長時間労働の是正が賃下げにならない賃金諸制度の見直しを/運輸労連定期大会

2018年7月11日 調査部

[労使]

トラック運輸を中心にさまざまな輸送分野の組合で構成する運輸労連(難波淳介委員長、14万5,000人)は7月4,5の両日、都内で定期大会を開き、2018年度の運動方針を決めた。方針は、2018春闘の賃上げ状況について「深刻化するドライバー不足のなかで、20年ぶりに平均妥結額が2,000円台に回復する見込みだ」などと評価したうえで、今後も格差是正の取り組みを継続していく必要性を強調。総労働時間の短縮では、自動車運転者の総拘束時間を運輸労連が目標値として掲げる年間3,300時間以内に縮減するなどの取り組み推進を打ち出している。難波委員長は、「長時間労働の是正が賃下げとならないよう、固定給部分を厚くするなど賃金諸制度の見直しを進めて行かなければならない」と訴えた。

平均妥結額が20年ぶり2,000円台に

運輸労連は2018春闘で、定期昇給(相当)分1.5%と賃金改善分(格差是正含む)3.0%を加えた4.5%を乗じたものを統一要求基準に設定。そのうえで、平均賃上げ方式での要求額は、交通労連・トラック部会との共同ベース賃金24万6,598円(所定内労働時間賃金の単純平均)に4.5%を乗じた1万1,000円中心として交渉に取り組んだ。

その結果、2018春闘の5月末時点の解決状況は、全体の85.6%にあたる363組合が決着。賃上げ額は単純平均で2,463円となり、前年の最終集計額(1,922円)を541円上回った。加重平均では3,140円増の8,019円(定昇相当込み)となっている。また、数字で把握できる賃金改善分およびベア分を獲得したのは59組合で、その単純平均は1,612円、加重平均は2,186円だった。

一方、夏季一時金も5月末現在、188組合で解決。単純平均で4万3,024円アップの27万8,042円、加重平均でも3万1,149円上回り50万9,353円となった。

中間まとめは、「深刻化するドライバー不足のなかで、前年に続き定期昇給(相当)分に加え、賃金改善分を獲得した組合もみられるとともに、20年ぶりに平均妥結額が2,000円台に回復する見込みだ」などと評価する一方、「依然として他産業水準との開きは大きく、今後も格差是正に向けた取り組みを進めていかなければならない」と訴えている。

「2018春闘では中小企業経営者の意識の変化が感じられた」(難波委員長)

大会冒頭、あいさつした難波委員長は2018春闘の特徴について、「中小労組の頑張りが目立つ春季生活闘争で、とりわけこれまでと際だった違いとして、従業員・組合員賃金に対する中小企業経営者の意識の変化が感じられた」と述べ、経営者の賃金等に対する考え方が組合の主張に近づいてきたとの考えを示した。

また、「公正・適正な取り引きや契約の見直しによって得られた収益を賃金改善分として還元するケースが見られた」と指摘。これについては、「連合が言う『経済の好循環』実現というような社会性をもった前向きな賃金引き上げというよりも、同業他社あるいは異業種への人材流出の防止策といった『企業防衛的賃上げ』の思いからの賃金引き上げの流れも強い」との見方を示した。

その一方で、「企業経営者の主張の中心は、企業収益が出た場合には十分な配分・支払いを行うから心配しないで欲しい、というもの。年収ベースによる引き上げで良しとする経営者も未だに多い」とし、経営側の月例賃金を引き上げることへの抵抗感の根強さにも言及。そのうえで、2019春闘に向けては、「働き方改革の実践による長時間労働の是正が、賃下げとならないように固定給部分を厚くするなど賃金諸制度の見直しを進めて行かなければならない」と訴えた。

