産業政策の推進や提言機能の強化を/生保労連定期大会

(2016年8月26日調査・解析部)

[労使]

生保労連(22万5,000人)は24日、都内で定期大会を開き、2016年度の運動方針を決めた。新運動方針の柱は、(1) 生保産業の社会的使命の達成 (2) 総合的な労働条件の改善・向上 (3) 組織の強化・拡大 (4) 生保産業と営業職員の社会的理解の拡大――の4本。このうち、労働条件の改善・向上では、2017春闘に向けた「総合生活改善闘争の基本的考え方」も示している。役員改選では、浜田一郎委員長(第一)が退任し、後任に大北隆典副委員長(朝日)を選出。大長俊介書記長(日本)も退任して、宮本進平副書記長(明治安田)が就任した。

公私ミックスの社会保障システムの確立を

運動方針を見ていくと、1つ目の柱である「生保産業の社会的使命の達成」については、「産別組合としての責任ある行動が一層求められるなかで、生保労連に求められる社会的役割はさらに高まっている」と指摘したうえで、「健全な産業づくりや生保産業の産業別労働組合ならではの活動・政策提言等を通じて、社会に一層貢献し、生保産業の社会的使命の達成を図る」と強調している。

具体的には、国民が安心できる生活保障をつくるための税・社会保障に関する政策の策定・提言を行うほか、政策活動の効果的な推進に向けて支援議員との連携を強化。連合の政策にも生保労連の政策がより反映されるよう努める。さらに、生命保険に関連する規制改革や保険商品の募集・勧誘ルールをめぐる動向、郵政民営化への対応など、産業政策の推進やチェック・提言機能の強化が中心になっている。

この点について浜田委員長はあいさつで、「国民一人ひとりが安心のできるくらしを実現するためには、持続可能な社会保障制度とともに、生命保険等の私的保障の提供を通じた『公私ミックス』による生活保障システムの確立が必要だ」と指摘。「社会保障財政が厳しさを増すなか、遺族・老後・医療・介護の各分野において、国の社会保障制度と相互に補完しあい、国民の様々なニーズにこたえる生命保険の役割・重要性は今後、さらに高まる」との認識を示したうえで、「国での議論の状況を注視しつつ、われわれの考え方について広く提言していきたい」などと訴えた。

このほか、「お客さまとともに発展する営業職員体制をめざす取り組み」として、採用・育成・教育問題等の営業職員体制が抱える課題について、調査・研究を実施。営業職員体制をめぐる課題についても、労使の共通認識を深めるとともに、その解決に向けて業界レベルでの取り組みを進める考えだ。

統一闘争の基本的考え方を確認

2つ目の「総合的な労働条件の改善・向上」は、「組合員の意識や取り巻く環境が変化していくなかで、安心と働きがいの持てる職場・ルールをつくることが一層求められている」との認識のもとで、「統一闘争を通じた共闘効果・相場形成の発揮、各組合の取り組みに資する情報交換・情報提供などを通じて、組合員の総合的な労働条件の改善・向上をはかる」構え。2017春闘に向けた「総合生活改善闘争の基本的考え方」に基づき、全組合が参加する統一闘争を推進。組合員一人ひとりが「働きがい・生きがい」を実感できる総合的な労働条件の改善・向上に向けて具体的な前進をはかるとしている。

営業・内勤職員の収入の向上に取り組んだ2016春闘

生保労連では2004年度から、春闘を「労働諸条件全般を見据えた総合的な生活改善闘争」と位置付け、年間を通じた統一闘争を進めてきた。2016春闘でも、統一取り組み課題として、(1) 経営の健全性確保 (2) 営業職員体制の発展・強化【営業職員関係】 (3) 賃金関係(営業支援策の充実【営業職員関係】、賃金改善、人事・賃金制度関係【内勤職員関係】) (4) ワーク・ライフ・バランスの実現 (5) パート・有期契約労働者の処遇改善【内勤職員関係】――を設定し、秋季から取り組みを展開してきた。

また、2016春闘では賃上げの統一要求基準として、内勤職員は「賃金体系の維持分(昇級ルール、賃金カーブ等)を確保した上で『年間総収入』の向上に取り組む」として総収入の上昇を、一方、営業職員は出来高給体系を基本とする賃金制度・体系を踏まえ、営業支援策の充実・強化を最重要課題に掲げて「実質的な収入の向上をはかる」ことを追求した。さらに、ワーク・ライフ・バランスでも、全組合が参加する統一共闘課題として「両立支援制度の拡充・活用促進」を目指した。

