賃金の絶対額をこれまで以上に重視/自動車総連2019賃上げ方針

2019年1月11日 調査部

[労使]

自動車総連(髙倉明会長、約78万人)は10日、神奈川県横浜市で中央委員会を開催し、今年の春季労使交渉に向けた「2019年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。方針は賃金の絶対額をこれまで以上に重視していく姿勢を打ち出し、すべての単組が目指す賃金水準を設定して、水準引き上げに取り組むとした。平均賃金要求にも併せて取り組むが、賃金改善分だけでなく、賃金カーブ維持分も含めた総原資の引き上げを重視することもあり、産別としての引き上げ幅は示さなかった。

中小にとってより実が獲れる取り組みを目指す

方針は、2019年の取り組みの意義として、① 「働く者の将来不安の払拭と日本経済の自律的成長」の実現 ② 生産性運動3原則の実践と社会全体への波及 ③ 働き方を含めた全体の底上げ・格差是正の更なる前進――の3つの柱を掲げた。

特に底上げ・格差是正については、「『絶対額を重視した取り組み』をこれまで以上に進めることで、それぞれの目指す賃金の実現を図る」と言及。賃金の取り組みとしての「実現したい姿」として、「要求根拠をより明確にし労使の論議を充実させることで、中小にとってより実が獲れる取り組みとすると同時に、中小の地力向上、底上げ、格差是正に結び付ける」と提起しながら、こうした姿を実現させていくため、「自らの目指す賃金の実現と賃金課題の解決、及び底上げ・格差是正の前進に向けては、『絶対額を重視した取り組み』が重要との考え方のもと、目指す水準を強く意識する『個別賃金の取り組み』と、上げ幅だけではなく、賃金カーブや配分に係る課題にも目を向ける等、目指す賃金を為しえる賃金カーブ・賃金制度の構築に向けた『平均賃金の取り組み』とを併せもった取り組みを各労連・単組の状況に応じて進める」と強調した。

すべての単組が個別賃金要求を図る

具体的な取り組み方をみると、個別賃金では、「すべての単組は、求める経済・社会の実現、自らの目指す賃金の実現及び賃金課題の解決に資する基準内賃金の引き上げに取り組む」と明記し、各単組が「技能職若手労働者(若手技能職)」と「技能職中堅労働者(中堅技能職)」の2つのポイント賃金について水準向上や格差是正を図るようにした。なお、「技能職若手労働者(若手技能職)」は30歳・高卒・勤続12年・技能職、「技能職中堅労働者(中堅技能職)」は35歳・高卒・勤続17年・技能職を念頭に置いている。

労連や単組が目指す水準を設定しやすいよう、それぞれの銘柄において「めざすべき水準」を自動車総連が設定した。

水準は、高い方から「賃金センサスプレミア」(牽引役の上位単組が目指す水準)、「自動車産業プレミア」(加盟単組上位10%への目標基準)、「自動車産業目標」(加盟単組上位25%への目標基準)、「自動車産業スタンダード」(加盟単組中位への目標基準)、「自動車産業ミニマム」(すべての単組がクリアする基準)の5段階となっており、具体的な額は「技能職若手労働者(若手技能職)」については21万5,000円~32万3,200円、「技能職中堅労働者(中堅技能職)」については24万円~37万円の幅となっている。

平均賃金の引き上げ幅は示さず

従来通り、平均賃金要求にも取り組む。平均賃金要求については、「賃金カーブ維持分の確保に加え、物価上昇、労働の質的向上、格差是正の必要性等の要素を総合的に勘案し、賃金カーブ維持分を含めた引き上げ額全体を強く意識した基準内賃金の引き上げを要求する」とし、すべての単組が賃金改善分を要求し、底上げや格差是正の必要がある単組は必要な原資を加えて要求額を決定していく内容とした。そのため、今回から各単組は賃金カーブ維持分を含めた総賃上げの原資を会社に求めていくことになるとともに、要求額は格差是正分の設定内容に応じて単組ごとに異なることが予想される。2018年の方針では自動車総連が改善分の要求基準を示したが(3,000円以上)、今回の方針では改善分も含めて引き上げ幅は一切示していない。

一方、直接雇用の非正規労働者については昨年と同様、「時給20円を目安とした賃金改善分を設定する」としている。

「個別の方が労使の議論がより充実」(髙倉会長)

あいさつした髙倉会長は、個別賃金要求をさらに前面に押し出した点について「底上げ・格差是正を有効的・効果的に進めていくためには、賃金の上げ幅中心の共闘では限界があり、目指すべき賃金水準到達に向けた要求根拠の組み立ての方が、労使の議論をより充実させることにもつながるため、『個別賃金』による要求・回答の引き出しに、積極的に取り組んでいただきたい」と述べた。

なお、3,000円以上の改善分を平均賃金の要求基準とした2018年の賃金の取り組みでは、規模別にみると「299人以下」の中小単組が、賃金改善分では最も高い1,586円を獲得した。トヨタ自動車や日産自動車など大手メーカーの改善分を超えて要求したり、回答を獲得する単組も増えてきており、2018年は大手メーカーを超える要求を行った単組の割合が47.2%とほぼ半数に達した。とはいえ、大手と中小の賃金格差をみると、技能職・35歳ポイントの賃金で「3,000人以上」と「300人未満」ではほぼ20%の格差が生じている。また、賃金カーブ維持分の差では「大手と中小で平均2,000円の差がある」(中川義明・副事務局長)という。

「より多くの改善分を要求できる」(マツダ労連)

方針に関する討議では、全マツダ労連とダイハツ労連の部品部門が発言した。全マツダ労連は方針に賛成の立場と断った上で、「ここ数年の格差是正の取り組みにより、考え方への理解は浸透しつつあり、小規模単組での改善額が規模の大きいところを上回るなど一定の成果を感じる。しかし、毎年の要求基礎額をみると規模の差は厳然としている。今回、(平均賃金では)賃金カーブ維持分を含めた総額要求が提案されているが、いわゆる根っこからの金額による格差是正の取り組みを前進させたものと捉えている。労連内では討論集会を開くなど議論にいつもより多くの時間を費やしたが、ここしばらく総額方式は取り組んでいなかったこともあり加盟組合からは戸惑いの声もあった。カーブ維持分が低い組合では総額要求することで改善分が下がって交渉が難しくなる一面も垣間見えるものの、より多くの改善分を要求できる方法になったと理解され、この考え方は支持されている」と述べた。ダイハツ部品部門は、部品メーカー労組の格差是正に向け、まずは要求の段階でメーカー労組の水準を超えていく必要性を訴えた。