賃上げ1万1,000円を中心に要求/運輸労連の闘争方針

2017年1月27日 調査部

[労使]

運輸労連(難波淳介委員長、14万3,000人)は25日、静岡県伊東市で中央委員会を開き、「2017春季生活闘争方針」を決めた。賃上げの統一要求基準は、所定内賃金に、定期昇給相当分1.5%と格差是正分を含む賃金改善分3.0%を加えた4.5%を乗じたものとして1万1,000円を中心とする。難波委員長は「2017闘争は、仕事と賃金・労働条件の両面より魅力ある産業として生まれ変わる重要な闘い」と強調した。

「働く者の立場から経営側に『適正な運賃・料金』の収受を訴える」(難波委員長)

冒頭、あいさつした難波委員長は、「1990年以降の規制緩和で、新規参入業者の増大による不毛な過当競争や大きな経済不況によって荷主利益確保の手法として『運賃引き下げ・物流合理化』による『実勢運賃』の下落が続いた。その結果、トラック運輸産業への入職希望者の激減と高齢化によりトラックドライバーが『絶滅危惧職種』となりかねない状況を生み出した。だが、ドライバー不足が起ころうが『ネット通販・eコマース』関連貨物の輸送需要は活発だ」などの現状認識を示したうえで、2017闘争では組合側の主張として、「働く者の立場から経営側に対して、荷主との関係を従属的な関係からビジネスパートナーへとその関係を変え、『適正な運賃・料金』の収受に向けて訴える時であることを指摘する」「同時に、生産性向上のエンジンである人財に対する投資の重要性を強く訴えていく」ことなどを強調。「不安定で不確実な時代にあっても、私たちの産業は、日々の経済活動、人々の暮らしと生活を営むうえで止めてはならない物流に携わっている。トラックドライバーの高齢化と不足の時代に入りつつあっても、運輸・物流の使命は守り続けていかなければならない。2017春季生活闘争は、仕事の面、賃金・労働条件の面、両面より魅力ある産業として生まれ変わるためにも重要な闘いだ」として、適正運賃の収受による収益や人への投資の観点からの適正な配分を求めていく考えを示した。

定昇相当分1.5%と格差是正分を含む賃金改善分3.0%を加えた4.5%を要求

賃金・労働条件の要求項目では、まず賃上げは、統一要求基準として、「所定内労働時間賃金に、定期昇給(相当)分の1.5%と、賃金改善分(格差是正分含む)としての3.0%を加えた4.5%を乗じたもの」とし、平均要求方式での賃上げ要求額は「1万1,000円中心」とした。要求は従来通り、交通労連・トラック部会と同率・同額。今年度の両組織の所定内賃金の共同ベース(単純平均)である24万2,393円に、4.5%を乗じて「1万1,000円中心」を算出している。

なお、地域実態との隔たりが大きい場合には、地域のベース賃金を基礎として要求額を設定する。その際には、ブロック内の直接加盟単組における所定内労働時間賃金の単純平均に4.5%を乗じて算出することとしている。

また、一時金については、年間一括で120万円以上(月数では所定内賃金の5カ月以上)とした。夏季一時金のみを春闘で要求する場合は60万円以上(同2.5カ月以上)とする。

モデル賃金の活用で賃金制度の整備と格差改善を

自動車運転者の労働条件をめぐっては、その改善を図るため、労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が出されており、同告示とともに、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」という通達(改善基準通達)も出されている。同通達では、賃金制度について、「歩合給の場合、通常の賃金の6割以上の賃金が保障される保障給を定めること」とされている。運輸労連は運動方針で、この「6割保障給」の実現を確認。2015年9月には、現行で賃金の40%程度を占める「基本給」と、同20%程度の「仕事給の固定部分」を合わせて「基礎給」とする「モデル賃金」を策定し、賃金制度の整備と他産業との格差是正に取り組んでいる。

交渉に当たっては、このモデル賃金を参考に、① 賃金制度未整備の組合は、定期昇給要素や基礎給などを備えた賃金制度の確立を図る ② 既に制度のある組合は、基準内比率の引き上げをはじめとする制度の改善を目指す ③ 男女間格差の是正を図る――ことに取り組む構え。方針提案した、小畑明書記長は、「時間外労働がなくても生活できる賃金というのが、モデル賃金の考え方であり、所定内賃金部分を全体の6割になるように設計している。また、雇用労働者である以上、安定的な賃金が必要だし、仕事の習熟度に応じた昇給も加味しなくてはならない。そのため、基礎給には年齢・勤続に応じた昇給を入れている。有効な指針になるモデル賃金を是非、(交渉で)活用して欲しい」などと呼びかけた。

