個別賃金を軸に6,000円の引き上げ基準示す/JAMの中央討論集会

2018年12月7日 調査部

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(安河内賢弘会長)は12月3日から2日間、滋賀県大津市で2019年春季生活闘争中央討論集会を開催し、本部が提示した2019春闘方針の職場討議案(闘争方針大綱)について構成組織が意見を交わした。方針大綱は、来春闘に向けた基本的なスタンスとして、「賃金の『底上げ・底支え』『格差是正』の取り組みを継続し、情勢も踏まえ、すべての単組が、月例賃金の引き上げを中心とした『人への投資』の取り組みを行う」と強調。個別賃金要求での取り組みを軸としながら、産別としての引き上げ基準として2018春闘と同様に6,000円を提示した。

「個別賃金をさらに広げて闘う」(安河内会長)

あいさつした安河内会長は、2019春闘をとりまく経済環境について、「足下の経済状況は、様々なリスク要因を内包しながらもおおむね順調に推移している」としながら、日本銀行が目標とする2%の物価上昇の年内での達成は不可能だろうと指摘。その最大の要因は「労働分配率の長期的な低下だ」として、「足腰の強い内需主導の経済成長を促し、中長期的な財政のプライマリーバランスを確保するためにどうすればよいのか。賃金を上げるしかない」と賃上げの必要性をあらためて強調した。

また安河内会長は、JAMとしても5年連続でベア要求を行い、大手労組を中心に成果をあげてきたとしながら、「物価上昇率2%を達成していない以上、あるいは実質賃金の低下が続いている以上、いまだ十分とは言えない。とりわけ労働者の7割を占める中小企業労働者の賃上げは極めて重要だ」と中小労組の賃上げの重要性を強調。中小企業の経営がひっぱくしている要因として価格交渉力が一貫して低下していることなどをあげ、「中小が優秀な人材を確保できるような労働条件を確立するための公正取引の実現をするために、個別賃金要求をさらに広げて春闘を力強く闘っていかなければならない」と訴えた。

賃金要求する単組割合は85%以上を目指す

JAMでは加盟単組の8割以上を300人未満の中小労組が占める。中小と大手との間の賃金格差是正の取り組みにより本腰を入れるため、2017春闘方針から、個別賃金要求の取り組みを最前面に掲げている。2019方針大綱は、基本的なスタンスとして、「賃金の『底上げ・底支え』『格差是正』の取り組みを継続し、情勢も踏まえ、すべての単組が、月例賃金の引き上げを中心とした『人への投資』の取り組みを行う」と記述。賃金水準の引き上げにあたっては、「賃金の社会的水準を確保し、個別賃金要求方式への移行、30歳または35歳の一人前労働者あるいは標準労働者の賃金水準開示など、個別賃金要求方式の考え方を基本とした取り組みを行う」としている。方針大綱の内容を説明した高尾伸・労働政策委員長(本部副会長)は、賃金要求した単組割合について2018春闘では78%にとどまったことから、「2019闘争では85%以上をめざしたい」と強調。個別賃金要求をより浸透させていくため、「各単組は自社の賃金実態を把握できる体制を整備していってほしい」と要望した。

一人前ミニマム基準では18~25歳ポイントの金額を引き上げ

方針大綱が示した具体的な要求内容をみると、基本的には2018春闘を大きくは変わらない内容となっている。賃金要求の考え方では、各単組は「自らの賃金水準のポジションを確認した上で、JAM一人前ミニマム基準・標準労働者要求基準に基づき、あるべき水準を設定し要求する」としている。JAM一人前ミニマム基準とは、各年齢ポイントにおける最低水準的意味合いの指標で、個別賃金要求する際に単組が参考にする。具体額は、所定内賃金で18歳:16万2,000円、20歳:17万5,000円、25歳:20万7,500円、30歳:24万円、35歳:27万円、40歳:29万5,000円、45歳:31万5,000円、50歳:33万5,000円と設定した。

初任給水準が上昇している実態などを踏まえ、18歳~25歳までのポイントについては額を引き上げた。一方、30歳以降のポイントについては、「中小での傾向と中途採用の影響などもあり、中高年はJAM賃金全数調査(全単組対象)のデータをみても実態値が下がっている」(高尾労働政策委員長)こともあり引き上げは行わず、額を据え置いた。

標準労働者の35歳の【到達基準】では31万円を提示

到達基準的意味合いの標準労働者の要求基準としては、高卒直入者の所定内賃金で30歳および35歳という2つの年齢ポイントを掲げ、「全単組が到達すべき水準」である【到達基準】では30歳を27万円、35歳31万円、「到達基準に達している単組が目標とすべき水準」である【目標水準】では30歳を29万円、35歳33万円と設定し、すべての基準額を2018春闘から引き上げた。

なお、到達基準は、JAM賃金全数調査における第3四分位の数字を参考に算出し、目標基準は第9十分位の数字を参考に算出している。目標水準にすでに達している組合は、金属労協が掲げる「基幹労働者のあるべき水準」の到達を目指し取り組むことになっている。

一方、中途採用者や、無期転換された有期雇用労働者の採用時賃金の最低規制としての意味を持たせている「年齢別最低賃金基準」については、18歳ポイントを16万2,000円、25歳を16万6,000円、30歳を19万2,000円、35歳を21万6,000円と設定した。

平均賃上げ要求基準は、連合方針の賃金引き上げ目安を踏まえ、「JAMの賃金構造維持分平均4,500円に6,000円を加え、1万500円以上とする」とした。2018春闘と同じ引き上げ幅だ。

一時金要求は例年どおり、「① 年間5カ月基準または半期2.5カ月基準の要求とする ② 最低到達基準として、年間4カ月または半期2カ月」としている。

取り組み方・日程では、個別賃金要求の実効性をあげるため、要求提出までの準備期間での「単組の要求段階における職場討議の徹底」を求めた。

オルガナイザーの強化を求める意見も

個別賃金要求の取り組みでは、自社の賃金データの把握、分析、目標達成までの取り組み方の検討など、各単組がすべき交渉までの準備作業が以前よりも増す。そのため分散会で中井寛哉・本部書記長は、各単組に対し、「地域に配置しているオルガナイザーに気軽に相談にのってほしい」と呼びかけた。

一方、構成組織からは「企業内だけでなく、すべての労働者のための賃金運動に展開できるのが個別賃金であり、この重要性を各オルガナイザーは分かっているのだろうか。個別賃金では、各単組が自社の賃金についての分析を深めなければならず、オルガナイザーの力量強化も必要。現状で、それぞれの地方の単組に個別賃金に取り組ませることをオルガナイザーはできるだろうか」と、個別単組に対するサポート体制に関する問題提起があった。中井書記長は、中小企業の公正労働基準を確保するため、オルガナイザーが各単組を丁寧にサポートしているのがJAMの強みで他産別にないところだと述べるとともに、2年前からオルガナイザーの力量を高めるための合同研修などを始めたと説明した。