賃上げ要求方針は「2%程度を基準、定昇相当込み4%程度」/連合の中央委員会

(2015年12月2日 調査・解析部)

[労使]

連合(神津里季生会長)は11月27日、都内で中央委員会を開催し、2016春季生活闘争方針を決定した。賃金の「底上げ・底支え」と「格差是正」を最重点に位置づけ、サプライチェーン全体での適正配分の取り組みを浸透させるとともに、大手追従・大手準拠などから脱却した中小労組の主体的な闘争を展開するなどとしている。賃上げ要求水準は、「2%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め4%程度とする」とした。

「賃金の底上げ・底支え、格差是正の取り組み」を前面に

闘争方針は、『はじめに』のなかで、「2016春季生活闘争は、『総合生活改善闘争』の位置づけのもと、国民生活の維持・向上をはかるため、労働組合が社会・経済の構造的な問題解決をはかる『けん引役』を果たす闘争である」と説明。さらに、「日本経済の『デフレからの脱却』と『経済の好循環実現』のためにはすべての働く者の賃金の『底上げ・底支え』と『格差是正』の実現が不可欠である」と主張し、「そのために、月例賃金の改善にこだわる取り組みを継続するとともに、あらゆる手段を用いてそれぞれの産業全体の『底上げ・底支え』『格差是正』に寄与する取り組みを展開する」と、賃金の底上げ・底支え、格差是正の取り組みに注力する姿勢を強調する。

また、「とりわけ中小企業で働く仲間や、非正規労働者の処遇改善に向け、より主体的な闘争を進め、大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動に挑戦する」と宣言し、大手の上げ幅を中小等に波及させる旧来型の春闘のやり方からの脱却をめざす方針を明確にした。

大手追従・準拠の構造転換にチャレンジ

闘争の取り組みに向けた『基本的な考え方』では、ベア・賃金改善を獲得したこの2年間の闘争における賃上げについて「要求の趣旨からすると十分な水準には至っていない」と総括。「したがって2016春季生活闘争においても月例賃金にこだわり、賃上げの流れを継続させる必要がある」と継続的な賃上げの必要性を強調する一方、特に底上げ・底支えや格差是正が必要な中小企業では、大手企業などの納入先から、納品単価の切り下げを迫られて賃上げ原資を捻出できない場合もあることから、「従来の取り組みに加え、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な配分に資する公正取引の実現を重視し、その効果が広く社会に浸透する取り組みを行う」と述べて、公正取引実現の必要性も強く訴えた。

また、デフレ脱却と経済の好循環実現をはかるためには「マクロの観点から雇用労働者の所得を2%程度引き上げることが必要」だとするとともに、人手不足局面にあることも踏まえ中小企業における「人への投資」を求めると強調。非正規労働者については、総合的な労働条件改善の取り組みや企業内最低賃金協定の締結拡大などによる「賃上げの社会的波及をはかること」も重要だと提起した。そのうえで観点から賃上げ幅については「賃上げ要求水準はそれぞれの産業全体の『底上げ・底支え』『格差是正』に寄与する取り組みを強化する観点から2%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め4%程度とする」との考え方を示した。

なお、2015闘争方針では、すべての構成組織が2%以上の賃上げを求めることとし、それを『基本的な考え方』のなかではなく、『具体的な要求項目』のなかで記述している。

さらに今回は、賃金水準改善の社会的波及力を高めていくため、「春季生活闘争が持つ日本全体の賃金決定メカニズムを活かしつつ、とりわけ中小企業で働く仲間や、非正規労働者の処遇改善に向け、より主体的な闘争を進め、大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動にチャレンジする」と改めて強調するとともに、公正配分の実現に関しては、取引問題に関する連合設置の相談窓口である「価格転嫁ホットライン」を今次闘争でも継続するとしている。

デフレ脱却へ向けて「来る2016年の賃上げが決定的に重要」(神津会長)

中央委員会で挨拶した神津会長は、2016春季生活闘争に向けて、「いまこそ私たちは『二つの希望』を取り戻さなければならない。一つは、社会にとっての希望だ。デフレ脱却と好循環を確実にするためにも、家計所得全体を引き上げ、内需拡大を通じた自律的な成長軌道を描く必要がある。もう一つは、個人にとっての希望だ。多くの場合、賃金カーブや定期昇給がない非正規雇用や中小企業で働く方々をはじめ、頑張りに応じて賃金が上がり、処遇が改善し、生活への希望が持てる姿を確実にしなくてはならない。デフレ脱却に向けた流れを本格化させ、中期的な継続性・持続性を確信させるには、来る2016年の賃上げが決定的に重要であり、その成否は労働組合の力と行動にかかっている」と、三巡目となった賃上げ闘争の重要性を強調した。

そのうえで、今回の方針が「底上げ・底支え」「格差是正」を最前面に出した点について、「『底上げ・底支え』『格差是正』実現のためには、従来の波及効果に委ねるだけではなく、より主体的にさまざまな手法を用いて、すべての組合が月例賃金にこだわり、賃金の引き上げを求めていく運動と『底上げ・底支え』『格差是正』とが接合する運動が必要だ」と説明し、「そのために、昨年以上に社会との対話を重視し、開かれた春季生活闘争を展開する必要がある」と述べた。

18歳高卒初任給の参考目標値を16万8,800円に設定

闘争方針が掲げた具体的な要求項目をみていくと、項目としては(1)賃上げ要求、(2)規模間格差の是正(中小の賃上げ要求)、(3)非正規労働者の労働条件改善、(4)職場における男女平等の実現、(5)ワーク・ライフ・バランス社会の実現に向けて(時短などの取り組み)、(6)ワークルールの取り組み――の6つに整理した。

