新会長に全トヨタ労連出身の相原康伸氏/自動車総連の定期大会

(2012年09月12日 調査・解析部)

[労使]

相原康伸氏(全トヨタ労連)が会長に就任

自動車総連(約77万人)は6、7の両日、都内で定期大会を開催し、向こう2年間の新運動方針を確認した。役員改選が行われ、これまで2期(4年間)、会長を務めてきた西原浩一郎氏(日産労連)が勇退し、事務局長だった相原康伸氏(全トヨタ労連)が会長に就任。事務局長には日産労連事務局長の郡司典好氏が選ばれた。

海外紛争には親会社労組の責任で関与

主催者あいさつした西原会長は、多発する日系企業の海外現地拠点での労使紛争について、「労使紛争発生時には、日本の親会社労組の責任として、国際連帯の精神に基づき現地の労働組合の事情も踏まえ、公正な形での解決に向け関与していく必要がある」としたうえで、紛争の未然防止と海外拠点での健全な労使関係の構築に向け、「(国際産別組織である)インダストリオールや金属労協とも連携し、多国籍企業労組ネットワークの構築をはじめ国際分野の諸活動を強化していく」と強調した。

現在の円高水準については、「自動車産業には耐えられない水準であり、国内事業が大きな危機に直面している」と訴え、海外からの輸入部品の拡大が加速していることから、「このままでは中小企業をはじめ地方に根付く部品産業の危機は深まるばかりだ」とあらためて危機感をあらわにした。

TPPは参加が不可欠

一方、TPP(環太平洋経済連携)に関しては、「参加が不可欠」との立場を改めて表明し、総連として「ILO中核的労働基準の順守条項および環境条項の組み入れを前提に政府の一刻も早い参加表明を強く求める」と主張。自動車関連諸税や消費税との関連では、97年に消費税が3%から5%に引き上げられた際に国内販売台数が前年比で101万台の落ち込みとなったと説明したうえで、「万が一、(諸税の)抜本改革が実現できない場合、産業と雇用は壊滅的な打撃を受けることになると考える」と、国内への大きなマイナスの影響を危惧した。

新運動方針には、労働関連の重点項目として、国際労働諸問題に対応できる体制整備や、今後の労働政策分野における対応についてとりまとめた「労働政策ビジョン」に基づく取り組みなどが盛り込まれた。

国際問題への体制整備では、多国籍企業労組ネットワークを構築するため、グループ労連や単組での海外労組との二国間会議の開催などに向けた取り組みについて、総連内の部会とも連携して推進するとした。とくに、米州地域、欧州地域、アジア地域の3地域では、全米自動車労組(UAW)、IGメタル(独金属産業労組)など各地域の主要産業別組織と連携。海外での労使紛争防止に向けては、国際労働運動の動きについて日本の労使間で理解を深めていくほか、ILOの中核的労働基準に抵触する案件では対応事例を総連内の国際委員会で共有して対応力を強化する。

部分共闘の検討も開始

労働政策ビジョンでは、賃金の取り組みにおける構成組合の今後の共闘の枠組みについて、 (1)完成車メーカーを牽引役とする共闘だけに頼らない単組の実力強化、 (2)よりデータを重視した体制の構築、 (3)完成車メーカーを牽引役とする共闘の機能は継続・強化する、など6つのポイントを提示した。単組の実力強化では、総連内でノウハウを共有したり、単組の弱み・強みを明確化することが必要だと整理。データ重視の体制づくりでは、ポイント賃金のデータベースの精度を高めるとした。共闘のあり方の関連では、メーカーは引き続き牽引役を果たすものの、部門別、底上げなど特定の共通項を持った組合による部分共闘の検討を打ち出した。

このほかでは、非正規労働者の組織化に引き続き注力するほか、希望者全員が65歳まで働き続けられるよう取り組む。賃金の取り組みでは、まず、取り組みの前提となる個人別データを把握するため、賃金調査を含め実態把握を完了させる。個別賃金要求方式の推進では、春闘時に設定している個別賃金の「目指すべき水準」について、より実効性ある賃金指標を新たに作成するとしている。

賃金改善した組合数は昨年並み

運動方針案についての討議では、10あるグループ労連が、すべて賛成の立場で決意表明を行った。全トヨタ労連は、円高や経済連携協定の締結の遅れなどで海外のライバル企業とのハンデを負うなか、組合員の雇用安定と自動車産業の発展を実現していくためには政治の役割がこれまでになく高まっているとし、「産業基盤の維持に向けた政策制度の実現に全力で取り組む」と表明した。日産労連は組合の社会的な役割などについて言及し、「企業の現場の多くは多様な社員なくして支えきれなくなっている。しかし、働く仲間としての一体感が必ずしも醸成されていない」と述べ、非正規労働者の組織化の必要性を呼びかけた。全本田労連は、自動車産業は世界規模では右肩上がりだが、日本では産業の転換期にあることを意識して、総労働時間の短縮など経済の拡大基調時にあったリーマン・ショック前に検討された活動などは、見直しが必要だとして、「労連がアイデアをもちより、新しい発想で着実に成果に結びつけられるよう総連のリーダーシップをお願いする」と発言した。

大会の報告事項では、2012春季労使交渉の最終結果が報告された。賃金カーブ維持分を峻別できる組合数は昨年より増加した。改善分を獲得した組合数は131組合(478組合が要求)で、ほぼ前年並み(昨年130組合)となり、改善分の獲得平均金額は794円と前年(627円)を上回った。一時金は4.02カ月で、前年を0.06カ月上回る結果となり、4年ぶりに4カ月台を確保した。