていく必要がある」などと指摘。今後、 ① 「賃金水準」闘争を強化していくための体制整備と春季生活闘争のメカニズムを社会に広がりを持った運動としていくための共闘体制および諸行動 ② 中小組合の底上げ・格差是正の実効性を高めるためのサポート体制 ③社会横断的な賃金水準 ④ セーフティネットとしての最低賃金――のあり方について「検討を深めていく」としている。

第4次産業革命への対応や雇用類似の働き方の就労者保護措置を重点政策に

中央委員会ではこのほか、「2020~2021年度 政策・制度要求と提言」を決めた。2019年7月から2021年6月までの2年間に実現・前進をめざす課題として、 ① 持続可能で健全な経済の発展 ② 雇用の安定と公正労働条件の確保 ③ 安心できる社会保障制度の確立 ④ 社会インフラの整備・促進 ⑤ くらしの安心・安全の構築 ⑥ 民主主義の基盤強化と国民の権利保障 ⑦ 公正なグローバル化を通じた持続可能な社会の実現――の7項目を挙げている。

そのうえで「要求と提言」で掲げた課題を中心に、2019年7月から2020年6月までの1年間で、「実現をめざす重要度の高いもの」あるいは「早期の実現は難しいが重要度合いが非常に高く、重点的に取り組みを進める必要があるもの」を抽出した「2020年度 連合の重点政策」も確認。最重点政策として、「第4次産業革命への対応について検討するための、労使が参画する枠組みの構築」、「労災保険や雇用保険など、副業・兼業に関するルールの構築」、「『雇用類似の働き方』の就労者保護に向けた法的措置」、「解雇の金銭解決制度の導入阻止」、「あらゆるハラスメントの根絶に向けた国内法整備とILO条約の支持・批准」などの21項目を列記している。

なお、中央委員会終了後には、「第25回参議院選挙 連合総決起集会」を開催。「700万組合員の総力を結集することで、組織内候補はもとより連合推薦候補者全員の必勝を誓う」などとする特別決議を確認した。