「JAM運動共創イニシアティブ」の検討を開始/産別労組JAMの定期大会

(2016年8月31日調査・解析部)

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(宮本礼一会長、35万6,000人)は25、26の両日、静岡県熱海市で定期大会を開催し、2017年度活動方針(2016~17年度運動方針の補強)を決定した。2019年の結成20周年に向け、20周年以後の運動の方向性を検討する「JAM運動共創イニシアティブ」プロジェクトの立ち上げを提起した。

2015年から「ブラック企業対策本部」を設置、不誠実団交などに対応

大会で報告されたこの1年間の活動報告によると、50万人組織をめざすとして2014年度からスタートした組織拡大の取り組み「アタック50」では、2016年度における新規加盟組合数は18組合で、拡大人員数は2,700人だった。前年度の実績(17組合、1,723人)と比べると、組合数はほぼ同程度で、人員数では1,000人弱の拡大実績となっている。一方、2016年度において解散・離脱した組合が19組合(545人)あった。

現在JAMのいくつかの組合で、同一の企業グループから、「不誠実団交や労働協約の改悪などの攻撃にさらされている」として、2015年7月から「ブラック企業対策本部」を設置して対応にあたっている。たとえば、別の企業グループがJAM傘下の組合企業の株式を取得して支配会社となった途端に、労働組合に攻撃を始め、一方的にそれまで結んでいた労働協約の破棄を求めたり、一時金の不払いを主張したりするケースがある。JAM本部は、現在、3単組を支援しているものの、問題解決に至っていないことから、2単組について労働委員会に救済を申し立てたと報告した。

活動報告に関する討議では、ブラック企業対策、男女共同参画、熊本地震への対応についてコメントや意見が出された。ブラック企業対策については、JAM大阪が、ある単組の夏季一時金の支給をめぐる取り組み経過を報告し、産別一体となった一層の協力態勢の構築を求めた。

4月に発生した熊本地震では、震度が大きかった熊本県益城町にある井関農機労組熊本支部(井関農機熊本製造所)など、県内の加盟組合支部の多くが操業停止などの被害を受けた。JAMでは4月17日に熊本地震災害対策本部を設置。井関農機熊本製造所はグランドを開放し、社会福祉協議会主体のボランティアセンター開設などに協力した。5月の連休中までの間は、JAM九州・山口(25労組)と井関農機労組を中心にボランティアを実施した。

熊本地震への対応に関する討議では、JAM九州が、会長の現地訪問のタイミングも含めた本部による現地へのサポート態勢について苦言を呈し、これに対して本部の河野哲也書記長は「参議院選挙に向けた活動があったことなどは理由にならない。意見を真摯に受け止め、今後に活かしたい」などと答弁した。

有額回答比率は87.3%で、過去3年間では最も高い数字(春闘総括)

大会では、2016年春季生活闘争総括を確認した。2016年闘争の交渉単位数は1,579組合で、要求数は1,196組合となっている。平均賃上げでの要求・妥結状況をみると、平均の要求額は8,054円、妥結額は4,870円。要求額、妥結額を同一組合で前年と比べると、それぞれマイナス1,532円、マイナス506円となっている。

賃金構造維持分を明示できる854組合のうち、756組合が賃金改善分の要求を行った(改善分の平均要求額は4,492円)。賃金構造維持分を明示できる組合で回答を受けた824組合のうち、賃金改善分の有額回答を受けたのは495組合で、平均の改善分は1,363円と昨年を599円下回った。ただし、構造維持分割れとなった組合数は過去3年で最も少なかった(16年=37組合、15年=42組合、14年=49組合)。

全単組の最終状況調査によると、有額回答比率は87.3%で、過去3年間では最も高い数字となっている。有額回答なしの比率は12.7%。要求断念とゼロ妥結を合わせた「賃金凍結単組」の比率は調査開始(2002年)以降で最低の4.8%を記録した。

総括は2016年の取り組みの概要について、「賃金改善の獲得状況は、単組数、金額とも、昨年、一昨年に次ぐ3位」「中小を中心とする健闘が著しく、3月末まで集計値が低下しない状況も見られた」「中小の健闘は規模の小さいところでむしろ顕著であり、賃金カーブの是正、または格差是正へ向けた全体的な動きが感じられる。その背景として雇用情勢のひっ迫があると思われる」などとし、今後の課題については、「2016年の取り組みでは、賃金改善の獲得において中小が大手を上回るという中小の動きが注目された。中小のこうした健闘は来季も引き継いで行かなければならない」などと整理している。

あいさつした宮本会長は春季生活闘争について、「年齢や職種などの銘柄による個別賃金を重視し、月例賃金の引き上げにこだわり、『賃金の社会性を重視』する取り組むことが重要だ」とし、「賃金水準引き上げは、最低でも物価上昇分を確保することで、実質賃金を維持することが基本となるが、賃金格差の是正やマクロ経済全体に与える影響など、さまざまな要素を加味した要求が求められる」などと述べた。

結成20周年に合わせて新たな運動ビジョンを提起、19年の定期大会から実行

2017年度活動方針では、2019年に結成20周年を迎えることから、20周年後の運動の方向性を検討する「JAM運動共創イニシアティブ」プロジェクトの立ち上げを盛り込んだ。JAMでは結成10年の際に、「JAMこれからの10年に向かって」という運動ビジョンを作成しているが、取り巻く環境などが変化していることや、組織人員も減少していることもあり、20周年に合わせて新たな運動ビジョンを作成する。

具体的には、JAMイニシアティブ推進室を設置。テーマごとに検討するプロジェクトチーム(PT)を発足させる。PTメンバーには、OBや外部有識者も加える。2018年の定期大会でイニシアティブ案を提起し、2019年の定期大会から実行に移すスケジュールを描いている。

このほか、先の第24回参議院選挙の中間まとめを報告し、確認した。組織内候補として、副会長の藤川慎一氏を民進党比例代表で擁立したが、同党で13番目の得票数(11万3,045票)で落選した。組織内議員(参議院議員)で2期12年勤めた津田弥太郎氏が同選挙で出馬せず、引退したため、これによって国会議員のJAMの組織内議員は一人もいない状況となった。