ドライバーの時短には荷主や消費者の協力も不可欠

2018年度の方針は、運動の中心に「賃金・労働条件の引き上げ」と「政策・制度実現の取り組み」、「産別組織の強化と拡大」を柱に据える。

6月29日に成立した働き方改革関連法に盛り込まれた残業時間の上限規制は、自動車運転業務への適用が5年間猶予される。上限は一般業務の年720時間に対し、自動車運転業務は年960時間とされ、将来的に一般業務と同等の上限適用を目指すこととなっている。

そこで賃金・労働条件の引き上げでは、総労働時間短縮の取り組みを推進。長時間労働が常態化しているドライバーの総労働時間の短縮に向けて、「手持ち時間や附帯作業に加え、再配達など事業者の努力だけでは解決が困難な課題もあり、荷主や消費者の協力を得る取り組みも不可欠だ」として、中央本部においては、これまでも取り組みを進めてきた「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」でのトラック運輸産業全体の労働時間短縮に向けた議論を進める。また、各単組は現行の改善基準告知の最大拘束時間(月293時間・労使協定により1年のうち6回までは年3,516時間を超えない範囲で月320時間まで)のラインぎりぎりで運行しているケース等について、運輸労連が提起している年間最大拘束時間3,300時間以内(月275時間・最大でも1年のうち6回までは年3,300時間を超えない範囲で月294時間まで)に基づく運行ダイヤに見直すなどの取り組みを進める。

課題を残した状態での副業は「認められない」

一方、事務職や作業職などの「自動車運転の業務」を除いた職種は、働き方改革関連法の施行時(2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日)に残業時間の上限規制の対象となる。方針は、「特定の業務に従事する労働者に業務が集中し長時間労働となる事態を避けなければならない」として、全ての単組が、「人員の補充や交替勤務の導入などの勤務体制の再構築、あるいは休日の増加など、総労働時間の短縮に向けた定期的な労使協議の場の設置をはじめ、それぞれの職場の実態に基づいて、粘り強い取り組みを一層進める」こととする。

なお、方針は「副業」についても触れ、「現状では会社の枠を超えて労働時間を把握できる仕組みがないため、労働者の長時間労働につながる恐れが強く、過労による安全への影響が懸念される」と指摘。そのうえで複数の企業で働くことによる、① 定期健康診断の実施義務 ② 万が一の事故発生時の責任の所在 ③ 社会保険の持ち分のあり方――等を解決すべき点として挙げ、「諸課題が未解決の状態での副業は認められない」との基本スタンスで臨む姿勢を明確にしている。

「雇用に対するなし崩し的な規制緩和」は反対

政策・制度については規制緩和への対応として、「既存の物流網の維持や人の移動手段を代替させる政策をはじめとする『雇用に対するなし崩し的な規制緩和』に強く反対していく」ほか、安全・円滑な交通を確保しつつ集配中の宅配車両等を駐車させることができる具体的な場所の選定や、輸送はもとより労働・安全・環境コストを反映した適正運賃・料金の確立、人手不足解消に向けた営業用自動車の運行に必要な準中型や大型およびけん引免許の取得講座の一層の充実等について、関係省庁等への要望活動や意見反映などを行っていく考えだ。

来夏の参議院選挙は立憲民主党を基軸に支援

大会では、来夏の第25回参議院議員通常選挙の取り組みも確認した。「政策実現のために『立憲民主党』を基軸に支援・協力を行い、議席の拡大を目指す」として、選挙区選挙では、連合が推薦または支援する ① 立憲民主党の候補者 ② 立憲民主党が支援する政党および無所属の候補者を支援。そのうえで、① ② に該当しない候補者については、地連・都道府県連が中央本部と連携のもとに調整する。

比例代表選挙については、「『立憲民主党』を支持することとし、具体的には『非拘束名簿式』の徹底を図るため、個人名をもって取り組む」として、「運輸労連に対して支援・協力要請のある4産別(情報労連、JP労組、自治労、私鉄総連)・4候補者を支援する」(難波委員長)方針だ。