3,000円以上のポイント賃金水準改善を要求/電機連合の中央委員会

2019年1月30日 調査部

[労使]

電機連合(野中孝泰委員長、約57万人)は1月24、25の両日、神奈川県横浜市で中央委員会を開催、「2019年総合労働条件改善闘争方針」を決定し、今次賃上げ交渉での産別統一要求基準について、「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)のポイントで3,000円以上の水準改善を求めることなどを決めた。自動車業界などに比べ水準で見劣りする高卒初任給については4,000円以上の水準改善を掲げ、昨年よりも引き上げ要求額を1,000円積み増した。

賃金の3,000円以上の水準改善要求は4年連続

電機連合では、大手メーカーで構成する中闘組合が、スト権を確立したうえで、要求から妥結まで足並みを揃えて交渉に臨む産別統一闘争を展開する。中闘組合は、パナソニックグループ労連、日立グループ連合、東芝グループ連合、全富士通労連、三菱電機労連、NECグループ労連、シャープグループ労連、富士電機グループ連合、村田製作所労連、OKIグループ連合、安川グループユニオン、明電舎、パイオニア労連電機連合の13労組で構成する。

闘争方針は、スト権を立てて取り組む産別統一闘争の対象とする「統一要求基準」項目について、 ① 「開発・設計職基幹労働者賃金(基本賃金)」(30歳相当)の賃金水準の引き上げ ② 産業別最低賃金(18歳見合い) ③ 一時金 ――の3つを設定。「開発・設計職基幹労働者賃金」の引き上げについては、賃金体系維持を図ったうえで、3,000円以上の水準改善を求める。3,000円以上の水準改善を要求基準とするのは4年連続で、2018闘争での獲得額は1,500円だった。

産業別最低賃金(18歳見合い・雇用形態を問わないミニマム賃金)については、現行の協定水準に対して4,000円の引き上げとなる16万6,000円への改善を掲げた。昨年方針では、「開発・設計職基幹労働者賃金」の引き上げ要求額と同額の3,000円引き上げを掲げたが、未組織労働者賃金の底上げへの波及を強く意識し、「今年はより踏み込んだ要求設定」(神保書記長)にして引き上げ額を積み増した。一時金は「『賃金所得の一部としての安定的確保要素』と『企業業績による成果配分要素』を総合的に勘案して、平均で年間5カ月分を中心とする」とし、産別ミニマム基準を例年どおり、年間4カ月分確保と定めた。

基本賃金を上回る初任給引き上げ額の設定は初めて

スト権の対象項目とはしないものの、統一決着を目指す「統一目標基準」の項目としては、「製品組立職基幹労働者賃金(基本賃金)」の水準引き上げ、年齢別最賃金、高卒初任給、大卒初任給、技能職群(35歳相当)ミニマム基準を据えた。

なかでも高卒初任給については、現行水準から4,000円の引き上げとなる16万7,500円以上の水準改善を掲げ、大卒初任給については2,000円以上の引き上げとなる21万3,500円以上の水準改善を盛り込んだ。高卒初任給については、昨年の闘争で1,500円の引き上げを獲得。これにより「自動車、鉄鋼大手や総合重工などとの水準格差が縮小するものと思われたが、これらの業種も水準引き上げを果たしたため、むしろ水準格差が広がった」(神保政史書記長)ことから、昨年の引き上げ要求額(3,000円)から1,000円増額した。

神保書記長によると、高卒初任給の自動車大手などとの格差は約5,000円~9,000円あり、大卒初任給でみても、約800円~2,000円ある。また、開発・設計職基幹労働者賃金(基本賃金)の引き上げ要求額よりも高い額を初任給で設定したのは今回が初めてだという。

パイオニア労連は統一闘争離脱の予定

中央委員会であいさつした野中委員長は、今次闘争のコンセプトとして「生活不安、雇用不安、将来不安の払拭」と「継続した人への投資」の2点をあげ、「これら3つの不安の払拭を着実に進めることが、個人消費を喚起し、経済の自律的成長を促し、強固な日本経済の再構築につながると考えている。だからこそ、継続した人への投資に取り組む必要がある」と強調。継続した賃金水準の改善の必要性について「この数年、賃上げを実施してきたが、働く者の現状は『可処分所得は徐々に増えてきてはいるものの、リーマンショック前には戻っておらず、不十分であり、実質生活が改善していない』というのが現状だ。世界経済の不透明感が増している時だからこそ、外需が落ち込んでも個人消費を中心とした内需が支えられる経済構造に転換していかねばならない」と力説した。

なお、野中委員長はあいさつのなかで、中闘組合の一員であり事業再生中のパイオニア労連について触れ、今次闘争では中闘組合の役割を凍結すると表明した。野中委員長は「パイオニア労連委員長と数度にわたって相談した。職場を混乱させないよう、早めの発表とした」と説明。パイオニア労連の中闘資格凍結は2月18日に開催される第1回中央委員会で正式に承認される。

一方、労働時間や働き方などに関する取り組みでは、36協定特別条項の上限時間の見直しなど「過労死等を防止、健康を守る取り組み」や、同一価値労働同一賃金の実現に向けた取り組みなどを盛り込んだ。36協定特別条項の上限時間の見直しでは、特別条項の限度時間が1カ月80時間、1年720時間を超える場合、1カ月80時間以下、1年720時間以下での締結に取り組むなどとしている。

要求提出日は2月14日(木曜日)までとし、スト権の確立、スト指令権の委譲は2月28日(木曜日)までと設定した。

「交渉の方法論として現時点で可能かどうか」(日立グループ連合)

方針討議では、東芝グループ連合、日立グループ連合、メイテックグループ労連、パナソニックグループ労連、全富士通労連、NECグループ労連、三菱電機労連の7組織から発言があり、なかには、連合の賃金水準追求に向けた方針変更に対する意見も見られた。日立グループ連合は「上部団体から賃上げ幅だけでなく水準も重視する姿勢が強調されている。電機連合の個別賃金要求方式もそれが根底にあり、正しい考え方ではあるが、交渉の方法論として現時点では可能かどうか疑問を持たざるを得ない」と述べ、「公正な競争の下、付加価値の適正な循環がなされていること、職種を横断する賃金のあるべき水準が労使間で共有されていること、同一価値労働同一賃金が進展している、という前提に立てば、絶対額の交渉はより可能になるが、こうした環境が不十分なまま、かつ、産別や労連の中小に対する手厚いケアがないまま、水準だけを取り出して個別労使に交渉を投げてしまうのは単に個別単組の交渉力がそのまま結果に反映されるとの懸念がある。社会横断的相場形成に影響が出るのは自明だ」と指摘した。メイテックグループ労連は「そもそも賃金水準は各企業でばらばらであり、電機連合以外は確かな調査にもとづく職種別賃金データはともかくとして、個別銘柄賃金データであっても電機連合と比べるといささか心許ない状況にある。水準を把握し、あるべき水準を見出し、かつ示していくといった取り組みが不十分な中、上げ幅運動による効用と切り離された絶対額賃金追求の運動が一人歩きしてしまうのは電機連合からみれば憂慮すべき状況だ」などと話した。

闘争のあり方についてはこのほか、「統一して闘うことと一律で闘うことの再整理が必要ではないか」(パナソニックグループ労連)などの意見が出された。