2年をパッケージとする春季取り組みについて議論/基幹労連大会

(2015年9月9日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連などの労働組合で構成する基幹労連(約25万2,000人)は3、4日の両日、広島市で定期大会を開き、第7期後半年の活動方針を確認した。工藤智司委員長は冒頭のあいさつで、2014年度と15年度の春季労使交渉における賃上げ水準について、「2年間で2,000円の賃金改善を中心に安心・安定を確保した」とする一方で、「2年分を先行して決定した基幹労連と他産別で差が生じていることは否めない」と指摘。2016年の春季取り組みでは、「産業・企業の状況を冷静に分析しつつ、基幹労連全体として賃金改善を行うことで『底上げ』の流れを確かなものとしていく」などと述べた。

写真・基幹労連大会檀上

基幹労連の春季労使交渉は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方にたち、2006年の労使交渉から2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)で統一要求を掲げる形をとっている。1年目は「基本年度」と位置付け、大手が中心になって賃金などの主要労働条件を集中的に交渉する。2年目は「個別年度」として、企業・業種間の格差是正などの交渉を重点的に行う。

前回のサイクルでは、2014年度と15年度の2年を1つの単位とし、定昇相当分を確保したうえでの賃金改善を両年度に求めた。AP14での要求は、「具体的配分として最も効果的なあり方を各組合で追求する」としながらも、2014年度、15年度ともに3,500円を基準に改善額を設定。その結果、総合大手などは「2014年度1,000円、2015年度1,000円を中心とする2年分の2,000円」の賃金改善で妥結した。

そして、AP15では、「基本年度において考慮してきた環境条件が大きく異なる状況にない」として、従来通り、業種別組合の労働条件の底上げや大手との格差改善を前進させる取り組みを重視することとしてきた。

AP15では賃金改善要求した組合の7割が前進回答引き出す

大会で報告された「AP15春季取り組みの評価と課題」によると、AP15では、150組合が賃金改善を要求し、回答を得た組合の7割が前進回答を引き出した。具体的な金額は、「AP14春季取り組みにおける総合組合を中心とした回答水準である1,000円の回答が中心であり、多くの組合で有額回答になった」。ただし、今季の取り組みで賃金改善要求を行う組合にとっては、「AP14で2015年分の回答が多くの組合で示されているなか、その水準をどう捉えるかも争点になった」という。

また、AP14では63組合が、賃金改善について「継続協議」「別途協議」となっていた。こちらもすべての組合が回答を得て、そのうち50組合が前進回答を引き出している。

こうした結果を踏まえ、「評価と課題」は賃金面の今後の課題として、「基本年度における一体となった賃金改善要求を踏まえながら、個別年度として格差改善分の賃金改善をどのように設定するのか継続的に検討していく必要がある」「デフレから適正なインフレ経済へのシフトが求められるなかで、今後の賃金改善や賃金のあり方について考えて行く必要がある」ことなどをあげている。

賃金水準では基幹労連と他産別で差が生じている面も

また、この2年間の賃金改善の取り組みに関しては、「会社が2015年度分を含めた先行きを見通し、2年分の『人への投資』を行うことは容易ではなかった」なかで、「交渉単位組合の約三分の二が2014年度と15年度の各年度で2年分の賃金改善要求を行い、そのうち7割の組合で前進回答となったことは、組合員の『生活の安心・安定』実現に大きく貢献し、『デフレ脱却』『経済の好循環』に向けて一定の役割発揮を果たせた」などと評価。その一方で、賃上げ水準について、「他産別の要求基準や賃金改善の配分先が多様であり、産業ごとに状況も異なることから一概に比較することは困難」としながらも、「AP14・15の期間でみれば、2年分を先行して決定してきた基幹労連と他産別で差が生じている面もあることは否めない」と総括している。

今後も2年サイクル運動の考え方を堅持

「評価と課題」は、賃金改善の考え方についても触れている。

「これまで長期的なデフレ環境のなか、2年サイクルの取り組みによって少なからず成果を上げてきたが、取り組みの2年間のなかで起こるさまざまな環境変化をどのように捉えたうえで、いかに対応するのか、次なる2年間にどのように向き合うのか考えていかなくてはならない」と指摘。そのうえで、「2年サイクルの取り組みは、労働運動全体を2年パッケージで捉え、2年という枠組みのなかでエネルギーを効果的に配分することで運動にメリハリをつけ、着実な成果につなげていくものであり、その考え方は踏まえていくべきものだ」と強調した。

さらに、2年サイクル運動が既に5ラウンドを重ね、格差改善の取り組みが深化してきたことなどをあげて、「今後とも2年サイクル運動の考え方を堅持しつつ、効果的な労働条件改善につながるよう、中長期的視点に鑑みたAP16・17春季取り組みを検討していかなければならない」と言及している。

