賃上げ要求基準「3,000円以上」/金属労協の2017年闘争方針

2016年12月7日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の金属5産別労組で構成する金属労協(JCM、相原康伸議長)は2日、東京都江東区で協議委員会を開き、来春闘の闘争方針となる「2017年闘争の推進」を確認した。方針は、継続的・安定的な賃上げに取り組み、賃金の底上げと格差是正を実現するとして、要求基準について前年同様、「賃金構造維持分を確保したうえで、3,000円以上の賃上げに取り組む」とした。

「消費の遅れが経済の足を引っ張る状況を受け止めて闘争に臨む」(相原議長)

冒頭、あいさつした相原議長(自動車総連会長)は、国内外の経済情勢や雇用動向に触れたうえで、「いくつかの景気指標に関し、いわゆる『底を離れる』兆しが見えてきている一方で、個人消費に関しては一進一退が続いており、回復が遅れている」と概括した。そして、2014年闘争以降、3年連続で賃上げに取り組み、「多くの組合で賃上げを獲得し、景気の底支えと賃金の底上げ・格差是正に一定の役割を果たしてきたが、一方で日本経済はいまだ『好循環』軌道に至っていない」として、「消費の回復の遅れが経済の足を引っ張る状況をしっかりと受け止め、2017年闘争に臨む必要がある」と述べた。

また、相原議長は、2016年闘争を振り返り、「『底上げ・格差是正』を重視した取り組みを展開し、中小組合において、ほぼ大手と遜色のない、一部では大手を上回る賃上げを獲得し、企業内最低賃金においても賃上げ額以上の引き上げを獲得した」としながらも、2016年闘争で賃上げを獲得できた組合は全体の6割弱、中小企業に限ると5割に至っていない状況を踏まえ、「人手不足が顕著となっているなか、中小企業の現場を支える人材の確保、技術・技能の継承・育成は、困難をきわめる状況に陥っており、賃金・労働諸条件改善は喫緊の課題。金属労協3,300を数える大手、中堅、中小組合それぞれが賃上げに取り組み、波及効果を及ぼしあい、相乗効果を高めていくことが不可欠だ」と強調した。

さらに、生涯生活設計の観点からも、「将来の社会保障に懸念があることも積極的な消費に踏み切れない要因にあげられる」と指摘。「継続的な賃上げと雇用の安定により、勤労者の税・社会保険料の負担能力を強化することで、社会保障制度の抜本的改革につなげることが必要だ」と訴えた。

賃金の底上げ・格差是正の実現に向けて着実な前進を

闘争方針は、基本的考え方で、「2017年闘争では、『人への投資』による金属産業に働く者の生活向上と安心・安定の確保、人材の確保、職場全体のモチベーションの向上を図るため、継続的・安定的な賃上げに取り組んでいく」「すべての組合が賃上げを獲得することを通じ、すべての勤労者に賃上げの効果を波及すべく、賃金の底上げ・格差是正の実現に向け、着実な前進を図る」などと明記したうえで、① 賃金・労働諸条件の引き上げ・改善 ② 非正規労働者の雇用と賃金・労働諸条件の改善 ③ バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築 ④ 政策・制度要求――の4項目について、闘争を推進していく考えを示した。

賃金制度維持分を確保した上で3,000円以上の賃上げを

具体的な要求基準を見ると、賃金の引き上げでは、「国内外の経済情勢、産業動向、勤労者の生活実態などを見据えたうえで、強固な日本経済構築の観点、金属産業における競争力確保と人材確保、金属産業に働く者の生活向上を踏まえて、継続的・安定的な賃上げに取り組み、底上げ・格差是正を実現していく」として、「定期昇給など賃金構造維持分を確保した上で、3,000円以上の賃上げに取り組む」ことを掲げた。

