希望者全員の60歳以降の継続雇用協定化もめざす/電機連合の2012春闘方針

(2012年02月01日 調査・解析部)

[労使]

電機連合(有野正治委員長、約60万人)は1月26、27の両日、横浜市で中央委員会を開催し、今春闘に向けた「2012総合労働条件改善闘争方針」を確認した。労使交渉を取り巻く環境として、「賃金水準の改善(引き上げ)要求を行う状況にはない」と判断し、昨年に続き、賃金体系の維持を統一要求基準とした。労働協約項目では、エイジフリー社会を展望する取り組みの入り口として、60歳以降の雇用延長について、対象を希望者全員とすることなどを盛り込んだ協約締結に向けて統一して取り組む。

賃金体系維持を至上命題に/有野委員長

あいさつした有野委員長は、賃金に関する取り組みについて、「取り巻く情勢が昨年より厳しさを増し、雇用を脅かすような状況にあるが、このような状況を乗り越え、大震災からの復興・再生を図り、デフレの進行に歯止めをかけ、景気の下支えと生活の安定を図るために賃金体系の維持を至上命題として取り組む」と強調した。

また、エイジフリー社会を展望した雇用延長の取り組みについて、有野委員長は「2012年春闘ではいわゆる2013年問題への対応として雇用と年金の接続を図るため、確実に65歳までの希望者全員の雇用を実現することとする」と述べたうえで、「電機連合は歴史的に、将来を展望し、労働に関する様々な法の動きの先取りをし、労働協約に結びつけてきた。今回の雇用延長に関しても法に先駆けて取り組むことで、時代を牽引していくという強い思いで対応していきたい」と構成組合に呼びかけた。

タイの洪水の悪影響も懸念

電機連合では、賃上げの取り組みの決定要素を、 (1)生計費 (2)生産性 (3)労働市場――の3項目に設定し、これらの要素をもとに、賃金水準の改善(引き上げ)を要求するかどうか判断している。今期については、生計費の観点では「ゆるやかなデフレが継続し、物価は上がっていない」(浅沼弘一書記長)、生産性については「タイの洪水の影響もあり各社の第3四半期以降の業績は心配な点が残る」(同)、労働市場については「求人倍率、失業率ともに悪い状況にある」(同)ことから、「賃金水準の改善(引き上げ)要求を行う状況にはない」と判断。昨年に続き、賃金体系の維持を統一要求基準とした。

具体的な要求基準は、「開発・設計職基幹労働者賃金」(年齢要素は30歳相当)を要求ポイントとし、構成組合は電機連合本部に登録した現行水準(要求ベース)の確保を図る。ただ、中堅・中小組合では、賃金体系の維持に必要な賃金引き上げ原資を確保できていないケースも多いことから、賃金水準の検証と分析を行い、個別賃金水準の明らかな低下傾向が認められる場合は、賃金水準の是正に取り組むとした。また、単組が格差改善の取り組みの必要性があると判断した場合、格差改善のための具体的要求を行う。

電機連合によると、昨年の春闘では、58組合が格差改善に向けた具体的要求を掲げ、22組合で何らかの前進がみられた。有野委員長は、26日の中央委員会前の記者会見で、中堅・中小を中心とする是正の取り組みについて、「賃金体系がしっかりできていないと、みせかけの定期昇給をやっても先輩と同じ賃金の軌跡を描くことができず、賃金カーブを維持できないことになるとともに、組合がそれに気づかない」などと話し、個々の組合で、賃金格差のターゲットを明確にして、どこまで引き上げることが必要か労使で合意して取り組むことが必要だと述べた。

一時金について、方針は「平均で年間5カ月分を中心とする」とし、最低でも確保する水準として設定している「産別ミニマム基準」は、今春闘でも年間4カ月分とする。

昨年に続き産別最賃の1,000円引き上げを要求

産業別(企業内)最低賃金(18歳見合い)は、昨年の春闘では1,000円の引き上げを要求し、満額回答を獲得したが、今春闘でも1,000円の引き上げを要求。15万5,000円への到達をめざす。また方針は、この水準を18歳以上のすべての労働者に適用することを原則に、協定の締結をめざすとしている。

今春闘は、2年に1度の労働協約の改定年にあたる。労働協約項目での要求では、産別方針としてきたエイジフリー社会を展望した60歳以降の雇用延長関する具体的な取り組みを最大の柱とした。電機連合では、働く意欲があれば、本人の意思に基づき、誰もが年齢にかかわりなく、生き生きと働くことができるエイジフリー社会をめざしている。

今春闘では、雇用と年金が接続しなくなる2013年問題もあることから、入り口の取り組みとして、60歳以降の雇用延長について、 (1)全従業員(管理職、パート、有期契約なども含む)を対象に希望者全員の雇用延長を保障する協定締結を基本とする (2)身分について、社員に準じた安定したものとする(制度は定年引き上げ、定年廃止、継続雇用制度の導入のいずれかで可) (3)処遇は、産業別最低賃金(18歳見合い)を上回る水準を確保する (4)組合規約上で組合員と位置づける――の4項目を統一して要求する。電機産業は、高齢者雇用では常に他産業に先駆けて制度充実を図ってきた歴史をもつ。2000年の春闘では、他産別に先駆けて65歳までの雇用延長制度を大手で足並み揃えて労使合意した。

短時間勤務の期間延長、介護離職の再雇用制度も

労働協約項目ではこのほか、仕事と家庭の両立支援の取り組みの一環として、育児のための短時間勤務制度の期間を「小学校3年の3月末まで」に拡充することや、介護短時間勤務制度の期間を「3年間」までに拡充することを統一目標基準とした。さらに、育児や介護で就業を断念せざるをえない人に配慮し、離職した人のための再雇用制度の導入・整備についても労使協議していく。

中央委員会での討議では、エイジフリーを展望した60歳以降の雇用延長の取り組みについて、「高齢者の雇用に焦点があたりすぎると、高齢者だけのための取り組みとみられかねない。(自分たちの組織内でも)組合員から、なぜ若年層が高齢者の年金を負担しなくてはならないのか、若年層の処遇に影響がでるのではないかなどの意見も聞かれた。世代間のパイの奪い合いと受け止められることを危惧しており、特定の世代に偏る取り組みではないというエイジフリー社会の理念を徹底する努力が必要だ」(三菱電機グループ労連)、「2013年問題への対応に向けて労使で論議すべき重要な課題の1つである。今春闘において、希望者全員の雇用に向けて労使論議を深めていきたい」(日立グループ連合)などの意見が出された。

方針は、要求提出日は2月16日までとした。