格差是正や配分の歪みの是正分を含め2%の賃上げを/JEC連合の闘争方針

(2016年1月15日 調査・解析部)

[労使]

化学・エネルギー関連産業の労組でつくるJEC連合(約15万8,000人、永芳栄始会長)は14日、都内で中央委員会を開き、2016春季生活闘争方針を決めた。賃上げ要求基準は、働く仲間の「底上げ・底支え」の観点から、「定期昇給相当分を除き、格差是正や配分の歪みの是正分を含めて、2%の賃上げ」を求める。永芳会長は、「今年もこの先も、確たる要求をし続けられる組織となりえるかが、本春闘に問われている真の意義だ」と強調した。

「一人ひとりの労働の正当な対価として要求を掲げる」(永芳会長)

永芳会長はあいさつで、昨年の晩秋から新春にかけて、安倍首相や甘利経済財政担当相、麻生財務相、日本銀行の黒田総裁らが賃上げに言及していることについて、「政府要職らが相次いで労働界の姿勢を問う発言をしている。黒田総裁も連合の新年交歓会の来賓祝辞で、まるで我々の奮起を促すような異例のあいさつをした。裏を返せば、これらの発言は私たちへの真のエールというより、政府の3%成長目標、日銀の2%物価上昇到達目標に対する危機感の表れ、焦りだ」と指摘した。

そのうえで、「政府・日銀がどう言おうと、賃上げ・春闘というものの結果評価は『労働組合』に下される」と述べ、「今年もそしてこの先も、私たちが確たる要求をし続けられる組織となりえるかが、本春闘に問われている真の意義だ」と強調。「政府のためでも、日本経済のためでもなく、私たち一人ひとりの労働の正当な対価として、私たち自身のためにしっかりと要求を掲げていこう」と呼びかけた。

『底上げ・底支え』こそが真の好循環を生み出す

闘争方針は、過去2年間の春季生活闘争で、「一丸となってベースアップ獲得への取り組みを行い、一定の成果を上げることができた」と評価する半面、「消費増税や円安等により日用品の物価上昇で家計の負担が増えるなか、国民が消費を増やしていくマインドは醸成されていない」と指摘。「2016春季生活闘争では、社会的運動としての、全ての労働者を対象とした処遇改善により『底上げ・底支え』こそ、真の好循環を生み出すため、労働界が全力を挙げて取り組むべきテーマになる」と強調している。

定昇のない組合は賃上げ要求基準を定昇相当分含め「1万1,000円」に

要求基準をみていくと、賃上げ要求方針は、「働く仲間の『底上げ・底支え』という観点から、定期昇給相当分を除き、格差是正や配分の歪みの是正分を含めて、2%の賃上げ要求を各組合に要請する」としている。

また、定期昇給制度がなく賃金カーブ維持分を算出できない組合は、職場の賃金実態を把握して要求を組み立てる。実態調査を踏まえて、定期昇給相当分の要求目安(1歳1年間差)を5,000円とし、さらに賃上げ要求として底上げ・底支えの実現のために、6,000円の原資を求める。

加えて、配分の歪みや賃金水準の状況を見て、必要に応じて、 (1) 賃金カーブの歪みの是正 (2) 諸手当の見直し (3) (賃金カットや定昇凍結の復元など)過去の積み残し分の補てん (4) 非正規労働者・雇用延長者の処遇改善――などに取り組むとしている。参考までに、2015春闘では、JEC連合全体で76組合が底上げを行い、年代別の賃金是正・中途採用者の賃金の是正など、特定層の是正には49組合が取り組んだという。

このほか、雇用問題を抱える組合に関しては、経営再建に向けた労使協議と並行して、現行賃金カーブの維持ならびに生活保障を軸とした要求を行う。

一時金については、JEC連合の実態調査で年間決定方式の組合が加重平均4.95カ月、単純平均4.43カ月だったことを踏まえ、「生活保障と底上げを強める」観点から、ミニマム要求基準を年間4カ月に設定。業績連動方式で固定部分を持つところでは、固定部分の4カ月以上への引き上げに取り組むとしている。

63組合が有期契約労働者を無期契約に転換

一方、企業内最低賃金の協定化の取り組みも重視する。実態調査では、非正規労働者の時給が700円台の組合もみられている。このため、連合方針に沿って37円の引き上げ目安を掲げるとともに、 (1) 時給が800円に達していない組合は時給800円を、 (2) 既に800円に達している組合は時給1,000円を目指す。

また、正社員登用制度の導入が進み、実態調査では過去3年間、177組合中63組合で有期契約労働者の無期契約への転換実績がみられることから、格差是正の取り組みとして、20歳、25歳、30歳、35歳、40歳の勤続0年の初任賃金を「年齢別最低保障賃金」として、すべての組合で協定化を進める。

年齢別最低保障賃金は、20歳:17万円、25歳:18万2,000円、30歳:19万5,000円、35歳:20万6,000円、40歳:21万6,000円としている。

すべての組合で労働時間管理の強化を

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けては、総労働時間短縮の取り組みを継続する。JEC連合では、連合方針に沿った形で「2012年度までに年間総実労働時間1,800時間を実現」することをめざしてきた。しかし、同連合全体の加重平均では、2013年度以降、3年続けて1,900時間を超える結果となっている。

この結果を踏まえ、 (1) 年間総実労働時間2,000時間を上回る組合をなくす (2) 年間総実労働時間1,900時間未満をめざし労働時間管理に取り組む (3) 年次有給休暇の一人当たり平均取得日数10日未満の組合および取得日数5日未満の組合員をなくす――ことをめざす。

また、36協定の点検と適正化や年次有給休暇取得率の向上、出退勤管理などの実態を把握して労働時間管理の徹底を図ることとする。すべての組合で、労使による労働時間管理と月1回のチェックを行う。

さらに、時間外労働の割増率の引き上げも求める。企業規模にかかわらず、すべての組合で、 (1) 1カ月1時間~45時間までの時間外割増率35% (2) 45時間超の時間外割増率50% (3) 休日労働割増率50% (4) 深夜労働割増率50%――の実現に努める。

非正規労働者の処遇改善や男女間格差の是正も

雇用確保の取り組みでは、組合員の雇用の安定・確保に加えて、パート等の非正規労働者の安定雇用や派遣社員の雇い止めの防止など、組合員以外の雇用の安定にも力点を置く。契約社員やパート労働者に関しては、労働条件の維持・向上や処遇改善に向けて組合員化も図る。

また、男女間格差の改善に向けて、 (1) 配置や業務配分、昇進、昇格等の男女平等な基準および評価の運用 (2) 女性活躍推進法に沿った組合活動状況の把握・課題の分析 (3) 妊娠・出産・育児期と両立しない長時間労働の是正 (4) セクシュアル・ハラスメント防止措置の徹底――を図る。さらに、各組合の賃金データに基づき、男女別・年齢別賃金で格差が生じている場合には、同一価値労働・同一賃金の視点で点検を行い、改善に向けて取り組む。

要求書は2月26日までに提出。連合・共闘連絡会議の方針に基づき、3月第3週(3月14日~18日)を解決に向けた回答ゾーン(第1先行組合回答ゾーン)とし、3月16日を集中回答日とする。これに続く組合は3月21日~25日を回答ゾーン(第2回答ゾーン)とし、遅くとも4月内での決着をめざす。