3年連続で賃上げ統一要求基準を3,000円以上に/電機連合中央委員会

2018年1月31日 調査部

[労使]

電機連合(野中孝泰委員長、約58万人)は1月25、26の両日、神奈川県横浜市で中央委員会を開き、今春の賃上げ交渉に向けた2018年総合労働条件改善闘争方針を決定した。要求から妥結まで統一的に闘争を展開する中闘組合の賃上げ統一要求基準は、「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の個別ポイントで、3,000円以上水準を改善するとした。3,000円以上を統一要求基準とするのは3年連続。

中闘組合は過去4年連続で賃金水準改善の回答を引き出し

電機連合では、日立製作所やパナソニックなどの大手電機メーカーで中闘組合を構成し、中闘組合はスト指令権を中闘委員会に委譲して、妥結額まで足並みを揃えて会社と交渉を進める。中闘組合は過去4年連続で賃金水準改善の回答を経営側から引き出しており、その額は2014年が2,000円、15年が3,000円、16年が1,500円、昨年が1,000円となっている(「開発・設計職基幹労働者」の個別ポイント賃金において)。合計すると7,500円分水準を改善してきたことになるものの、方針は「引き続き賃上げを通じた生活水準の維持・向上を図ることが重要であり、そのことが個人消費の腰折れを起こさず一層の個人消費の拡大を通じた経済の底支えにつながる」と今次闘争でも賃上げの必要性を強調。また、電機連合が賃金決定の3要素とする ① 生計費(組合員の生活)② 生産性(経済成長など) ③ 労働市場(雇用の状況)は「昨年より改善傾向」と分析するとともに、企業業績は昨年よりも向上することが見込まれていると述べて、「電機産業が引き続き持続的な発展、成長を遂げていくためには、人材の確保・定着と人材育成が重要となる」「製造業における人材不足は顕著となっており、賃金などの労働条件の改善とワーク・ライフ・バランス実現に向けた取り組みが必要」と強調した。

賃金水準改善では「継続性」と「波及の最大化」を重視/野中委員長

方針の具体的な要求内容をみると、例年同様、賃金では「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の個別ポイントにおける賃金水準の引き上げを、産別統一闘争の対象となる統一要求基準項目に設定。統一要求基準は、賃金体系の維持(現行個別賃金水準の確保)を図ったうえで、3,000円以上の水準改善を行うとした。

3,000円以上という要求額の設定は3年連続となるが、野中委員長は25日、中央委員会直前の会見で「過去4年間で7,500円の賃上げの積み上げがあり、年収にすると13万円になる。これにまた3,000円を乗っけるのだから、重みは昨年以上に高まっている」と話した。

あいさつした野中委員長は「とりわけ賃金水準改善については『継続性』と『波及の最大化』を重視して取り組みたい。日本経済における外需の取り込みは非常に大事だ。しかし世界情勢の不確実性がさらに高まっている中での外需依存には不安が伴う。強固な日本経済の構築に向けて内需と外需のバランスが重要で、そのためにも個人消費や国内設備投資に支えられた内需の活性化への取り組みが必要だ」と強調するとともに、「実質生活の維持・向上を図り、個人消費を喚起するためには、継続した賃金水準改善が必要だと考えている。加えて『賃金は上がるものだ』という認識を皆が持つことでデフレマインドのからの脱却も必要だ」と述べた。電機連合によると、中闘組合が引き出した回答の中堅・中小組合への波及効果は年々高まっているという。中闘組合と同等以上の回答を引き出した組合の割合を300人未満の組合でみると(電機連合に加盟する全組合ベース)、2014闘争が61.7%、2015年闘争が63.2%、2016年闘争が65.3%で、2017年闘争では82.4%と8割を超えている。

各企業で協定を締結する産業別最低賃金(18歳見合い)の引き上げも統一要求基準項目に設定した。要求額は16万4,000円(現行水準から3,000円の引き上げ)。もう1つの統一要求基準項目である年間一時金は、「賃金所得の一部としての〔安定的確保要素〕と企業業績による〔成果配分要素〕を総合的に勘案し、平均で年間5カ月分を中心とする」とし、産別としてのミニマム基準を例年どおり、年間4カ月分確保と定めた。

