3,000円以上の賃上げ要求基準は前年同水準/自動車総連の中央委員会

2017年1月18日 調査部

[労使]

自動車総連(相原康伸会長、約77万人)は12日、広島県広島市で中央委員会を開催し、今春闘に向けた「2017年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。平均賃金での要求基準は昨年と同水準で、「3,000円以上の賃金改善分を設定する」とし、昨年に続いて直接雇用の非正規労働者の賃金について原則として賃金改善分を設定するとした。

要求水準の設定は「これまでの3年間の延長ではない」(相原会長)

平均賃金要求に関する具体的な要求基準について、方針は「全ての単組は、求める経済・社会の実現、現下の産業情勢を踏まえ、強い意思をもって、賃金格差・体系の是正と生産性向上に対する成果配分をもとめるべく、3,000円以上の賃金改善を設定する」と述べ、直接雇用の非正規労働者についても「原則として、賃金改善分を設定する」とした。3,000円以上の要求水準は2016方針と同じだが、自動車総連では「これまでの3年間の延長ではなく、いかなる水準が望ましいか議論した」(相原会長)と、ゼロベースから議論した結果であると説明する。

中央委員会であいさつした相原会長は「自動車総連は2014年以降、2015年、2016年と総合生活改善の取り組みにおいて、『底上げ』『格差是正』を着実に前進させ、賃金引き上げの流れを波及するうえで、一定の役割を果たすことができた。一方で、社会保障制度改革の遅れと将来不安、産業を支える中小労組の継続的な労働条件改善、不安定雇用及び処遇差の広がり、労働力人口の減少と生産性向上につながる健全な働き方など、先送りが許されない日本の構造課題も明らかだ」と述べながら、「日本の経済も社会も今は踏ん張りどころにある。迎える2017年総合生活改善の取り組みは、過去3年の延長線ではなく、日本の構造課題の克服に切り込むための環境をみんなで創り出す重要な位置づけにある。こうした認識に立って、この間唱えてきた、デフレ脱却、経済好循環に代える形で、『働く者の将来不安の払拭と日本経済の自律的成長』を新たな取り組み課題として提起する」として、新たな要求根拠による3,000円以上の設定である点を強調した。

また、相原会長は、今回の方針策定で念頭に置いた点は ① 緒についた底上げ・格差是正の流れを止めないこと ② 中小労組・非正規労働者の処遇改善を加速させ自動車産業の総合力を底上げしていくこと ③ それらを通じ、すそ野の広い自動車産業の社会的役割をなお一層果たすこと――の3つだと説明。「そのためには、『継続』、すなわち、相応の痛みを伴っても進めるべき社会保障制度改革の実現には、何としても日本経済をプラスサイドに置き続けるエネルギーが必要。同時に、真の構造転換、すなわち企業規模や業種、正規・非正規を問わず、産業を支えるすべての仲間が自らの賃金課題を継続的に改善し、底上げを可能とする新しい総合生活改善へと『転換』していく推進力を生み出す必要がある」と述べた。

「各単組の判断により設定する」5段階の到達目標水準を提示

個別ポイント絶対水準要求での要求基準は、「技能職中堅労働者(中堅技能職)の現行水準を維持し、水準向上や格差・体系是正に向け、各単組の判断により賃金改善分を設定する」とし、「賃金センサスプレミア」(37万円)~「自動車産業ミニマム」(24万円)まで5段階で到達目標水準を示した。

企業内最低賃金協定の締結に向けた取り組みでは、未締結の単組は「新規締結に必ず取り組む」、すでに締結している単組は、「要求基準に未達の場合は、締結額の引き上げを図る」とし、18歳の最低賃金要求を15万8,000円と設定した。昨年までの取り組みでは、締結率は約77%(871組合)となっている。また、正規従業員のみを対象とした協定を締結している単組(昨年までの取り組みでは727組合ある)は、非正規労働者への締結対象の拡大を目指すことなども盛り込んだ。