賃上げ要求では、①月例賃金、②企業内最低賃金、③一時金――のそれぞれで要求基準を設定。月例賃金では、「すべての組合は月例賃金にこだわり、賃金の引き上げをめざす」とし、「要求の組み立ては、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を確保したうえで、『底上げ・底支え』『格差是正』にこだわる内容とする」とした。

要求組み立ての際には、構成組織は「それぞれの産業ごとに設定する個別銘柄の最低賃金到達水準・到達目標水準を明示し、社会的な共有に努める」とし、一方、単組は「組合員の個別賃金実態を把握し、賃金水準や賃金カーブを精査しゆがみや格差の有無を確認したうえで、これを改善する取り組みを行う」などと、個別賃金をベースにした格差改善の取り組みも盛り込んだ。

企業内最低賃金では、「すべての組合は、企業内最低賃金を産業の公正基準を担保するにふさわしい水準で要求し、協定化をはかる。また、適用労働者の拡大をめざす」ことを打ち出すとともに、人手不足から初任給の水準が上昇する傾向にあることを踏まえ「すべての賃金の基礎である初任給について社会水準を確保する」とし、18歳高卒初任給の参考目標値として16万8,800円を提示した。

一時金については、「月例賃金の引き上げにこだわりつつ、年収確保の観点も含め水準の向上・確保をはかる」と掲げた。

「誰もが時給1,000円」の実現をめざす

規模間格差の是正(中小の賃上げ要求)では、まず、「『底上げ・底支え』『格差是正』の実現をはかるため、都道府県ごとに連合リビングウェイジにもとづく『最低到達水準』をクリアすることをめざす」とうたった。

中小組合を抱える構成組織が参画する中小共闘の方針に関しては、月例賃金の引き上げについて、「連合加盟組合全体平均賃金水準の2%相当額(※約25万円の2%で約5,000円=筆者注)との差額を上乗せした金額を賃上げ水準目標(6,000円)とし、賃金カーブ維持分(1年・1歳間差)(4,500円)を含め総額で10,500円以上を目安に賃金引き上げを求める」と、2015闘争と同水準に設定した。

3番目の非正規労働者の労働条件改善では、非正規雇用という雇用形態を固定化させないことと、総合的な労働条件改善に取り組むとし、「賃金(時給)については『誰もが時給1,000円』の実現をめざす」と明記した。

すべての構成組織が参加する非正規共闘の方針は、総合的な労働条件向上に向けて正社員への転換や無期雇用契約への転換促進などを明示。一方、賃金(時給)の引き上げについては、①「誰もが時給1,000円」の実現に向けた時給の引き上げ②時間給1,000円超の場合は、「底上げ・底支え」「格差是正」の点から37円を目安に要求する③単組が取り組む地域ごとの水準については、「県別リビングウェイジ」を上回る水準をめざす」――などの4つのいずれかの取り組む内容とした。37円は、中小共闘方針の賃上げ額である6,000円を賃金センサスによる月所定労働時間の平均額である163時間で除して算出して据えた。

これ以外の主な要求項目をみていくと、時短などの取り組みでは、勤務間インターバル規制や中小企業における月60時間を超える割増賃金率を50%以上に引き上げることなどを中心に取り組むとしている。取り組みの進め方では、今回から新たに、中小労働委員会(中小共闘センター)のもとに、中小共闘に参加している構成組織にとどまらず、すべての構成組織が参加する「中小共闘担当者会議」を設置することにした。構成組織全体で中小の回答状況の情報交換を進め、底上げ・底支え、格差是正の取り組みの実効性を高めるのが狙いだ。

格差是正(JAM)、人手不足(私鉄総連)などを指摘

方針討議では、JAM、私鉄総連、全国ユニオン、公務労協から方針賛成の立場からの発言があった。

JAMは、「2016年の取り組みでは、格差是正を重視すべき。JAMは中小比率の高い賃金実態を集約し、結成以来、そこを一つの基にした最低到達基準を掲げている。現下の雇用情勢の逼迫を踏まえると、今こそその活用を拡げていくべきだと考えている」と発言。私鉄総連も、「私鉄の実態は、長時間労働、不規則勤務、低賃金の三拍子がずっと続いている。他産業と比較しても非常に低い実態にあり、やはり底上げ・底支え、格差是正が重要なキーワードだ」と述べ、底上げ・底支えと格差是正の取り組みを強める姿勢を強調した。

また、私鉄総連は人手不足にも言及。「労働人口が減少しているなか、産業のなかでは特に地方のバス会社の運転手が非常に厳しい実態にある。そういったことを踏まえ、改善のために直近では14,15春闘、そして16春闘が賃上げの部分で大きな意味を持っている」と指摘した。そのうえで、16春闘の具体的な要求について、「職場の組合員のなかでは、『要求は4%以上』の生の声がある。定昇相当分含め4%程度を視野に入れて要求を組み立てていきたい」と述べた。

このほか、全国ユニオンは「これまで組合のなかったようなところでの組合づくりを日常的にやっているが、企業自体が買いたたかれていくなかで、労働条件も決められる状況。そういう意味で、『サプライチェーン全体』に目配せした方針は非常に有り難い」などと話したうえで、今後の格差是正の取り組みの中長期的な位置付けについての検討を要望。公務労協は、男女間の賃金格差や管理職に占める女性の割合の現状を説明するとともに、女性活躍推進法で求められる行動計画の策定に「職場の現状把握・分析の段階から労働組合として積極的に関与していく」必要性を訴えた。