基本方針をまとめた「UAゼンセン労働政策」を決定/UAゼンセンの定期大会

2017年9月15日 調査部

[労使]

わが国最大の産業別労働組合で、製造から流通・小売、外食などまで幅広い業種を組織するUAゼンセン(松浦昭彦会長、160万6,000人)は13、14の両日、石川県金沢市で定期大会を開催した。労働政策にかかわる取り組みを進める上での考え方のベースとなる「UAゼンセン労働政策」を策定。ワーク・ライフ・バランスを支える公正な賃金制度などを目指すとしている。

雇用、賃金、労働時間、安全衛生、労使関係の5項目で目標を設定

「UAゼンセン労働政策」は、UAゼンセンがこれまでの闘争方針や指針、労働協約のモデルなどで示してきた内容を整理するとともに、必要な事項の追加や変更を行ったもの。今後は、労働政策をベースにして、特定項目についての具体的な内容については必要に応じて方針などで示しながら、取り組みの進め方については運動方針や闘争方針で決定する。

政策の具体的な内容をみると、まず目標を「雇用」「賃金」「労働時間」「安全衛生」「労使関係」の5つの視点に分けて設定。雇用については「公正で安定した雇用のもと、誰もが自分の能力を発揮できる職場」、賃金は「安心してゆとりある生活を保障する賃金水準、働きがいとワーク・ライフ・バランスを支える公正な賃金制度」、労働時間は「心身ともに健康でワーク・ライフ・バランスのある生活を保障する労働時間と働き方」、安全衛生は「安全で健康に働くことができ、働くことが心身の健康につながる職場」、労使関係は「信頼に基づく集団的労使関係、人を大切にする経営、より高いレベルの企業の社会的責任」と定めた。

定年年齢を65歳以上または「廃止」へと踏み込む

めざす労働条件や職場については、差別やハラスメントなどがない職場、家庭と仕事が両立できる職場などをあげた。雇用については、安定した雇用の確立をめざし、「無期契約による安定雇用を基本に、職場の実態に応じて働き方を選択できる制度を確立する」と強調。具体策として、有期契約から無期契約への転換制度、短時間とフルタイムや転勤ありと転勤なしとの間の転換制度などの導入を掲げた。また、配置転換や転勤の際には、家族的責任に配慮すべきだとし、単身赴任に関しても「極力行わない」としながら、やむを得ず行う場合は「本人の同意を条件とする」とした。

「意欲と能力に応じて年齢にかかわらず働くことができる職場をつくる」として、定年年齢については、「65歳以上とする。もしくは定年年齢を廃止する」と踏み込んだ。60歳以降の働き方については、「60歳時点の労働内容、働き方で退職時まで働けることを原則」とするとしている。

組合員にとって納得感がある均等・均衡処遇制度を構築

賃金水準や賃金制度では、「安心してゆとり生活を保障する賃金水準、働きがいがもて、ワーク・ライフ・バランスに応じて働き方を選択できる公正な賃金制度をつくる」との考え方を示し、「月例賃金は基本賃金と諸手当により構成し、労働内容を基本に基本賃金と職務関連手当を決定し、働き方の違いや必要生計費の違いを働き方関連手当、生活関連手当で反映する」と整理した。今後は、代表的労働者の銘柄を示して、代表的労働者の目標とする賃金(目標基準)、標準とする賃金(到達基準)、最低基準を示す。

また、ワーク・ライフ・バランスに応じた働き方を選べるようにするため、「労働内容、働き方等の違いに応じて、組合員にとって納得感がある均等・均衡処遇制度をつくる」と強調。その際の基本的な考え方として、① 労働内容だけではなく、働き方や必要生計費等も考慮し均等・均衡をはかる ② 月例賃金、一時金、退職金、福利厚生等の賃金全体で均等・均衡をはかる ③ 均等・均衡を確保するため労働者が働き方を選択、転換できる制度をつくる――の3点を提示した。

月例賃金では、労働内容の違いについて「基本賃金や職務関連手当によって均等・均衡をはかる」などとした。働き方の違いでは、異動の範囲が違う場合は、「必要に応じて、転居負担手当等により均等・均衡をはかる」とし、労働時間の柔軟性が違う場合は、「交替勤務やシフト勤務、時間外労働の義務の違いによる負担の差は、必要に応じて、交替手当、シフト手当等により均等・均衡をはかる」などとしている。

