3,000円以上の賃上げ要求基準を決定/自動車総連の中央委員会

(2016年1月15日 調査・解析部)

[労使]

自動車総連(相原康伸会長、約77万人)は14日、都内で中央委員会を開催し、平均賃上げの要求基準を「3,000円以上の賃金改善」とすることなどを柱とする「2016年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。直接雇用の非正規労働者についてもはじめて要求基準として具体的な賃金改善の金額を盛り込んだ。また、サプライチェーンが生み出した付加価値を適正に評価することなどを内容とする新たな「現場力の底上げ」に向けた運動(win-win付加価値の最適循環運動)の開始も提起した。

格差拡大への目配りと、自動車総連全体での賃金改善獲得を重視

平均賃上げでの要求基準について方針は、「すべての単組は、目指すべき経済の実現、物価動向、生産性向上の成果配分、産業実態、賃金実態を踏まえた格差・体系の是正など様々な観点を総合勘案し、3,000円以上の賃金改善分を設定する」とした。また、昨年初めて非正規労働者の賃金改善について要求基準に盛り込んだが、今年も同様に、「直接雇用の非正規労働者の賃金についても、原則として、賃金改善分を設定する」と掲げた。

賃金改善分の要求基準は、昨年は6,000円以上だったことから、金額だけでみれば半減した形。昨年の春闘では、自動車総連全体で、要求した単組の7割以上の単組が賃金改善分を獲得したものの、獲得額をみると、メーカーとメーカー以外の業種、また、3,000人以上規模の単組と3,000人未満の単組との間で1,000円~1,500円程度の格差があり、メーカーとその他の業種および、規模間の格差が、さらに拡大する結果となった。こうした結果なども踏まえ、今回の方針は、格差拡大への目配りと、自動車総連全体での賃金改善獲得を重視した。

「賃上げ獲得の面積の広がりを求めていく必要」/相原会長

挨拶した相原会長は、「2014年の取り組みでは、自動車総連の9割を超える組合が賃金改善分を要求し、約6割が獲得するなど、まさに『起点』となるブレークスルーの年となった。そして、点を線とすべく取り組んだ2015年は、中堅・中小の健闘もあり、全体として前年を超える獲得水準を獲得し、次につながる賃上げ『ベクトル』を見出すことができた。そして、本年2016年は、この2年の着実な前進を活かさなければならない。加えて、賃上げ獲得の面積の広がりを求めていく必要がある」と強調。さらに、「それは、14年、15年と2年連続で賃金引き上げがかなわなかった約2割の組合への激励であり、2年連続で賃上げ獲得を果たした約6割の組合への一層の期待だ」とし、「自動車総連に集う1,100組合が3,000円以上の要求基準に結集し、回答を受けるその瞬間まで一体感ある取り組みを展開することで、点から線、線から面へと着実に前進を果たす必要がある」と呼びかけた。

また、相原会長は、「昨年の要求基準6,000円以上と本年要求基準との差に対して、報道の一部には『控えめすぎるのでは』『半分に抑えた』などの論調があることも承知している」と言及しながら、「自動車総連としては、そうした論調の有無に関わらず、大変重要な2016年の日本経済であるだけに、多くの組合員の努力に真正面から応える上でも内外に向けて本年の狙いを端的、かつ、適切に説明、主張できなければならない」と述べた。そのうえで、今回の要求基準策定の検討経過について、「まず初めに、底上げ・格差是正に向けて『ひとかたまり』となり得る水準の重要性を論議の土台に据えた。2つめには、自動車産業労使の社会的責務と期待に応えうる水準に対する考察、3つめとして、経済成長や物価動向など、要求の背景との整合と雇用環境や産業情勢、生産性向上などを踏まえた総合判断の妥当性が高いか低いか、4つめに、賃金引き上げ基準と企業内最低賃金や組織化を含む、直接雇用の非正規労働者の処遇改善をいかに連動させるか、最後に、底上げ・格差是正につなげる『労働条件の向上』と『現場力の底上げ』からなる新たな取り組み方について検討を重ねた」と説明した。

