改正障害者雇用促進法が成立/1998年以来の大幅改正

(2013年6月19日 調査・解析部)

[行政]

改正障害者雇用促進法が13日、衆院本会議において全会一致で原案どおり可決、成立した。改正法は雇用の分野における障がい者に対する差別を禁止するなどの措置を定めるとともに、精神障がい者を法定雇用率の算定基礎に加えることも盛り込んだ。

改正法では、雇用の分野における障がい者に対する差別禁止および及び障がい者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、障がい者の雇用に関する状況を踏まえ、精神障がい者を法定雇用率の算定基礎に加える等の措置を追加した。こうした点から、身体障がい者に加えて知的障がい者の雇用を義務付けた1998年以来の大幅な改正となる。

4月19日に国会提出された改正法案は、参議院では6月5日の本会議で前回一致で可決。衆議院に送られ、厚生労働委員会で3回の質疑を行い、全会一致で可決し、13日の本会議で可決、成立した。

「差別禁止」と「合理的配慮」が盛り込まれる

今回の改正法は、雇用の分野における障がい者に対する差別の禁止及び障がい者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、精神障がい者を雇用義務化の対象とすることなどが主な柱。これを受け、事業主は雇用の分野における障がい者に対する差別を禁止するとともに、事業主は職場における障がい者と障がい者でない者との均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善するための措置等を実施しなければならないことになる。

「差別禁止」と「合理的配慮」については、2007年に採択された国連の障害者権利条約をわが国は翌年に署名しており、同条約には障がいに基づく差別の禁止および合理的配慮が含まれていることから、国内法の整備を求められていた。改正法では「障害者に対する差別の禁止」として、事業主に対して「労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならないものとすること」「賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならないものとすること」を書き加えた。差別禁止に関する具体的な内容については、指針を策定する。

また、事業主に対して「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等を図るための措置」として、募集及び採用について、障がい者と障がい者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善しなければならないとし、「労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない」と明記。ただし、「事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでないものとする」としている。

さらに、障がい者でない労働者との均等な待遇の確保、また障がい者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、事業主に対して、「その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならないものとすること」の文言が盛り込まれた。ただし、こちらも、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでないものとするとしている。この障がい者と障がい者でない者との均等な機会の確保等についても、指針を策定する。

加えて、差別禁止や合理的配慮の提供に関して、厚生労働大臣による助言・指導、勧告のほか、紛争解決の規定も盛り込んだ。

精神障がい者も法定雇用率の算定対象に

また改正以前の法律で、雇用が義務づけられているのは、身体障がい者と知的障がい者だけだったが、そううつ病、統合失調症、てんかんなどの精神疾患に罹患している精神障がい者が含まれることになった。精神障がい者の雇用義務化については、厚生労働省研究会で検討が進められ、昨年8月に「精神障害者の雇用環境は改善され、義務化に向けた条件整備は着実に進展してきたと考えられることから、雇用義務の対象とすることは適当である」との報告をまとめていた。

ただし、こうした改正内容に着実に取り組むことができるためには、十分な準備期間を設けることが必要なため、「障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供義務」は3年後の2016年4月1日、「精神障害者の雇用義務付け」は5年後の2018年4月1日からの施行となる。

また、法定雇用率の算定に関しては、2018年の法施行後5年間に限り、精神障がい者を法定雇用率の算定基礎に加えることに伴う法定雇用率の引上げ分について、本来の計算式で算定した率よりも低くすることを可能とする激変緩和措置も盛り込んだ。