最低賃金の取り組みも強化

運輸労連が2016年に行った調査によると、企業内最低賃金協定が「ある」組合は回答のあった482単組中184単組にとどまっていた。最低賃金の取り組みに関しては、まず企業内最低賃金の協定締結組合の拡大に向けて強化を図る。

また、特定(産業別)最低賃金制度についても、「運送コストに一定の割合を占める時間当たり賃金に対して、業界全体として最低ラインの設定をすることになる」(小畑書記長)との考えから、導入に向けた検討を進める。

このほか、2016年度に全都道府県で増額となり、加重平均で25円増の823円となった地域別最低賃金に関しては、すべての雇用者の時給が地域別最低賃金を下回ることのないよう点検活動を徹底する。

総労働時間短縮の取り組みも重視

現在、若者を中心にドライバー不足が深刻化しており、その大きな要因として、長時間労働が常態化していることが指摘されている。方針は、厚生労働省による2015年の全産業の総労働時間が年間2,172時間であったのに対し、運輸労連調査による同年の総労働時間が2,598時間で426時間も差があることに着目。「その改善が求められる」として、①「対前年10%以上の時間外労働の短縮を中心に年間総労働時間を2018年度には2,100時間以内にする」ことなどを掲げた第9次時短中期方針の到達実現に取り組む ② 36協定の点検・適正化などを図る ③ 適正な時間外労働手当の支給など、法令遵守の取り組みを進める ④ すべての単組で時間外割増率の引き上げについて、(1) 月60時間以内は時間外割増率30%以上 (2) 月60時間超は同50%以上 (3) 休日割増は50%以上、を求める ⑤ 時間単位の年次有給休暇の実施は、日単位の取得が阻害されないことを前提に容認する ⑥ 計画的な年休消化に取り組む――ことなどを提起した。

長時間労働の抑制等に向けた政策・制度要求も

方針は、時間外労働の規制に関する新たな動向について言及している。

トラックドライバーの運転者の総拘束時間のあり方に関しては、改善基準告示で基準が定められているが、運輸労連では昨年の大会で同告示について、現行の「過労死労災認定基準」を超過している現在の上限時間をまずは過労死認定ライン以内に抑えるよう、年間の最大拘束時間を現行の3,516時間から3,300時間以内(月間では現行の293時間から275時間以内)に短縮する考え方を確認している。

一方、2016年9月からの政府の「働き方改革実現会議」で、時間外労働の上限規制のあり方などの議論がスタートし、同会議に関係閣僚として出席した石井国土交通大臣は、「トラック関係の働き方改革は待ったなし」と発言。連合の神津会長も、労働時間の量的上限規制の導入を求めて「現在、告示にとどまっている時間外労働限度基準を法律に格上げするとともに、特別条項付き36協定を締結する場合における上限時間規制を法定化すべき」とし、あわせて「現在は限度基準の適用除外とされている自動車運転の業務などを同基準の適用業種にするべきだ」との考えを示した。

方針は、「政府内で限度基準告示の法律化に向けた議論が加速されたことについては、大きな前進」としながらも、「改善基準告示で定める運転時間、拘束時間・休息期間の遵守、また6割保障給などについて、連合・事業者団体の考えと整合性を図ることも必要だ」と指摘。トラック運送事業の長時間労働の抑制等に向けた環境整備を議論する国土交通省の「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」に対し、実態調査の実施を求めるとともに、「長時間ありきの賃金水準の改善の必要性を訴求することが必要であり、トラックドライバーに対する何らかの所定内賃金水準の指標が示されるよう行政に要請していく」としている。

65歳までの雇用確保と処遇改善も

65歳までの雇用確保については、「すべての単組で65歳までの定年延長に取り組むこと」を基本に、定年延長が困難な場合には、「再雇用により希望者全員が65歳までの雇用を確保できるように取り組む」とし、その処遇について改善を求めていく考え。なお、方針説明では、定年後の再雇用労働者への労働契約法20条の適用が問題となった長澤運輸事件の控訴審判決についても触れ、「事実認定が全く同じであるにもかかわらず、判断が180度変わる控訴審判決があった。現在、上告しているので、最高裁判決がでた段階で対応を考えたい」(小畑書記長)としている。

方針はこのほか、非正規労働者の処遇改善や退職金の充実、安全対策などの要求にも取り組むとしている。