「実質的な収入の向上」につながる幅広い回答を引き出す/営業職員

大会で報告された「2016春闘の取り組みの成果と課題」によると、営業職員の賃金改善については、10組合が取り組んだ結果、「支給規定上の改善」(3組合)、「新契約活動に対する労働評価」(8組合)、「保有・保全活動に対する労働評価」(5組合)、「資格格付基準の緩和」(3組合)「臨時・特別措置の実施」(9組合)、「施策関係」(8組合)などの回答を引き出したという。

生保労連では、「『賃金改善の概念』を踏まえた幅広い内容の要求を行い、着実な成果があった」などと評価。そのうえで、今後の課題として、「『新契約活動』および『お客さまサービス活動』に対する労働評価を要求根拠の主体とし、組合員の期待・納得感に最大限応える取り組みを推進していく必要がある」ことを挙げている。

多くの組合で「年間総収入の向上」が実現/内勤職員

内勤職員の賃金改善は、月例給与に5組合、臨時給与に13組合、年収制に3組合が取り組み、多くの組合で「年間総収入の向上」になる回答が引き出せたという。具体的には、月例給与で1組合が昇給ファンドアップの回答を引き出したほか、臨時給与は「支給水準の引き上げ」(2組合)、「支給水準の引き上げと併せ単年度の特別対応の実施」(1組合)、「単年度の特別対応の実施」(8組合)等の回答を得た。年収制でも「昇給部分のファンドアップ」と「臨休部分への単年度の特別対応」の回答を、それぞれ1組合が引き出している。

生保労連は今後、「賃金改善」の考え方・取り組み方法、要求根拠について、経済環境・社会環境の変化を踏まえた理論補強を進めるとともに、各社の業績や経営課題を踏まえた効果的な取り組み方法について、幅広く検討を行う必要性を指摘している。

ワーク・ライフ・バランスでも一定の成果

このほか、ワーク・ライフ・バランスについては、2020年8月までを取り組み期間とする中期方針に沿った形で、「取り組みメニュー」を設定。各組合はそれを参考に「めざす姿」の実現に向けて取り組み、総労働時間の短縮や両立支援制度の拡充、健康増進などの前進が見られたという。

浜田委員長はこの取り組みについて、「個別労使、ひいては産業全体において取り組みが進められ、関連する制度や施策の導入および実効性確保に向けた取り組みも進んできている」と評価する一方で、「企業・職場・職種ごとに進捗度合いが異なっているのが現状だ」と指摘。「歩みを止めることなく、積極的に取り組んでいこう」と呼びかけた。

研究会を設置して今後の闘争の方向性や進め方の検討も

こうした結果を踏まえ、大会では2017春闘の基本的な考え方や取り組み課題を含めた「総合生活改善闘争・基本方針」を確認した。運動の継続性と組織的な理解、賃金関係の取り組みへの基本スタンスを変えずに、前年と同じ5つの統一取り組み課題を設定する。また、今年度は組合員のニーズ・関心や諸環境の変化等を踏まえて「今後の総合生活改善闘争に関する研究会」を設置。今後の総合生活改善闘争の方向性や進め方について、検討を行うとしている。

ユニオンリーダーの養成や組合間のネットワーク形成を

運動方針の3つ目の柱となる「組織の強化・拡大」では、「各組合・組合員が抱える課題へのアドバイス機能の強化、組合活動への参加の促進、政策実現に向けたネットワークの強化などを通じて、働く仲間や国民各層との絆・つながりを深め、組織の強化、拡大を図る」とする。

産別として、加盟組合との日常的な連携や雇用・組織問題を抱える組合への支援を強化するとともに、ユニオンリーダーの養成や組合間の交流・情報交換とネットワーク形成をはかる。また、組合活動の男女共同参画や未組織労働者の組織化、組合活動の「見える化」も進める。

4つ目の「生保産業と営業職員の社会的理解の拡大」では、「生保産業と営業職員が果たしている役割を対外的に正しく伝え、その社会的イメージを向上させることは、今後も生保産業が発展し、働く者の働きがい・生きがいを向上させていくうえで必要不可欠となっている」として、広報・PR活動の強化や、地域社会への貢献などを掲げている。

大会では役員改選が行われた。浜田一郎委員長と大長俊介書記長が退任し、新委員長には大北隆典副委員長、新書記長には宮本進平副書記長がそれぞれ選ばれた。

大北新委員長は、「生保産業のおかれた状況は厳しさを増しているが、生命保険が『社会保障制度を補完し、日常の生活を安心できるものにする』という大事な役割を担っていることに変わりはない。直面する課題の一つひとつに丁寧に向き合い、粘り強く取り組んでいきたい」などと抱負を語った。