人勧などに対して地域の独自性を重視して戦略的に対応/自治労の新運動方針

(2015年9月2日 調査・解析部)

[労使]

地方自治体の職員などを組織する自治労(氏家常雄委員長、約82万人)は8月24日から3日間、石川県金沢市で定期大会を開催し、向こう2年間の新運動方針を決定した。運動方針では、賃金闘争において、人事院や人事委員会の勧告に対し、地域の独自性を重視して戦略的に対応していくことなどを重点課題に盛り込んだ。役員改選を行い、書記長を務めていた川本淳氏を新委員長に選出した。

写真:自治労定期大会

「給与制度の総合的見直し」への対応策を運動方針に

新たな運動方針では、(1)人事院や人事委員会の勧告に戦略的に対応していくことによる地方公務員の賃金闘争の強化、(2)「中道」「リベラル」勢力を総結集することによる政治への取り組み、(3)新たな組織強化・拡大の取り組み――の3点を当面の重点課題に掲げた。

地方公務員の給与は、人事委員会を持つ都道府県や特別区などの自治体では、毎年、夏に国家公務員の給与に関する人事院の勧告(人事院勧告)が出され、それが閣議決定された後、国の人勧の内容に準拠した給与決定がされる場合が多い。人事委員会を持たない市町村でも、国の人勧や近隣の自治体の人事委員会勧告の影響を受けた決定がなされるのが通例となっている。また、国家公務員に対して給与削減が行われる場合には、地方にも同等の措置が求められることも多い。

近年の国家公務員に対する人勧では、2014年に0.27%の引き上げ勧告が出され、今年も8月に0.36%の引き上げ勧告がなされた。昨年の人勧では、あわせて「給与制度の総合的見直し」も提起され、給与の根幹部分である俸給表の水準を一律2%カットする一方で、給与項目の1つである地域手当の支給率の変更が行われた。

具体的には、給与水準が民間と均衡している地域では、全体の給与水準は変わらず、俸給と地域手当の給与配分の見直しにとどまる結果となったが、民間に比べて水準が高い地域では、地域手当の支給率が引き下げられたり、非支給地域の対象とされた。制度の見直しは今年度から3年かけて実施される。地方公務員については、総務省の検討会が「給与制度の総合的見直し」と同様の給与表の引き下げを求めた。

「給与制度の総合的見直し」に関連して新運動方針は、「多くの自治体が地域手当の非支給地である一方、本府省手当、広域異動手当など、国公においては地公には支給されない手当が給与(賃金)全体に占める割合が、徐々に大きくなっている」と指摘。そのため、国家公務員と地方公務員の給与水準を比較する際に使われるラスパイレス指数について、同指数が国公の俸給部分と地公の給料全体を比較していることになることから「単純に比較を行うこと自体意味をなさなくなっている」と主張。また、住居手当の内容など、「必ずしも国公の見直しに地公が足並みを揃えることが適当でない場合も出てきている」として、今後の賃金闘争の方向性について「人勧告制度それ自体は前提としつつも、国公との制度的・実態的差異に着目し、改めて地公法の『均衡の原則(とくに生計費・他自治体・その他を重視)』を根拠に、地域や各自治体の独自性を重視した『人事院・人事委員会勧告への戦略的対応』を基本に、取り組みを強化する」と明記した。

一方、地方公務員の賃金全体を底上げする闘争については、「春闘期から確定期までを見据え、すべての単組が『要求-交渉-妥結(書面化・協約化)』に取り組む」とし、給与制度の運用を改善させることなどによって、水準の上積みを求めると主張している。

本部では、全国統一闘争を適切なタイミングで設定し、全国レベルでの底上げをめざすとし、地域では、近隣自治体単組とのブロック共闘体制を構築したり、周辺自治体との賃金水準比較を実施することなどによって横の連携をはかり、県本部・都道府県職を中心に意識的な人事委員会対策を進めるとしている。

「国家・地方公務員の給与比較の見直しを」(氏家委員長)

大会の冒頭にあいさつした氏家委員長は、今年の人勧について「今後、取扱いについては給与関係閣僚会議で検討・決定されていくが、『凍結』や『値切り』などといったことがないよう、確実な実施を求め、取り組みを進めていく」と強調。給与制度の総合的見直しの関連では、「全国の75%の自治体は『地域手当』の非支給地だ。そのため、非支給地では、ただただ、給与水準が下がってしまうという結果となっている」とし、運動方針のとおり、ラスパイレス指数による単純な国公・地方の給与比較の見直しを求めた。

