3年連続で中小の賃上げ額が大手を上回る/金属労協の3月末までの回答状況

2019年4月3日 調査部

[労使]

金属労協(JCM、髙倉明議長)は2日、都内にある本部で記者会見を開き、3月29日までの賃上げ交渉の回答状況を公表した。ベースアップや賃金改善などの賃上げ額の平均は1,383円で、昨年の同時期に比べ69円のマイナスとなったものの、3年連続で299人以下の組合が1,000人以上の組合を上回った。

規模の小さい組合ほど高い賃上げ要求額に

29日現在の集計によると、JCMを構成する3,238組合のうち、要求を提出したのは2,567組合で、そのうち賃上げ要求を行った組合は2,113組合となっている。賃上げ要求額の平均は3,940円で、昨年同時期の3,782円を上回った。賃上げ要求額を規模別にみると、299人以下が4,044円、300~999人が3,830円、1,000人以上が3,467円となっており、規模の小さい組合ほど高い要求額となっている。

回答を得た、または回答を集約した組合は1,255組合で、これは要求提出した組合の48.9%にあたる。昨年同時期は55%程度だったことから、「回答引き出しは昨年よりもやや遅れている」(浅沼弘一事務局長)状況となっている。うち、賃金構造維持分を確保したのは1,097組合で、さらにそのうちベアや賃金改善分などの賃上げを獲得したのは855組合。回答・集約組合に占める賃上げ獲得組合の割合は68.1%となっている。

299人以下が1,000人以上よりも20%程度高い賃上げ額を獲得

賃上げ獲得額の平均は1,383円で、これを規模別にみると、299人以下が1,477円、300~999人が1,291円、1,000人以上が1,225円。299人以下が1,000人以上を上回る結果となっており、299人以下が1,000以上よりも20%程度高い額を獲得した。昨年同時期も299人以下が1,000人以上を上回ったが、その差は2%程度だったことから、浅沼事務局長は「中小のがんばりが見られた」とコメントした。さらに規模ごとに獲得額を昨年同時期と比べると、299人以下が18年1,491円→19年1,477円、300~999人が1,370円→1,291円、1,000人以上が1,465円→1,225円と、299人以下が最も下がり具合が少ない。

一時金については、899ある回答・集約組合の平均月数は4.74カ月で、昨年同時期(4.73カ月)とほぼ水準だったものの、JCMがミニマムと設定する4.0カ月に至らなかった組合数は154組合と昨年同時期(184組合)から大幅に減った。

髙倉議長は、JCM全体ではまだ半数の組合が解決していない段階だとし、4月以降の後続組合の交渉に向け、「景況感が悪くなっているが、要求に込めた、厳しい時だからこそ人への投資が有効だという思いの下、各組合が実現すべき賃金水準の実現に向けて交渉を追い込んでいく」と述べた。

「個別賃金の取り組みが功を奏した」(髙倉自動車総連会長)

会見には自動車総連会長も務める髙倉議長のほか、JCMに加盟する電機連合の野中孝泰委員長、JAMの安河内賢弘会長、基幹労連の神田健一委員長、全電線の岩本潮委員長も出席し、各組織における直近の回答状況を報告した。

髙倉議長は自動車総連の状況について、1,089ある要求単組のうち、45.9%にあたる約500単組で解決しており、22単組が要求に対する満額を獲得したと述べた。自動車総連では今年から個別賃金要求を前面に出して交渉に臨んでいるが、その結果、中小の要求額が昨年よりも上がったという。賃上げ分の回答額については、「規模別にみると中小が最も高い改善分を獲得し、また昨年水準を上回った単組が軒並み出てきており、6割の単組が昨年と同水準か、昨年を上回る改善分を獲得した」と報告し、「狙った中小労組の底上げ、格差是正では、取り組みが功を奏している」と評価した。

電機連合の野中委員長は、4月1日現在で、グループ労連に加盟する組合も含めたベースで59組合が要求提出し、うち282組合が回答を集約。賃金水準の改善を獲得したのは昨年同時期よりも46組合少ない227組合と報告した。水準改善組合が減少したことについて「6年目の継続した賃上げ交渉ということもあり、非常に苦戦した」と振り返った。大手メーカーで構成する中闘組合が獲得した1,000円の水準改善額の波及効果については、「(1,000円を獲得した割合が)1,000人以上の組合が87%、300~999人が77%、300人未満が78%で、かつ、その割合が各規模3~4%程度増えている」と報告。1,000円を超える回答を引き出した組合が約8%あったことも明らかにした。

「中小が大手を超える春闘は定着」(安河内・JAM会長)

中小労組を多く抱えるJAMの安河内会長は「中小が大手の獲得額を超える春闘を3年連続で実現できている」とし、「(個別賃金要求を前面に出した)自動車総連の取り組みが追い風になった」との見方を示した。大手では賃上げよりも一時金に配分する傾向が多少は出たとしながら、「大手の一時金は中小への波及効果はなく、だからこそ月例賃金で頑張れと言った。中小が大手を超える春闘は定着してきたものの、物価上昇分を超えるベア獲得はまだ難しい。今後は物価上昇分を超える賃上げを勝ち取れるかが課題だ」と述べた。

基幹労連の神田委員長は、交渉単位の300組合のうち、277組合が要求し、145組合で回答を得ていると報告。賃上げについては、業種によって跛行性があり、「造船専業は厳しい結果となっている」と述べた。規模別に賃上げ獲得額の平均をみると、1,000人以上が1,459円、300~999人が1,670円、300人未満が1,419円となっているが、300人未満の多くがまだ交渉している段階だとして、全体の総括はまだできる段階ではないと話した。

全電線の岩本委員長は、3月20日までに加盟34組合すべてで回答を集約したとし、すべての組合で賃金構造維持分を確保したと報告した。賃金改善分については、24組合が獲得し、その平均は862円。規模別にみると、1,000人以上が938円で、299人以下が867円という結果だったものの、「半数以上が賃金改善分を獲得し、かつ、6年目でようやく賃金改善分を獲得できた組合が2つあり、人材の定着の視点でも継続した取り組みの意義があった」と評価した。