賃上げ分「3,000円以上」は2016年闘争方針と同水準。同日記者会見した相原議長は、この水準について「強い職場、強い金属産業、強い日本経済をつくっていくうえで望ましいわれわれの態度はいかにあるべきかをゼロから積み上げてきた。昨年の水準を念頭に上げ下げを考慮したものではない」などと説明した。

企業内最賃の協定締結と水準引き上げも

一方、JCミニマム運動では、企業内最低賃金について、全組合での協定締結と水準の引き上げをめざす。

2016年闘争後の金属労協全体での締結組合数は1,761組合で、締結率は53.9%。18歳最低賃金の協定額の平均は、月額で15万7,362円となっている。未締結組合は協定締結に取り組み、協定締結では非正規労働者を含めた協定締結をめざす。協定額の引き上げは、「月額15万9,000円以上の水準、もしくは月額2,000円以上の水準引き上げ」を求める。

また、企業内最低賃金協定に準拠した水準への特定(産業別)最低賃金の引き上げや、金属産業で働く賃金水準を下支えする「JCミニマム(35歳)」として、月額21万円以上を設定し、これ以下で働くことをなくす運動を展開する。

なお、一時金に関しては、従来通り、年間5カ月分以上を基本とし、最低獲得水準として年間4カ月分以上を確保する。

『働き方改革』を推進するなかで労働時間短縮を

賃金・一時金以外の諸条件では、総実労働時間について、「恒常的な長時間労働や、年次有給休暇を取得できないような仕事の進め方、働き方、組合員の意識を根本から見直していく『働き方改革』を推進する」なかで、年間総実労働時間1,800時間台の実現をめざすなどの労働時間短縮を求める。このほか、仕事と家庭の両立支援の充実や男女共同参画の推進等のダイバーシティへの対応などにも取り組む。

改正労働契約法を踏まえた正社員への転換を

非正規労働者について、2016年闘争では、組合未加入であっても労使交渉や労使協議などを通じて賃金・労働諸条件の改善に取り組むよう、各産別で具体的な要求水準を示した。2017年闘争は「非正規労働者の賃上げに取り組む」2年目として、非正規労働者の賃上げ水準を設定するなど一層の強化を図る考え。今年8月に策定した「第3次賃金・労働政策」で取り組むべき課題を示した「(非正規労働者と正社員の)『同一価値労働同一賃金』を基本とした均等・均衡処遇のあり方」の確立に向けた検討も開始する。

また、2013年4月に施行された改正労働契約法により、有期雇用契約が通算5年を越えた場合、労働者からの申し出により無期雇用契約に転換することから、「2018年4月以降、多くの非正規労働者が対象となることが想定される」として、正社員への転換を促進する取り組みにも重点を置く。具体的には、労働契約法による有期契約から無期契約への転換に際しては、「正社員を基本とし、職務経歴や職務遂行能力を踏まえた適切な処遇を行う」とともに、「短時間正社員や勤務地、職種を限定する正社員の働き方に転換する場合には、一般的な正社員への転換を可能な制度とし、一般的な正社員との均等・均衡待遇を確立する」などとしている。

さらに、労使交渉や協議の基盤整備として、組織化を図るとともに職場での実態や課題の掌握に努める。

なお、登録型派遣に関しても、派遣元から派遣労働者の派遣先での直接雇用の依頼があった場合、派遣元と派遣労働者との雇用契約が終了した際に、正社員としての直接雇用を積極的に検討することとしている。

バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の構築

金属労協では、2016年闘争から、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の構築を掲げている。これは資源、素材、部品、セットメーカー、販売、小売、メンテナンス・アフターサービス、ロジスティックといったバリューチェーンの各プロセス・分野の企業で適切に付加価値を確保し、それを「人への投資」、設備投資、研究開発投資に用いることにより、強固な国内事業基盤と企業の持続可能性の確保を図っていこうとする取り組みを指す。2年目の取り組みとなる2017年闘争では、引き続き考え方の理解促進を図るとともに、付加価値の創出と適正配分に向けた実践活動に着手していく。