春季取り組みや60歳以降の就労の考え方について議論/基幹労連定期大会

2017年9月13日 調査部

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連などの労働組合で構成する基幹労連(約25万9,000人)は7日から2日間の日程で、大阪市で定期大会を開き、第9期(2017年9月~2019年8月)の活動方針を確認した。春季取り組みの評価と課題について、「(AP14から)4年連続で賃金改善に取り組み、総合組合を中心に多くの組合で着実な前進が図られてきている」と総括する一方で、要求額に対する回答額の乖離や4年間一度も賃金改善を獲得できなかった組合があった点などを指摘。産業・労働政策中期ビジョンの改訂や、65歳定年延長を視野に入れた特別報告も行った。役員改選では、新委員長に神田健一・前事務局長を選出。新事務局長には弥久末顕・前事務局次長が選ばれた。

基幹労連の春季労使交渉は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方にたち、2006年の労使交渉から2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)で統一要求を掲げる形をとっている。1年目は「基本年度」と位置付け、大手が中心になって賃金などの主要労働条件を集中的に交渉。2年目は「個別年度」として、企業・業種間の格差是正などの交渉を重点的に行う形だ。

業種別部会の判断を重視した前回のAP春季取り組み

前回のサイクルでは、2016年度と17年度の2年を1つの単位として、AP16の春季取り組みでは産別一体となって2016年度・17年度2年分の賃金改善として8,000円基準の要求を設定。そのうえで、業種ごとに加盟組合を束ねる業種別部会の判断を重視して、2016年度だけ要求することも容認した。

その結果、2年分の交渉を行った鉄鋼総合等の組合では、多くが16年度4,000円、17年度4,000円の賃金改善要求を行い、16年度1,500円、17年度1,000円で決着。総合重工等の16年度のみの単年度で交渉した組合は、4,000円を中心に要求を行い、その多くが1,500円の賃金改善で妥結した。

そして、AP17では、総合重工や非鉄大手が前年同様、4,000円の賃金改善を要求し、非鉄大手の一部を除き、1,000円の賃金改善で決着するなどの結果になった。ただし、総合重工については、回答額自体は前年実績を500円下回るが、賃金改善に加えて「別途、課題解決に向けた原資投入」を会社側に確約させている。

AP17では賃金改善の回答を得た組合の7割が前進

こうした状況について、大会で報告された「AP17春季取り組みの評価と課題」は、「一部の組合に厳しい結果が示されたものの、総合組合の多くが1,000円を中心とした賃金改善を引き出した」とし、さらに、大手以外の「業種別組合においても、先行組合の回答結果を追い風にしながら、有額回答を多くの組合で引き出した」などと評価した。具体的には、AP17春季取り組みでは302組合が賃金改善を要求し、回答を得た211組合の約7割に当たる154組合で前進回答を獲得している。

賃金面の今後の課題については、これらの結果を踏まえ、「底上げ・底支えの取り組みをいかに継続させていくか」「継続した賃金改善結果が、マクロとしての経済的・社会的観点、ミクロとしての各産業・企業の観点で、どのように評価され、今後どう向かうのか」などと指摘したうえで、「中央本部・総合組合による業種別組合への支援強化がさらに求められる」ことなどを挙げている。

相乗効果を発揮した業種別部会も

また、基幹労連では、労働諸条件について、業種別部会ごとに実情を踏まえた当面の目標や課題を設定し、それを踏まえた要求を行い交渉に臨んでいる。AP17ではその取り組みが奏功し、最低賃金について造船・機器・エンジ部会25組合が前進回答を引き出したほか、退職金で特殊鋼部会9組合、総実労働時間短縮に向けた要求でも二次加工部会の線材・建材・ドラム缶分科会12組合が前進回答を得るなどの「相乗効果を発揮した取り組み」が見られた。

この点についても「評価と課題」は、「『当面の目標』に近づけていくためにも、引き続き、総合組合やグループ親組合による支援も含め、一層効果の上がる取り組みをつづけていく必要がある」と指摘している。

