3年連続の「継続的な賃上げ」を確保した/金属労協の2016年闘争の中間まとめ

(2016年6月24日調査・解析部)

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別労組でつくる金属労協(JCM、議長:相原康伸・自動車総連会長)は6月23日、第7回中央闘争委員会を開き、今春闘の中間総括にあたる「2016年闘争評価と課題・中間まとめ」を確認した。「中間まとめ」は、「3年連続の『継続的な賃上げ』を確保し、労働組合として、デフレ脱却と『経済の好循環』実現の道筋を維持する役割を果たすことができた」などと総括している。

平均賃上げ額は1,226円

金属労協では2016春闘で、賃金構造維持分を確保した上で、「3,000円以上の賃上げ」の獲得を目指した。

6月21日に公表した2016年闘争要求回答状況の全体集計(6月17日現在)をみると、今春闘では構成組合3,271組合のうち2,267組合が賃上げを要求した。要求額の平均は3,712円となっている。

このうち、賃上げを獲得した組合は1,532組合で、賃上げ額は平均で1,226円(前年7月末の最終集計では1,607組合で1,751円)となっている。これを組合規模別でみると、1,000人以上が1,328円、300~999人は1,121円、299人以下は1,238円。1,000人以上を100とした場合の299人以下の比率は93.2となり、2014年の87.9(最終集計)、2015年の71.3(同)に比べ、格差が縮小したことがうかがえる。

一方、賃上げを獲得した組合は、賃上げを要求した組合の67.6%となった。これは2014年(最終集計)の67.0%を上回っているものの、2015年(同)の72.3%は下回っている。賃上げ要求組合に対する賃上げ獲得組合の比率を規模別にみると、1,000人以上が90.8%、300~999人が77.9%、299人以下が61.1%となる。

大手と中小の賃上げ額の差が縮小

こうした結果を受けて「中間まとめ」は、「年明け以降、急速に景況感が落ち込み、消費者物価上昇率も足下ではほぼゼロの状態となる中で、3年連続の『継続的な賃上げ』を確保し、労働組合として、デフレ脱却と「経済の好循環」実現の道筋を維持する役割を果たすことができた」と評価した。

そのうえで、大手と中小の賃上げの差が縮小した理由として、① 中小企業において、大手並みの賃上げを行なうことに対する躊躇感が薄れてきた ②人手不足が顕著となっており、とくに中小企業の人材確保が困難となっている ③ 2014年、2015年に賃上げを実施しなかった企業や「失われた20年」の間に賃金水準が低下した企業などで、その回復の意味合いを持った賃上げが行われた――ことを挙げ、「2015年闘争において拡大した賃上げ額の差が、2016年闘争において大幅に縮小したことで、格差拡大に歯止めをかけることができた」と総括した。また、具体的な労使交渉の場で、「産別ごとに、グループ労組・関連労組の連携、大手の賃上げに準じた中堅・中小労組に対する歯止め基準の設定、ベンチマーク指標を使った格差是正の取り組みなど、さまざまな取り組みを行ったことが効果を発揮した」としている。

企業内最賃協定額の引き上げで賃金の底上げも前進

一方、金属労協は今春闘で、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の構築を掲げた。この取り組みについては、「産別労使交渉・労使協議、業界団体との協議などの場などで、経営側に対し考え方を提示しており、経営側からも関心と理解を得ることができた」とし、「今後、取り組みを具体的に展開し、『人への投資』の環境を整備していく」としている。

企業内最低賃金協定の締結や水準の引き上げに取り組む「JCミニマム運動」については、現時点で大手を中心とする集計登録組合(51組合)のうち42組合が引き上げを要求。現時点で39組合が協定額の水準を引き上げ、平均で1,868円の引き上げを獲得している。「中間まとめ」は、「集計登録組合では企業内最低賃金協定の引き上げ額の平均が賃上げ額の平均を上回り、賃金の底上げに前進を図ることができた」などと総括している。

一時金は「安定的に獲得できる取り組みが重要」

「年間5カ月分以上」を基本に掲げてきた一時金の取り組みは、大手の集計登録組合(51組合)のうち49組合が確定しており、平均獲得月数は年間5.23カ月で、前年を0.12カ月下回った。金属労協が最低獲得水準として設定している「年間4カ月」を下回る組合は4組合(前年は1組合)となった。

全体集計では、2,122組合が回答を引き出しており、平均獲得月数は年間4.39カ月となり、前年(7月末の最終集計で年間4.35カ月)を若干上回っている。年間4カ月未満の組合は608組合。年間5カ月以上の組合は655組合で、「前年に比べて低下傾向にあるものと思われる」という。

「中間まとめ」は、「引き続き、『年間5カ月分以上』の重みを踏まえて、安定的に獲得できる取り組みが重要」と明記するとともに、「業績にかかわらず、最低でも年間4カ月以上を確保する取り組み」の重要性も指摘している。

非正規は「具体的な前進回答を引き出す組合が拡大」

非正規労働者の雇用と賃金・労働諸条件については、一般組合員に準じた賃上げや時給・日給の引き上げなどに取り組んだ各産別の要求・交渉の内容を踏まえたうえで、「具体的な前進回答を引き出す組合が拡大したことは、賃金の『底上げ・格差是正』を図る上で大きな前進となった」などと評価する一方で「正社員への登用促進が喫緊の課題」と指摘。労働契約法の改正に伴う有期雇用契約労働者の無期労働契約への転換について、「2018年4月以降に、無期転換申込権が発生するケースが多いと考えられる。正社員への転換を基本に、賃金・労働条件の低い無期雇用に転換することがないよう取り組むことが必要」だと主張している。

2017年闘争に向けては中小企業や非正規などの「底上げ・格差是正」が最重要課題に

2017年闘争に向けては、「引き続き賃金・労働諸条件の改善、非正規労働者の雇用と賃金・労働諸条件の改善、そして政策・制度要求、産業政策に取り組んでいくことが必要だ」として、「継続的な賃上げに取り組むことを基本とし、とりわけ中小企業や非正規労働者などの『底上げ・格差是正』の取り組みが最重要課題となる」ことを指摘。そのうえで、「雇用の安定を基盤とした多様な人材の活用、『同一価値労働同一賃金』を基本とする均等・均衡待遇の実現、ワーク・ライフ・バランスの実現を3つの柱に、誰もが雇用の安定と公正な処遇の下でいきいきと働くことのできる賃金・労働諸条件の実現をめざしていくことが重要となっている」と強調している。

今後、金属労協では7月22日に開く常任幹事会で最終まとめを確認。9月6日に開催する定期大会で報告する予定だ。