賃金改善などの賃上げ獲得組合の割合高まる/金属労協の2018年闘争中間まとめ

2018年6月22日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、議長=髙倉明・自動車総連会長)は、20日に開いた常任幹事会で「2018年闘争 評価と課題・中間まとめ」を確認した。中間まとめでは、賃金改善などの賃上げを獲得した組合の割合が約7割まで高まったことから「賃上げの裾野が広がった」と評価する一方、中小組合では4割が賃上げを獲得できず、また、毎年賃上げできていない組合もあることから「賃上げが定着したとまでは判断できない」と総括した。

賃上げ回答額の単純平均は1,505円で前年を278円上回る

金属労協の2018年闘争の賃上げ要求基準は「3,000円以上の賃上げ」。5月21日現在の賃金についての集計結果をみると、何らかの労働条件について要求を提出した2,743組合のうち、賃金構造維持分の確保に加えて賃金改善などの賃上げを要求したのは2,258組合(82.3%)。賃上げ要求額の単純平均は3,787円となっている。回答を受けた、または回答を集約した組合は2,386組合で、そのうち賃上げを獲得したのは1,668組合。回答集約組合に対する比率でみると69.9%で、これらは2014年以降(同時期)のなかで最も高い比率となっている。

回答額の単純平均は1,505円(前年同期比278円増)で、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年の翌2015年闘争(1,804円、要求基準は6,000円以上)を除けば、過去5年で最も高い額となっている。また、規模別にみると、1,000人以上が1,496円だったのに対し、299人以下の中小組合が1,563円で、2年連増で中小組合の回答額が大手組合の回答額を上回った。

賃上げ獲得が約7割、「賃上げの裾野が大きく広がった」と評価

中間まとめは、賃上げ獲得組合の割合が約7割となり、299人以下の組合でも6割を超えたことなどから、「賃上げの裾野が大きく広がった」と評価。さらに、すべての規模で前年を上回る回答額となっていることから「こうした成果は、『人への投資』の重要性が浸透し、労働組合として、賃上げによる組合員の意欲・活力の向上、人材確保に向けた産業・企業の魅力を強く訴え続けたことによるものと受け止める」とした。

一方で、2014年闘争から賃上げの流れが続いていることから「賃上げに対する経営側の抵抗感は、従来以上に強くなっている」とも言及し、その理由として、今回の闘争で中小組合の4割が賃上げを獲得できていない点や、賃上げを実施するかわりに一時金水準を抑制されている組合がみられたことをあげた。まとめは「こうしたことからすれば、賃上げが定着したとまでは判断できない」との考えを示し、全組合での賃上げ獲得に向けた一層の対応強化の必要性を訴えた。

「賃金水準重視の取り組み」と「賃上げ額による相場形成」の両立を

賃金水準の格差是正の取り組みについては、「大手と中小の間に存在する賃金水準の大きな格差を是正するには、賃上げ額の共闘とともに、賃金水準重視の取り組みにより、あるべき賃金水準をめざしてく必要がある」と、引き続き格差是正の重要性を強調すると同時に、「賃金水準の格差是正には、賃金水準重視の取り組みが不可欠だが、勤労者に対する成果配分の社会的相場形成、物価上昇に対応した実質賃金確保、あるいは大手と中小、組織・未組織を問わず賃上げの勢いを増していく観点からは、賃上げ額による相場形成が重要であり、賃金水準重視の取り組みを強化しつつ、今後も賃上げ額による相場形成を両立していく必要がある」として、依然として賃上げ幅の相場波及機能の重要性も訴えた。

「消費拡大は賃上げが最も効果的」(髙倉議長)

21日、本部で会見した髙倉議長は今後の課題として、「生産性3原則にもとづき、マクロ経済全体でいかに付加価値生産性の向上を実現し、勤労者に対して適正な成果配分を確保していくかという論点については、今後も深掘り論議が必要だ」と話した。今回の闘争では、経営側から、賃金だけでなく、一時金や手当、福利厚生や能力開発施策なども含めた幅広い範囲での処遇改善の提起もあったが、髙倉議長は「(賃金以外の要素は)人への投資ではあるが働く者への成果配分としての意味合いは同じとはいえない」とし、「継続した賃上げによって生涯の生活設計を可能にし、生活の安定を図る必要がある。消費拡大をはかるためには賃上げが最も効果的だ」と強調した。

今回の闘争では、自動車総連傘下のトヨタ労組が会社側から、賃上げ額そのものが対外的に公表されない形での回答を受けることになった。まとめはこれに関連して「今次闘争では、経営側が賃上げ額を公表しない動きもみられたが、未組織労働者を含めた社会全体に対して、賃上げの相場形成と波及を果たしていくことが労使の社会的責任である。産別交渉で直接的な賃金決定を行わないわが国では、社会的相場形成の中で、大手の賃上げ額がマクロレベルの成果配分の重要なものさしとなっていることを共通認識としていく必要がある」と記述した。

髙倉議長は「今回のような事象が仮に来年も続くとすれば、非常に大きな問題だ」との認識を示しながら、「当該労使の責任だけでなく、大手企業には社会的責任があるという発信を金属労協と産別とでしていかなくてはならない」などと述べた。