平均賃上げで1万500円を要求基準とする方針原案/JAMの2016春闘討論集会

(2015年12月4日 調査・解析部)

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱えるJAM(宮本礼一会長)は11月30日から2日間、静岡県熱海市で2016年春季生活闘争中央討論集会を開催し、平均賃上げ方式で賃金構造維持分を含め1万500円を要求基準とする2016春闘方針の職場討議案(闘争方針大綱)を、執行部が提示した。今後、組織内で議論を進め、最終方針は来年1月に開く中央委員会で決定する。

「賃金の底上げ・底支えと格差是正の実現」が基本

JAMは2015春闘では、賃金構造維持分に加える賃金水準の引き上げ額について、「過年度物価上昇分と生活改善分を勘案して9,000円」とし、是正が必要な場合さらに1,500円以上を加えることを要求基準とした。今回、執行部が示した闘争方針大綱では、引き上げ額の設定根拠として、2015春闘と異なり過年度物価上昇分を勘案せず、賃金の底上げ・底支えと格差是正の実現を据え、連合方針に沿った内容としていることが特徴。2015春闘では、連合が2%以上とする賃上げ要求基準を設定したのに対し、JAMは3%に相当する9,000円の引き上げを要求基準に設定した結果、両者の違いから「交渉の現場ではやや混乱が生じ」(安河内賢弘・JAM副会長、労働政策委員長)、構成単組において要求額のばらつきが見られた。

今回の闘争方針大綱は、まず、『基本的なスタンス』として、「経済の好循環実現に向けて、引き続き賃金の底上げ・底支えの取り組みが必要である」と主張。また、「すべての単組は、賃金の引き上げに向けた要求提出に取り組む。要求の組み立てに当たっては、個別賃金方式の考え方を重視する」とし、「企業を超えた賃金の底上げ・底支えの実現に向けて、連合方針を踏まえた要求を行う」と記述した。

具体的な要求基準をみていくと、『賃上げ要求の基本的考え方』では、連合が各構成組織の産業全体の「底上げ・底支え」「格差是正」に寄与する取り組みを強化する観点から2%程度を引き上げの基準としている方針を踏まえ、「賃金構造維持分に加える、格差是正、賃金改善等のための賃金水準の引上げ額について、6,000円を基準とする」とした。また、今回の要求基準の根拠に過年度物価上昇が据えられていないため、一律の賃上げは取り組みの趣旨にそぐわないことから、「なお、ここでは消費者物価上昇率に掛かる統一ベアという考え方は採らない」との文言もあわせて明記した。基本的考え方ではまた、「個別賃金要求に取り組む単組は、『一人前労働者』の現行カーブをベースとして確定した上で、賃金カーブ是正、またはJAM一人前ミニマム基準・標準労働者要求基準に基づく格差是正分を要求する」としている。

個別賃金要求する際に用いる水準の指標であるJAM一人前基準の具体的な金額は、今回は、18歳=15万9,000円、20歳=17万2,500円、25歳=20万6,250円、30歳=24万円、35歳=27万円、40歳=29万5,000円、45歳=31万5,000円、50歳=33万5,000円となっている。これらは、JAMが全単組を対象に実施した調査データに基づき作られている。初任給水準が上昇傾向にあることから、18歳の金額は昨年から3,000円高く設定されている。

標準労働者の要求水準は、高卒直入者の所定内賃金で、30歳=26万円、35歳=30万5,000に設定した。今回の賃上げ要求では一律ベアの考え方を採っていないため、設定水準はそれぞれ、現行水準に引き上げ額の基準である6,000円分を加えるのではなく、現行水準をそのまま設定した。

1万500円は「中小企業が水準改善に必要な根っこからの引上げ額」

一方、実際には多くの構成単組が要求方式として選択する平均賃上げ方式での要求基準は、1万500円とした。JAMでは、1万500円という水準は「中小労組が水準改善に必要な、根っこからの引き上げ額」(安河内・副会長)だと説明。そのため、例えば賃金構造維持分が4,500円程度となっているような労組にとってはちょうど引き上げ分の要求額が6,000円程度になるが、もともと賃金水準が高く、賃金構造維持分が6,000や7,000円程度ある労組にとっては、引き上げ分が4,500円や3,500円程度になるケースが出てくるが、今回の案はそれを容認する。また、今回は統一ベアの考え方を採っていないため、引き上げ分の月例賃金のなかでの配分は、各労組に委ねられる。

企業内最低賃金協定では今年も、18歳以上の企業内最賃協定をまだ締結できていない単組が協定締結をめざすことに取り組む。また、地方最低賃金の水準が引き上げ傾向にあることを踏まえ、800円未満の協定額となっている単組、または地賃等法定最賃との差が50円に満たない協定額となっている単組では、ただちに協定額の引き上げを要求することなどを盛り込んだ。一時金要求は、「年間5カ月基準または半期2.5カ月基準の要求とする」とし、「最低到達基準として年間4カ月または半期2カ月とする」と、前年から内容を変えていない。全単組が要求提出をめざす統一要求日は、2月23日を設定した。

討論では、連合及びJAMが引き上げ分として6,000円(2%)を基準とすることの根拠に関する質問や、それをどのように会社側に説明すべきかを尋ねる質問が目立った。安河内・副会長はこれらの点について「2%の根拠をどう説明するか、難しいことは確かだ」と理解を示したうえで、「今回は賃金を引き上げることによって、物価を上げていきたい。政府側で3%程度の賃上げが必要との声があったが、あれは名目GDP600兆円を達成するための根拠でしかなく、それを労働組合が要求根拠とすることはできない」などと答弁するとともに、生産性の伸びに応じた賃上げを求めるとの考えを示した。また、中小における取引先との公正取引に関連して、「大手に比べると中小はやっぱり儲かってなく、中小への適正な配分がないと、賃金の引き上げができない。各単組も交渉のなかで会社側にしっかり主張し、『部品単価を上げるのは会社側の仕事だ』とぜひ言ってほしい」と各単組に要請した。