2019春闘の基本構想を提起/基幹労連のAP19討論集会

2018年12月12日 調査部

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連などの労働組合で構成する基幹労連(神田健一委員長、約26万4,000人)は6、7の両日、滋賀県大津市で「AP19春季取り組み討論集会」を開き、来春闘方針のたたき台となる「AP19春季取り組み基本構想」を提起・討議した。2019年の春闘は「2年サイクル」の中間年に当たるため、「個別改善年度」として年間一時金と格差改善を中心に据えるほか、65歳現役社会の実現に向けた取り組みにも注力する。賃金改善を求める組合は、2018年の春闘で確認してきた「3,500円以上を基本とする」方針に基づき要求を組む。方針は来年2月の中央委員会で正式決定する。

「総合組合はグループ・関連組合の支援に注力を」(神田委員長)

あいさつした神田委員長は、2019年度の春季取り組みについて、「AP18で議論してきた『賃金』をはじめとする各種項目について最も効果的と判断し得る取り組みについて検討を重ね、時々の環境や産業・企業の状況を踏まえつつ、部門や部会のまとまりを持って取り組むことが可能となる柔軟性も取り入れ、一定の収れんした結果をもとに進めるものだ」と説明。そうした考え方の下で賃金改善に取り組む組合は、「AP18春季取り組み方針で確認してきた『3,500円以上を基本とする』方針に基づき議論することとなる」と述べた。そのうえで、「総合組合はグループ・関連組合の支援に注力するなど、個別改善年度の意味合いを十分に生かしてこそ2年サイクルの運動の形が成り立つということを意識して欲しい」と訴え、個別改善年度における大手労組のバックアップの取り組みの重要性を強調した。

65歳現役社会の実現に向けた取り組みを

一方、基本構想は、「65歳現役社会」の実現に向けた労働環境の構築についても言及。年金支給開始年齢の引き上げを踏まえ、「2021年度から該当者に適用できる制度の導入をめざして取り組みを進める」姿勢を示している。

基幹労連によると、多くの組合がAP18の取り組みで「65歳現役社会」の実現に向けた「労使話し合いの場」を設置できており、一部組合では、「会社から65歳までの定年延長の制度提案を受けるなど、『65歳現役社会』の実現にむけ前進がはかられている」という。基本構想は、「先行して具体要求できる組合は一貫した雇用形態となる新たな制度導入を求める」とともに、「労使話し合いの場が未設置の組合は、労使話し合いの場の設置を求める」などとしている。

神田委員長は、「(高技能)長期蓄積型産業である基幹労連の各企業では、優秀な人材の確保・定着のもとで技術・技能の伝承をはかることが持続可能な企業運営にとって重要な課題であり、女性や高齢者の活躍がその発展に欠かせない」などと取り組みの背景を説明。「その具体的な道筋を描いていくときであり、話し合いの場を活用して取り組む組織も、これから交渉する組織も、目指すべき目標を定めて次のステップへ移行していく足掛かりを掴む取り組みになる」と訴えた。

労働条件の改善継続を個人消費の拡大につなげる

基幹労連の春季労使交渉は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に、2006年の労使交渉から「2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)」で統一要求を掲げる形をとっている。2019年の春季労使交渉は「2年サイクル」の中間年にあたるため、業績連動方式を導入していない組合の「年間一時金」と、中小組合等の「格差改善」の取り組みが要求の軸となる。

基本構想は、「わが国経済は、緩やかな成長を続けている」一方で、「個人消費については、上向き感がみられるものの回復にむけた勢いは依然としてみられない」などと指摘。「日本経済が、安定的かつ持続的な成長を遂げていくためには、働く者すべての労働条件の改善を継続することで、将来に対する安心感を高め、消費マインドの改善をはかり、個人消費の一層の拡大につなげていくことが不可欠だ」と強調している。

そのうえで、AP19春季取り組みを「『基幹産業の発展・強化にむけた人への投資による好循環の追求』をより一層前にすすめるための取り組みとなる」として、「連合・金属労協との連携はもとより、基幹労連全体が連携を密にして取り組みを展開し、労働組合としての役割を発揮することで社会的責任を果たしていく」との姿勢を打ち出した。