一時金は「年間5カ月を基準」の要求、非正規の賃金改善は「時給20円を目安」に

年間一時金については、2016方針と同様、「年間5カ月を基準とし、最低でも昨年獲得実績以上とする」などとした。

非正規労働者の賃金改善分の設定では、「時給20円を目安とし、各単組における労務構成や配分決定のあり方などを考慮して決定する」などとした。なお、20円は、正規従業員の要求水準である3,000円を、組合員の平均総実労働時間(163時間)で割って算出している。

今回の取り組みでは働き方の改善についても例年以上に力点を置き、「とりわけ、労働時間管理の適正化、36協定特別条項への対応は。コンプライアンスの観点はもとより、過重労働による健康障害・過労死の防止の観点からも、これまで以上に取り組む」としている。36協定では具体的に、年間特別延長時間について、年間540時間以下となるよう、引き下げに取り組み、直近の協定で720時間以下となっていない単組においては、「これまで以上にこだわって取り組む」とした。

トランプ次期政権誕生による自動車産業への影響を懸念

自動車産業を取り巻く情勢をめぐっては、20日に就任予定のトランプ次期アメリカ大統領が、保護主義的な通商政策を支持する発言をしたことや、日系の自動車メーカーも名指しして、メキシコでの自動車生産を非難したことなどが話題となっている。相原会長はあいさつのなかで、これまでのトランプ氏の発言などについて触れ、「トランプ次期大統領は、アメリカの雇用がメキシコに奪われているとして、北米自由貿易協定(NAFTA)を敵視してきた。ただし、現在、メキシコで生産されアメリカに輸入される年間約200万台のうち、約6割は、米国自動車メーカー製であり、その台数は日系メーカーのすでに2倍にのぼっている。もし仮に、伝えられるような高い関税が課された場合の影響、その表れ方は明らかだ」と、今後の影響に対して懸念を示したうえで、「自由貿易体制が強化されたモノやサービスが行き交うこのグローバル時代には、特定の国や産業を念頭におく閉鎖的な態度は、当該国や当該地域、さらには多くの自動車ユーザーにも利益をもたらさない」などと述べた。また、中央委員会の開会前に行われた記者会見で相原会長は、不透明な国際情勢の春闘への影響について、「(会社側の姿勢において)賃上げ全体が様子見となることは絶対に避けなければならない」と述べた。

昨年スタートした付加価値の「WIN-WIN最適循環運動」をさらに展開

中央委員会ではまた、1年前の中央委員会でスタートさせ、自動車産業の付加価値をメーカーから販売、輸送にまで至る産業全体に循環させることを目指す「付加価値のWIN-WIN 最適循環運動」の取り組み状況を説明するとともに、2017年の取り組みテーマを発表した。2016年では、日本自動車工業会など各経営者団体を総連本部が訪問し、運動の理念やイメージを紹介して運動への理解を求めた。また、夏には、経済産業省も参加したフォーラムを開催して意見交換を行った。

自動車総連は、当面の全体テーマとして、(1)産業内の適正取引促進、(2)生産性・付加価値の向上、(3)人材確保に向けた産業の魅力向上、(4)地域における協力強化――の4つを設定。産業内の適正取引促進では、自動車産業適正ガイドラインや下請法の周知徹底などに取り組み、生産性・付加価値の向上では、過度な値引きをなくしたり、年末、月末に販売集中する慣行の見直しなどを想定した商習慣の改善などに取り組むとしている。「中央最適循環委員会」を本部に設置し、4つのテーマの取り組みの実践と評価を担当する。自動車総連は中央委員会のなかで、各グループ労連に対し、今回の労使交渉のなかで、この1年間の取り組みについて経営側に説明するとともに、4つのテーマについて意見交換するよう要請。経営側の意見も踏まえながら、各労連独自のテーマ設定などを行っていくとしている。

議案討議では、「付加価値のWIN-WIN 最適循環運動」に関連して富士労連から、メーカー社員が自分の車を販売店で点検してもらう際には、販売店の業務負荷を軽減させるために、平日に有給休暇を取得して行うように努めているとの事例報告があった。自動車総連の山口健・副事務局長は「日本自動車部品工業会会長からは、昨年3月の会議で『これで自動車産業におけるバリューチェーンに向けた憲法ができた』とまで言ってもらえた。経営側も巻き込んだ運動環境が整いつつあり、今後は業種間の連携にも入っていきたい」などと述べた。