AP16は「底上げ」と「良質な雇用に向けた働き方改革」の視点で/工藤委員長

工藤委員長はあいさつで、春季取り組みについて「AP14・15の期間、結果でみれば2年間で2,000円の賃金改善を中心に安心・安定を確保した一方で、産業の違いから一概に比較することは困難だが、2年分を先行して決定した基幹労連と他産別で差が生じていることは否めない」と述べた。

そして、次の主要労働条件の交渉年度となるAP16では、「『底上げ』と『良質な雇用に向けた働き方改革』の視点が必要不可欠。産業・企業の状況を冷静に分析しつつ、連合・JCM(金属労協)との連携を蜜に、基幹労連全体として賃金改善を行うことで『底上げ』の流れを確かなものとしていかなければならない」との認識を示した。

討議ではAP16の賃金改善要求のあり方の検討を求める意見が

春季取り組みに関する討議では、船重の総合組合からの、他産別の2015春季生活闘争の経過と結果を受けての職場の思いを述べながらAP16の賃金改善の要求のあり方について再考を求める意見が目立った。

具体的には、「AP14・15の結果を受けて、職場からはAP16においては単年度要求にして欲しいとの要望が多く出された。賃金改善の要求方針については、状況によって各業種部門ごとに議論し、それぞれの事情に応じた対応が取れるように検討して欲しい」(IHI労連)や、「ものづくりの仲間で集うJCMのなかで、基幹労連と他産別との間に差が生じ、置いて行かれた感がある。賃金改善では、基本年度、個別年度にとらわれることなく、その時々の環境から最大限の成果が得られる取り組みを検討して欲しい」(三菱重工労組)、「電機や自動車といった他産別の今次春闘の取り組み結果を受け、組合員からはAP14・15の要求・妥結水準では、明らかに差がついてしまったとの声が上がっている。各産別の賃金改善の考え方や原資投入の方法に違いもあり、金額だけで比較・評価すべきではないが、(組合員の意見は)本部の認識と一致している。AP16では、このような声を真摯に受け止める必要がある」(川崎重工労組)などの声が上がった。

また、業種別部会からも、「運動方針には、『AP16の取り組みは、産別全体としての共通認識を持ち、労働条件改善などを通じ着実な労働政策の実現をめざす』とあるが、全体の共通認識というのであれば、現状で(賃金改善の)単年度要求をせざるを得ない組合が多くある実情も勘案して欲しい」(IHI運搬機械労組)との発言もあった。

2年サイクル運動前提での発言も

一方、鉄鋼総合組合からの発言は、2年サイクル運動を前提としたうえで意見・要望が中心となった。

新日鐵住金労連は、「AP14春季取り組みでは、2年サイクルの複数年協定の下、2年に渡る基本賃金への財源投入を果たし、AP15では総合組合としてグループ・関連組合の労働条件の底上げ、格差改善に力点を置いた支援を行い、意義ある取り組みとなった。AP16においては、短期的な視点にとらわれることなく、春季取り組みのこれまでの経過や今後の環境変化を踏まえ、確実に成果に結びつけていくことが重要だ」と発言。JFEスチール労連も「AP16では2年サイクルでの基本年度で臨むことになる。産業・企業労使としての課題解決を通じて、魅力ある労働条件づくりと産業・企業の競争力強化の好循環につなげなければならない」などと述べた。

また、神鋼連合は、「2年サイクルは、運動にメリハリをつけることで成果を上げており、意義あるものと認識している。AP16を2年の枠組みのなかで行うという考え方に異論はない」としながらも、「一層の不透明感を増す取り巻く環境をどのように捉え、いかに対応していくのか、これまで以上に難しい判断が求められる。前広な情報収集と慎重かつ十分な検討を要請する」と求めた。

2年サイクルの目的を違えず産別一体の取り組みを

答弁に立った神田健一事務局長は、「2015年の春季生活闘争は2014年に続き、デフレ脱却に向けた経済社会の好循環を掲げて取り組み、AP15は全体的な潮目の変化を横睨みしながら個別年度として一時金と格差改善を主要な取り組みとして進めてきた」などと経緯を説明したうえで、「2年サイクル運動は、安心・安定の確保の観点から、労使という『内』の取り組みと、産業政策・政策制度といった『外』の取り組みのベストバランスを考えながら進めてきたもの。『雇用と生活の安心・安定を前提に労働条件の改善を図り、職場と組合員の活力発揮にいかにつなげていくか』といった目的を違えることのないよう、幅広い議論の下で各部門・業種別の事情も斟酌しながら、産別一体となった取り組みにつなげたい」などと述べ、2年サイクル運動の意義と継続についての理解を求めた。