要求額に対する回答額の乖離や賃金改善を獲得できなかった組合の事例を指摘

さらに、この2年間の賃金改善の取り組みに関しては、「AP16、17の2年分の賃金改善獲得額を見ると、1,000円未満が25組合、1,000円以上2,000円未満が65組合、2,000円以上3,000円未満が102組合(うち2,500円が66組合)、3,000円以上4,000円未満が9組合、4,000円以上が10組合だった」ことを紹介。「(AP14から)4年連続で賃金改善に取り組み、総合組合を中心に多くの組合で着実な前進が図られてきている」としながらも、「全般的に要求額に対する回答額には乖離があることや、この4年間で結果的に一度も賃金改善を獲得でき得なかった組合があること、総合組合と業種別組合の賃金改善獲得額の格差縮小に向けたさらなる取り組みなど、課題は多くある」などと総括した。なお、AP18、19については、今大会で特別報告した「『産業・労働政策中期ビジョン(2017年改)』に基づいて取り組んでいく」としている。

ものづくり産業は人材の確保が喫緊の課題/工藤委員長

あいさつに立った工藤智司委員長は「人手不足であるにもかかわらず、賃金が伸びていないという基調が明らか。中間層の崩壊により格差が拡大し、さらに超少子高齢化が我が国経済に重くのしかかり、財政と社会保障の持続可能性への不安が高まっている」などと指摘。「『強固な日本経済』のもとで、そのエンジンとなる『強固なものづくり産業』をつくり、原点となる『強固な現場』を維持・構築していかなければならない。ものづくり産業は人材の確保が喫緊の課題だ」と訴えた。

産業・労働政策中期ビジョンを改訂

大会では、10年をスパンとする「産業・労働政策中期ビジョン(2017年改)」と「60歳以降就労に関する考え方」の特別報告が行われた。

前者は、活動の基本方針である「産業・労働政策中期ビジョン」について、2010年の策定から6年経過したところで、その先の10年を見据えて一定の見直しを行ったもの。後者は厚生年金の支給開始年齢の段階的な引き上げに伴い、65歳への定年延長を視野に入れた目指すべき方向性を示したものとなっている。

「産業・労働政策中期ビジョン(2017年改)」は、① 超少子高齢社会の下でのダイバーシティの推進 ② ますます進行するグローバル社会への対応――を見直しの大きなポイントに据えたうえで、具体的に取り組む政策として、安全衛生対策をはじめ、産業政策や政策・制度、労働政策、グローバル社会への対応それぞれの取り組みについて点検し、必要な見直しを行った。働く者の生活を支える根幹となる賃金については、人材確保が困難になるなかで、「引き続き、『魅力ある労働条件づくり』と『産業・企業の競争力強化』の好循環を進め、基幹産業に働く者にふさわしい賃金水準として、『金属産業トップクラス』の維持・確保に取り組む」ことなどを明記している。

定年年齢の65歳への延長を視野に検討を

また、60歳以降の就労に関しては、組合員の「総合意識実態調査」で、再雇用制度、選択定年制度、65歳定年制度が3分されている。「考え方」は、こうした状況を踏まえつつ、「65歳現役社会のもとで誰もが65歳まで働く意欲を持ち働き続けられる環境を構築するため、『定年年齢の65歳への延長』を視野に制度検討を具体化していく」ことを提起した。今後、新たな制度の導入に関する検討を行い、そのなかでAP18の要求内容を確認していくことになる。

ちなみに、改訂版の中期ビジョンでは退職金について、従来、設定してきた2,200万円のガイドライン(目安)を、「平均余命が伸びていることやモデル年金受給額が下がっていることを加味」して2,500万円に引き上げている。

2019年の参院選での組織内候補擁立は見送り

一方、新活動方針では、AP18春季取り組みに向けて、「2年サイクル運動を踏まえ、基本年度となるAP18春季取り組みについては、変化の度合いを増す取り巻く環境を精査し、産別運動の役割を示しながら全体として共通認識をもち、労働諸条件改善などを通じ着実な労働政策の実現を目指していく」とした。具体的な方針は、「都度の中央委員会に諮る」。