年間一時金は5カ月を基本に要求方式ごとに設定

主な取り組み項目を見ると、年間一時金要求は、金属労協の「年間5カ月分以上を基本」とする考え方を踏まえて、要求方式ごとに設定する。構成要素は、「生活を考慮した要素」と「成果を反映した要素」とし、「生活を考慮した要素」を「年間4カ月(額では120~130万円)程度」としたうえで、それぞれの要求方式に示した水準以上を目指せる組合は、その増額に取り組む。

具体的には、「金額」要求方式の場合は、「生活を考慮した要素120万円ないし130万円」としたうえで、成果を反映した要素について、「世間相場の動向などを踏まえながら40万円を基本に設定する。また、「金額+月数」要求方式の場合は、「40万円+4カ月を基本」とし、「月数」要求方式の場合は「5カ月を基本」に設定する。

格差改善は「トータルでみた労働条件の納得性」の追求を

格差改善では、月例賃金や退職金、労働時間・休日・休暇、諸割増率、労災通災付加補償等の「トータルでみた労働条件の納得性」を追求した取り組みを進める。

賃金や退職金については、業種別部会ごとに定めた「当面の目標」を踏まえ、各業種別部会や個別組合の実情に応じて要求を設定。その他の各種労働条件に関しても、労働時間・休日については、年間所定労働時間1,800時間台の実現に向けて、まずは総合組合水準への到達を目指すほか、年次有給休暇の初年度付与を20日以上とすることとして、付与日数の増加をはかる。

時間外・休日勤務の割増率は、① 算定に関わる時間管理について、所定労働時間を算定基礎として法定休日も含めた所定外労働時間を積み上げる方式とする ② 所定休日も含めた休日労働割増率40%への到達をはかる ③1カ月45時間を超える時間外労働割増率30%への到達をはかる④1カ月60時間を超える時間外労働割増率50%以上に未到達の組合は早期到達をはかる――などを基本に要求する。

労災通災付加補償では、① 労働災害付加補償は、死亡弔慰金3,400万円 ② 通勤災害付加補償は、1,700万円――などへの到達をはかる。

賃金改善は前年に続き「3,500円以上を基本」

一方、月例賃金に関しては、2年サイクルの「総合改善年度」だった2018春季労使交渉で、「産別一体となって、2018年度・2019年度の中で2年分の要求を行う」とし、要求額を「2018年度3,500円、2019年度3,500円以上を基本」とした。さらに、「具体的には部門・部会のまとまりを重視して要求を行う」ことも確認し、2019年度の個別年度で「時々の環境や産業・企業の状況を踏まえ、部門・部会の判断ができる」柔軟性も持たせた。その結果、2年分の交渉を行った鉄鋼総合等の組合では、18年度3,500円、19年度3,500円の賃金改善要求を行い、18年度1,500円、19年度1,500円で決着。総合重工等の2018年度のみの単年度で交渉した組合は、18年度の単年度で3,500円を中心に要求し、その多くが1,500円の賃金改善で妥結している。

こうした経過を踏まえ、基本構想では「AP19春季取り組みで賃金改善に取り組む組合は、要求額は2019年度3,500円以上を基本とし、部門・部会でまとまりをもって取り組む」ことを改めて明記。そのうえで、「AP18春季取り組みにおいて、賃金改善が『別途協議』『継続協議』の組合は、必要によりAP19春季取り組み期間も通じて解決をはかる」「AP18春季取り組みにて妥結した2019年度賃金の配分が確定していない組合は、2019年度からの配分に向けて確実にフォローを行う」などとした。

また、定期昇給は、「制度の実施およびその確認、定期昇給相当分を確保する」ことを前提に、定昇制度が未確立・未整備の状態で取り組む場合の定昇相当額・率については、標準労働者(35歳・勤続17年)を基準とする場合は3,700円(年功的要素のみ)、平均方式の場合は平均基準内賃金の2%相当を目安に設定。企業内最低賃金は、「賃金の下支えをはかることによって、組合員の生活の安心・安定につながり、人材の確保・定着の観点からも重要」と指摘して、企業内最低賃金協定が未締結の組合は協定化に取り組み、改定に取り組む組合は高卒初任給準拠を基本に、金属労協方針の月額16万4,000円以上の水準を目指す。具体的には、月額2,000円以上の引き上げとし、月間の所定労働時間を踏まえた時間額を協定に盛り込む。

基幹労連は来年2月に開く中央委員会で最終的なAP19方針を決定する。