企業規模による格差拡大に一定の歯止め/JAMの春闘中間総括

(2016年5月25日調査・解析部)

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱えるJAM(宮本礼一会長、約36万人)は24日、都内で中央委員会を開催し、2016春季生活闘争中間総括を確認した。中間総括は、賃金改善の獲得において、中小の健闘を特徴にあげた。来年に向け、物価上昇がない場合でも格差是正などの観点から「賃金改善は不可欠」と指摘している。

挨拶した宮本会長は2016春季生活闘争について、「月例賃金の底上げと格差是正にこだわり、中小・非正規を含むすべての働く人たちの賃上げの輪を広げ、国内消費を喚起することでデフレから脱却し、経済の好循環を実現させることを最大のポイントとして取り組んだ」とし、その成果について「多くの仲間が3年連続の賃上げを獲得するなど多くの成果をあげるとともに、特に多くの中堅・中小労組でこれまで以上の粘り強い交渉展開の結果、中小が大手の妥結を上回るなど企業規模による格差拡大に一定の歯止めをかける道筋をつけることができた」と強調した。

賃上げ額、同一単組の平均で前年比537円のマイナス

中間総括から、賃上げ交渉の経過と特徴をみていくと、統一要求日における要求提出率は47.5%で昨年(48.6%)をわずかに下回った。同日での要求提出数も750組合と昨年を22組合下回った。中間総括を提案した安河内賢弘・副会長は、物価上昇率を要求根拠にできなかったことや、経済環境の不透明感などから「要求環境は厳しかった」ものの、「6割の提出率を方針としたことからすれば不十分だ」と述べた。

要求・回答・妥結状況では、中間総括は「2014年以降では、要求額は昨年に次ぐ高さとなったが、回答額、妥結額は昨年、一昨年を下回った」と報告。ただ、2001年以降でみれば、回答額、妥結額は3番目に高い実績だという。

平均賃上げ方式での要求額の平均は8,123円で、回答額平均が4,942円、妥結額が4,988円。同一単組で昨年と比べると要求額は1,563円マイナス、妥結額は537円マイナスだった。妥結額を規模別にみると、300人未満が4,724円、300~500人未満が5,920円、500~1,000人未満が5,894円、1,000人以上が6,599円となっている。

賃金改善分の獲得額、1~299人規模で全体計を上回る状況

賃金改善分の要求・回答状況をみると、賃金構造維持分を明示できる842単組のうち、750組合が賃金改善分を要求し、要求額の平均は4,529円だった。賃金改善分を獲得したのは449単組で、獲得した改善分の平均は1,385円(昨年は1,834円)。賃金構造維持分を明示できる組合で、維持分割れ(マイナスベア)となった単組数は、過去3年間では最も少なかったとしている。

賃金改善の回答引き出し状況では、中間総括は、今年は「獲得額では終始、1~299人が全体計を上回る状況が見られた」ことを特徴としてあげている。安河内副会長によると1999年の結成以来「初めての傾向」だという。また、中間総括は回答額の高さについて、「2016年の特徴は、時期が進んで集計単組数が増えても平均値が下がらず、上昇する局面も見られたことにある。とくに1~299人でその特徴が顕著となっている」と指摘した。安河内副会長は「300人未満の単組の獲得ベア額の分布をみると、1,000円のところが多いのだが、8,000円を上回るベアを獲得した単組もあり、それによって平均を1,300円に押し上げることができた。これらの単組では個別賃金データをもとに粘り強く交渉できている」とし、個別賃金要求方式の取り組みの重要性も合わせて指摘した。

全従業員対象協定、回答時間額は昨年比19円増の892円

過去3年間の賃金改善の獲得状況をみると、一度でも賃金改善を獲得した単組の割合は60.0%。ただ、規模別にみると1,000人以上が91.2%、300~1,000人未満が82.3%なのに対し、300人未満は55.2%となっており、「まだまだ中小は厳しい状況におかれている」(安河内副会長)ことがわかる。

個別賃金の取り組みについては、30歳ポイントで要求できた単組数が昨年比40組合増の181組合と前進がみられた。

企業内最低賃金協定の取り組みでは、18歳以上対象協定で、平均要求額(月額16万3,490円)、平均回答額(同16万1,553円)ともに、昨年に続いて16万円を超えた。

全従業員対象協定では、平均要求額の時間額が909円と初めて900円を超えた(平均回答額は892円で昨年比19円増)。

一時金は、回答月数で規模間に顕著な違いがみられ、1,000人以上はリーマンショック以前を上回る状況となっているが、それ以外の規模では昨年を下回ったとしている。

中間総括、「物価上昇がない場合でも格差是正をはかる賃金改善は不可欠」

中間総括は「見えてきた問題点と今後の課題」として、「過年度物価上昇分をベアの根拠にできなかったなか、単組における要求の組み立てに格段の工夫が必要となった」ことなどを踏まえ、「物価上昇がない場合でも、マクロ経済への寄与、企業内の賃金カーブ是正と企業間の格差是正をはかる賃金改善は不可欠であり、一つでも多くの単組がそうした取り組みを行いやすい態勢作りを全体で進める必要がある」などと指摘。賃金改善の獲得で中小が大手を上回る動きがみられた点について「中小のこうした健闘は来季も引き継いで行かなければならない」と強調している。

中央委員会ではこのほか、2017年度活動方針骨子を確認するとともに、被災した加盟単組もあることから「平成28年熊本地震に関する報告」を特別報告した。