高卒初任給の要求賃金水準を現行から3,000円引き上げ

統一的に取り組むものの、スト指令権の中闘委員会への委譲を求められない「統一目標基準」の取り組み項目では、製品組立職基幹労働者(35歳相当)の賃金の水準引き上げや、年齢別の最低賃金、高卒・大卒の初任給、技能職群(35歳相当)のミニマム基準で、それぞれ要求基準を設定した。今年は高卒初任給について、現行水準から3,000円引き上げて16万5,000円以上の水準とした。従来は、高卒初任給の引き上げ額は賃金の引き上げ額とほぼ同率で設定するが(従来どおりなら1,500円程度となる)、「人手不足と他産業より見劣りする水準である勘案して思い切った要求とした」(神保書記長)。電機連合によると、自動車産業の大手と比べると「8,000円~9,000円もの開きがある」という。野中委員長は「今年3,000円上げても追いつかないことから、戦略的に取り組んでいきたい」と話した。

36協定特別条項の限度時間「1カ月80時間以下、1年720時間以下」へ

電機連合では、春の労使交渉において2年ごとに労働協約の改定に取り組んでおり、今年は協約改定交渉の年に当たる。協約改定項目の主な取り組みをみていくと、長時間労働時間の是正をはじめとした働き方改革を労使で先行して進めるため、まずは労使協議の設置を求めていく。なお、電機連合と電経連に加盟する日立製作所、パナソニック、三菱電機、富士通、NECの大手5社は昨年春の産別労使会議のなかで、「長時間労働の是正をはじめとする働き方改革に向けた電機産業労使共同宣言」をとりまとめている。労使協議では、働き方改革に関する会社方針を確認するとともに、職場における課題や改善点などについて把握し、業務計画や要員配置などの見直しについて協議する。

また、36協定特別条項の限度時間の見直しを求める。電機連合が直加盟組合に対して年間の上限時間を調査したところ、年間では「700時間台」、1カ月では「80時間台」で設定している組合がそれぞれ最も多く、それよりも長い時間で設定している組合もあった。中闘組合では800時間台、900時間台の組合も散見される。方針は、限度時間が1カ月80時間、1年720時間を超える場合、「1カ月80時間以下、1年720時間以下」での締結に取り組むとしている。

このほかでは、治療を受けながら安心して働き続けられる環境整備を図る。有期契約社員の無期転換に関する取り組みとして、無期転換者を正社員としていくことや、不合理な労働条件がないことの確認などを求めていく。

統一闘争からの離脱の有無は2月の中央闘争委員会で決定

中闘組合の顔ぶれは、パナソニックグループ労連、日立グループ連合、東芝グループ連合、全富士通労連、三菱電機労連、NECグループ労連、シャープグループ労連、富士電機グループ連合、村田製作所労連、OKIグループ連合、安川グループユニオン、明電舎、パイオニア労連で、特段の変更はない。2017年闘争まで、東芝は2年連続、シャープは5カ月連続で統一闘争から離脱している。今年の闘争で離脱組合が出るかどうかは、2月19日に開かれる第1回中央闘争委員会で正式に決まる。

野中委員長は東芝労組について「企業業績も回復し、再出発に向けた準備を進めている状況だが、メモリー事業の売却前と後では、私は東芝という同じ会社ではないとみている。それに伴い、新たな課題も出てくるだろう」との見方を示すとともに、当該労組からは「現在は慎重に内部論議しているところ」との報告を受けたことを明らかにした。一方、シャープ労組については「給与やボーナスについては社長が決めるという実態があり、労使交渉がなくなっているのが現場の実態」とし、今後、交渉をどのように進めて行くのか「会社と論議の真最中だと聞いている」と述べた。

中央委員会ではこのほか、新規加盟組合の承認が行われた。人材派遣のスタッフサービスグループ・エンジニア派遣部門から、日産自動車の「日産テクニカルセンター」(神奈川県厚木市)に派遣されている技術者で結成した「スタッフサービス労働組合」(2017年6月、9名)が本部直加盟となった。連合、日産労連(自動車総連傘下)とも相談・連携して組合結成・電機連合加盟までこぎつけたという。