さらに、給与制度の総合的見直しに対して氏家委員長は、「そもそも2012年、『2006年の給与構造改革における地域民間賃金の反映は、所期の目的を達成した』と人事院自らが評価・報告していたにもかかわらず、2015年の給与制度の総合的見直しは、民間賃金の低い地域をピックアップし、さらに2%の引き下げを行うこととしたものだ。これでは、政治の意を汲んだ恣意的な勧告といわざるを得ない」とあらためて昨年の勧告を批判。「人勧制度に全幅の信頼をおいて、対応するだけでは、もはや賃金は守っていけないと認識する必要がある」と会場の組合員に呼びかけた。

一方、今後の給与に関しての闘い方については、「引き続き、人勧制度を前提としつつも、この間の闘争の経過、さらには、国公との制度的・実態的差異にも着目し、地公法の均衡の原則を根拠に、地域や各自治体の独自性を重視した対応を、今後の賃金闘争の方向性としたい」と提起し、「9、10月には人事委員会勧告が予定されているが、賃金闘争における県内の横の連携、そのもとでの県本部・都道府県職を中心に意識的な人事委員会対策を進めるなど、地公賃金の底上げに向けて、本部・県本部・単組で総括をし、みなさんと一緒に取り組みのいっそうの強化を図っていきたい」などと訴えた。

当面の重点課題の2つめである政治への取り組みでは、昨年の大分での定期大会で確認した、安倍政権に対峙する「中道」「リベラル」勢力を総結集するという政治方針への中央・地方での理解をさらに広めるとしている。また、方針は、安倍政権が「戦後史を塗り替える作業を一気に推し進めることを鮮明にしている」と主張し、「憲法の前文および第9条を堅持する立場で、まずは、国会の段階で憲法改正発議を阻止する取り組みを進める」とした。

職員組織率の回復と非正規労働者の10万人組織化を

3つめの重点課題である組織強化・拡大の取り組みでは、2015年9月から2019年8月までを期間とする「第4次組織強化・拡大のための推進計画」を踏まえ、職場で新規採用された職員の組織率の全国平均70%台への回復や、臨時・非常勤等職員などの非正規労働者の10万人組織化を当面の目標として取り組むとしている。

第4次計画によると、現在の自治体正規職員の組織率は70.7%となっているものの、新規採用者の組織率は65.0%にとどまる。計画は、本部では新規採用者の組織化に特化した会議を設定。組織化のためのマニュアルも改訂する。県本部では、各単組の新規採用者組織率を把握し、指標を参考に各単組の目標値を協議・設定する。指標は、新規採用者組織率が100%の単組は、引き続き100%を維持し、70%以上の単組は100%を加入目標とし、2019年度までに達成計画を作成するとしている。70%未満の単組は、少なくとも現状から10%の組織率アップを目標とする、などとしている。一方、単組は、新規採用者向けの教宣物を作成・配布したり、若年層や女性組合員の協力も仰ぎながら組織化を進めるなどとしている。

非正規労働者については、現在、組織率が6.8%(2012年調査)となっている(加入者数は約3万7,700人)。20%の組織化を基本に大胆に運動を進めるとしている。

運動方針の討議では、賃金闘争に関して、方針が打ち出した人事院や人事委員会の勧告に対する戦略的な対応に対して多くの発言があった。「地域手当がない地域では給与引き上げ勧告は全く反映されていない。地域手当がある地域と、地域手当がない地域とに分けて、戦術を考えるべきではないか」(大阪)、「方針は、ラスパイレス指数100を最低基準として取り組むというが、それを達成できる単組がどれだけあるのか。ラス指数にかわる給与の指針を自治労自らが示すべきではないか」(徳島)、「地域手当がない地域では、確定期にどんな取り組みをすべきなのか教えて欲しい」(長野)、「戦略的対応では、具体的な指導を本部にお願いしたい」(青森)、「人事院勧告をこれからも前提とするならば、これ以上、地域間格差を広げさせない取り組みが必要だ」(岩手)などの意見が出る一方、山口県などからは、国に準拠しないで独自の俸給表を運用している例の報告もあった。

このほかでは、2017年5月までに終了となる県本部体制強化交付金など各種交付金の継続を求める意見や、平和運動・護憲運動に対する意見が多く出された。

役員改選を行い、書記長を務めていた川本淳氏(北海道本部・中川町職労)が委員長に就任し、書記長には、福島嘉人氏(神奈川県本部・川崎市職労)が就いた。副委員長には、荒金廣明氏(福岡県本部・中間市職労)、杣谷尚彦氏(三重県本部・自治労伊賀市職労)、仙葉久氏(秋田県本部・秋田市職労連合)が選ばれた。