非正規労働者の賃金改善は「時給20円目安」を設定

非正規労働者の賃金改善では、初めて金額での目安を示し、「時給20円を目安とし、各単組における労務構成や配分決定のあり方などを考慮して決定する」とした。20円は、平均賃金での要求基準の3,000円を、自動車総連内の平均所定労働時間163時間で除して算出した。非正規労働者について、昨年は半数の単組が取り組んだものの、賃金改善の具体的な数字をもって取り組んだ単組は「1割強にとどまった」(冨田珠代・副事務局長)。

このほかの要求項目をみると、企業内最低賃金協定では、「すべての未締結単組は新規締結に必ず取り組む」とし、すでに締結している単組の要求基準は、昨年の要求基準に2,000円を上乗せし、15万8,000円以上とするとした。自動車総連全体では、2015年12月17日時点で、73.4%の組合が協定を締結している。また、昨年の締結平均額は、前年を1,027円上回る15万6,300円だった。

年間一時金は、例年どおり、「年間5カ月を基準とし、最低でも昨年獲得実績以上とする」ことなどを要求基準としている。

総実労働時間の短縮では、36協定の年間特別延長時間が720時間を超えている単組が、720時間以下での締結に向けて取り組むことなどが柱となっている。

「現場力の底上げ」を目的とした、付加価値の「最適循環運動」を開始

今回の方針は、労働条件の改善の取り組みのほかに、「現場力の底上げ」を目的とした、「win-win付加価値の最適循環運動」のスタートを提起したのが大きな特徴。自動車総連では、自動車産業の現状について、国内市場の縮小や国内生産の減少、グループを超えた取引拡大やグローバル競争の激化、トリクルダウンの限界のもとで、企業収益のバラツキや二極化、労働条件の格差拡大や人材不足といった課題が顕在化していると指摘。そのため、「裾野の広い自動車産業の基盤を支えている中堅・中小企業の底上げがなされてこそ、真の意味で経済や産業の持続的な発展が可能となる」とし、「自動車産業の競争力を、企業規模の大小にかかわらず職場段階から高め、付加価値を産業のバリューチェーンに循環させる『最適循環運動』に取り組む」としている。そのため、従来のサプライチェーンという表現をバリューチェーンに変更する。

具体的な活動としては、 (1) 付加価値の最大化、 (2) 付加価値の適正評価、 (3) 協力強化による健全な改善――の3つがイメージされている。付加価値の最大化は、各職場での付加価値の最大化の努力で、付加価値の適正評価は、取引相手が生み出した付加価値を適正に評価することを大切にする活動だと説明。また、企業間・業種間での協力を強化し、健全な改善を推し進めていくとしている。運動を展開する期間は、2018年までの3年間とした。

中央委員会直前に会見した相原会長は、具体的な活動内容について、自動車総連、各グループ労連、個別単組それぞれのレベルに応じた取り組みを展開していくと説明。まずは、各レベルで、経営側に運動の考え方を説明し、理解を求めたうえで、運動に共感してもらうことから着手するとしている。なお、今回の労使交渉でも議論のテーマとなるが、この取り組みが「賃金引き上げの交渉材料となることはない」と明言した。

大手組合の統一交渉のスタートは2月24日

方針に関する討議では、三菱自動車ふそう労連が、賃金の底上げ・格差是正の取り組みについて、グループ内の販売や部品メーカー等での一層の競争激化などを訴えながら、「こうした状況下でどう実現させることができるのか、労連としても考えを巡らせているところだ。総連として具体案があるのか」と質問した。総連本部の冨田副事務局長は、置かれた個別賃金水準なども交渉材料として、根っこからの賃金水準などについても会社側と話あってほしいなどと答弁した。

また、日産労連は「最適循環運動」について、グループ内の部品メーカーではグループ外との取引も拡大しているなどとして、「労連の枠を越えた自動車産業全体での運動にしていく必要がある」と意見を述べるとともに、従来の運動との相違点を総連本部に尋ねた。総連本部の山口健・副事務局長は、過去の運動と比べて、 (1) 労連レベルでなく、総連全体での運動とする (2) 組合としての取り組みにとどめず、経営側や関係先も巻き込んだ運動とする (3) 組合のない職場にも影響を与える運動をめざす――の3つの点で異なると説明した。

取り組み日程については、大手メーカーを中心とする拡大戦術会議登録12組合は2月17日に一斉に要求提出する。同組合の統一交渉のスタートは2月24日に設定した。