今年は中間年の大会のため、2017~2018年度運動方針にもとづく2018年度活動計画を決定した。労働政策関連では、同一価値労働同一賃金の実現をめざし、短時間組合員について総合的な処遇も含めて均等・均衡待遇の実現を進めていくとしている。このほか短時間組合員に関する政策・運動の充実や労働時間の短縮、賃金闘争における部門別機能の強化などを掲げた。

過去1年間の拡大組合員数は新規加盟と企業内組織拡大を合わせて7万人余

大会で示されたこの1年間の組織拡大状況によると、昨年の定期以降で28組合および3分会(計2万1,062人)が新規加盟した。一方、企業内組織拡大の実績は、56組合(計5万122人)で、これにより、新規加盟と企業内組織拡大を合わせた合計の拡大組合員数は7万1,184人という結果となった。

今期の組織化の特徴として、大手流通サービスの組織化がおおむね終息したことや、地方の食品スーパー・ドラッグストアなどでの新規拡大を推進したことなどをあげている。主な新加盟組合としては、製造産業部門では「武田テバファーマ労働組合」(医薬品製造卸、786人)、流通部門では「ザグザグユニオン」(ドラッグストア、2,583人)、「コノミヤユニオン」(スーパーマーケット、4,000人)、総合サービス部門では「SOMPOケアメッセージグループ分会」(介護事業、7,909人)などがある。

これにより、9月13日現在でのUAゼンセン公表ベースの組合員数は、172万6,356人となった。このうち短時間組合員が99万3,670人(57.6%)を占める。

短時間組合員の一人あたり平均賃上げ率、2年連続で正社員を上回る

大会で報告された2017労働条件闘争のまとめによると、7月26日時点でのUAゼンセン全体での賃上げ額総額(体系維持原資+賃金引上分)は4,402円(うち賃金引上分835円)で、前年差プラス36円とほぼ前年並みだった。

賃上げ額総額を規模別にみると、「300人未満」が4,000円(同777円)で前年差プラス104円、「300人以上」が5,356円(同887円)で前年差マイナス125円となっており、中小労組は前年を上回る結果を残した。

短時間組合員の時給引き上げのUAゼンセン全体での妥結状況をみると、加重平均で21.1円(2.28%)となっており、2年連続で正社員組合員の賃上げ率(今年は1.96%)を上回った。

賃金闘争以外の取り組みをみると、労働時間短縮は30組合で進み、新たに10組合がインターバル規制の導入を実現した。定年制度については6組合が65歳定年の導入で合意し、85組合が65歳定年制導入に向けて労使協議をスタートすることで合意した。

産業、企業規模、働き方それぞれの格差是正を強調/松浦会長

大会冒頭にあいさつした松浦会長は、2017労働条件闘争について、「産業間格差の是正」「企業規模間格差の是正」「働き方による格差の是正」の3つの格差是正を強く意識して臨んだと振り返りながら、産業間格差の是正については「金額的にはまだまだ格差是正が進んだとは言えない状況だが、他産業の相場が下がっても、それに引きずられることなく戦い抜いた各組合の闘争姿勢には一定の前進が見られた」と評価した。企業規模間格差の是正については「中小組合の頑張りは大いに評価できるものがあった」と評価すると同時に、「中小が大手以上に前年比プラスを獲得していく姿を今後とも継続していくことが重要な課題だ」と述べた。働き方による格差の是正については、次年度以降も(パートの賃上げ率が正社員を上回るなどの)成果があがった今年の闘争の流れを持続する必要があるなどと強調した。

当面の政治活動については、次回の参議院選挙に向け、新人の組織内候補の擁立を決定したこともあり、「日本最大の産別であるUAゼンセンとして、連合候補トップの得票を目指したいと思う」と決意表明するとともに、今年度においてすべての都道府県に政治連盟を立ち上げ、加盟組合には自らの連盟を設立するか、あるいは都道府県の連盟に加盟するかを選択してもらう計画があることを明らかにした。

議論の最中にある労働基準法の改正については、「私たちはいくら働いても残業代が支払われない『高度プロフェッショナル制度』の導入と、裁量労働の適用拡大には本来反対だ」と述べたうえで、「一時期、マスコミに『連合が高度プロフェッショナル制度を容認』との報道があり、皆さんに混乱とご心配を招いたことは連合副会長も務める私の立場からもお詫びを申し上げるが、連合もUAゼンセンも本来の立場は変わらない」と強調した。