「働き方改革」に関する労働法制への対応についても、改訂版の中期ビジョンを踏まえ、「AP春季取り組みや通年的な労使話し合いの場を活用し、『真のゆとり豊かさ』を求め実現力を強化していく」としている。

なお、方針は、2019年の第25回参議院選挙での対応について、「組織内候補の擁立は難しいとの判断に至った」としたうえで、「次期参議院選挙においては、他産別との共闘など、具体施策を整理していく」ことを明記した。次期参院選では組織内候補の擁立は見送って他産別との連携にとどめ、「第26回参議院選挙(2022年)を目途に、諸準備をすすめていく」構えだ。

AP18や65歳定年延長について発言が

質疑でも、AP18春季取り組みや60歳以降の就労の考え方に関する発言が多く出された。

AP18については、「限られた運動資源に効果的な配分による取り組みをすることが必要」(新日鐵住金労連)、「賃金改善が重要だが、労使交渉の難航も予想される。課題を明確にして要求根拠に磨きをかけていく必要がある」(JFEスチール労連)、「AP18は基本年度の取り組み。直近のAPにおいて複数年協定の下で4年連続の賃金改善が図られたことは組合員から高い評価を得ており、今次取り組みでも期待感が高まっている」(日新製鋼労組)など、鉄鋼総合組合を中心に2年サイクル運動の意義を訴える意見が目立った。その一方で、「これまでの春季取り組みでは、2年サイクル運動を基本にしながら時々の情勢を考慮したうえで要求を策定し取り組んできた。今後も産別方針の下、部門や業種別部会のまとまりをもって取り組むことが重要」(IHI運搬機械労組)などの柔軟な対応を求める声もあった。

また、65歳への定年年齢の延長を視野に制度検討を具体化するとの考え方が示されたことに対しては、「職場では、60歳以降の雇用と生活の安心・安定の確立やベテラン層の技術技能の伝承、職場の一体感、各世代におけるモチベーションの維持・向上の観点から早期に実現して欲しいといった声がある。ハードルは決して低くないが、働く者すべてがやりがい働きがいを持ち、活き活きと働ける環境の構築に向けて前進していかねばならず、どう具体的な道筋をつけるかが極めて重要だ」(神鋼連合)、「他産別にない政策に果敢に取り組んだものと認識しているが、今後の就労に関する職場の意向は、65歳までの一律定年制と選択定年制、再雇用制度の継続に3分されている状況に変わりはない。引き続き、職場の理解を醸成し、組織全体で丁寧な議論をしながら集約を図る必要がある」(JFEスチール労連)など、目指すべき方向性は理解しつつも慎重な対応を求める発言が目立った。

労使にとって好循環につながる施策に

答弁に立った神田健一事務局長は、「AP18では労働条件全般を2年間に渡って総合的に改善していくことを目指す。今の段階ではそれ以上も以下もないが、改めて触れておきたいことは、2年サイクルの運動を支える軸となる春季取り組みのメリハリは重要。個別年度では、個別課題の対応と中央本部、総合組合を中心に、グループ関連組合等に対し、いかに効果的な支援を行うか。それによる『底上げ・底支え』が職場活力に通じ企業の発展につながる好循環追求に向けた取り組みであることを意識しつつ、これからの議論に活かしていく」などと述べた。

60歳以降の就労に関しては、「かつての60歳定年延長と大きく違う点は、既に60歳以上の人が働いているなかでの制度づくりになること。働き方のニーズの違いや労務管理等、過渡期の課題が様々だということは承知の上で、65歳の定年延長を旗印に議論する」と強調。「各部会や構成組織の状況を十分踏まえ、働く側の思いはもとより、労使にとって好循環につながる施策となるよう対応していきたい」との決意を示して理解を求めた。

神田健一氏を新委員長に選出

大会では役員改選が行われた。退任した工藤委員長の後任に神田前事務局長(新日鉄住金大分労組)、新事務局長には弥久末前事務局次長(住友重機械労連東京地本)がそれぞれ就任し、新体制がスタートを切った。