総合重工組合が2年単位で3,000円の賃金改善を要求へ/基幹労連の春闘構想

(2011年12月16日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄金属の労働組合でつくる基幹労連(神津里季生委員長、約25万人)は12、13の両日、滋賀県大津市で「AP12春季取り組み討論集会」を開催し、2012春闘の基本構想について討議した。2年サイクルで統一要求を掲げる基幹労連にとって、2012春闘は要求を掲げる年にあたる。討論集会では賃金改善について、中堅・中小が中心となる業種別組合では格差改善に向けて取り組み、3,000円の引き上げを目安に具体的な水準を業種別部会ごとに設定する方向で議論。船重部門の大手で構成する総合重工組合は、国内経済活性化の観点から3,000円の賃金改善に取り組む方向で討議した。

産業政策と労働政策がパッケージの春闘構想

討論集会で提起された基本構想は、AP12春季の取り組みについて、「震災復興・産業空洞化防止に向けた産業政策領域の取り組みと、低所得者層の増加による内需低迷への対応策など国内経済活性化に資する労働政策領域の取り組みをパッケージとして取り組む」ものと位置づけた。基幹労連は今夏の定期大会で、「魅力ある労働条件づくり」と「産業・企業の競争力強化」の好循環の実現をめざす「産業・労働政策中期ビジョン」を確立したばかり。今回の春闘は中期ビジョン確立後で初めての春闘となることから、基本構想は、中期ビジョンの考え方が随所にちりばめられる内容となった。

取り組みの基本的考え方としては、 (1)国内空洞化などものづくり産業の危機への対応 (2)低所得など非正規労働者の問題などを解決しての国内経済の活性化 (3)中期ビジョンを踏まえた取り組み (4)魅力ある労働条件づくりのための「人への投資」の追求――を掲げた。取り組みの柱としては、 (1)産業空洞化防止 (2)非正規を含めた働くものすべての雇用確保と待遇改善 (3)労働条件の底上げと格差改善――の3本に絞り込み、これらを実現していくために非正規も含めた待遇改善や業種別組合を中心とする労働条件の向上・格差改善などを展開していくとした。

業種別組合は格差是正の観点で改善要求

春闘での具体的な取り組み項目をみていくと、賃金では、まず、「制度的な定期昇給の実施およびその確認、または定期昇給相当分を確保する」。賃金改善では、鉄鋼、総合重工、非鉄の各大手以外の組合が該当する業種別組合について、「労働条件の底上げ・格差改善に取り組むこととし、○○○○円を目安に、具体的な水準については業種別部会ごとに設定する」とした。大手の総合組合に関しては、「各部会でのまとまりを中心に、各産業・企業課題や国内経済活性化等の観点で賃金改善に取り組む」とした。

メールマガジン労働情報 No.779(2011年12月16日 調査・解析部)

討論集会の冒頭挨拶した神津委員長は、賃金改善の取り組みについて「率直に言って、それぞれ(各部会)のなかで環境条件やあるべき論を含め意見は様々であったところ、最終的には、要求していくことを基本としてまとまってもらった。それを可能としたことの背景として、全体で一律の金額を設けることはしないということが前提になった」とこれまでの議論の経緯を説明。「(賃金改善の)進め方はさまざまであるなかにあっても、基本はあくまでも『賃金改善を要求する』としたことについて、その意義を大事にしていかなければならない」と強調した。その後、基本構想を説明した基幹労連本部の近藤之事務局次長は、基本構想の賃金改善で空白となっている引き上げ額の目安について、過度な要求はできないことや連合の1%改善という目安、これまでの取り組み経過などを踏まえて「3,000円程度を討議のたたき台にしてもらえれば」と提案した。

大手・総合組合が関連や中小を積極的にサポート

分散会の討議では、部門・部会で区分けしない分散会では、業種別組合で賃金改善に取り組んでいく構想について、「親会社の業績に左右される面が大きい。大手を含めた回答が良い方向に進むと交渉しやすい」(呉興業労組)など、大手企業、親企業のサポートを求める意見などが出された。基幹労連本部の工藤智司事務局長は「総合組合は、産業空洞化を阻止して国内経済を回し、待遇格差を改善して賃金を改善していくというこのロジックのけん引役にならないといけない」と呼びかけるとともに、「グループの協議会がある労連では、親会社の組合が各会社にぜひ働きかけて欲しい」と述べて、大手組合・親企業組合のサポートの重要性を強調した。

一方、鉄鋼部門、船重部門、非鉄部門などに分かれて討議した分散会で、船重部門では、各部会から部会方針に関する検討状況の報告があり、三菱重工や川崎重工の組合が所属する「総合重工部会」からは、賃金改善について、2年単位で一人平均3,000円で検討しているとの報告がなされた。これに対して各労組からは「関連労組を含めて8,000人ほど組合員がいる。業種ごとにさまざまな課題があり、助言や情報共有などをしながらグループ一体となってAP2012を乗り切りたい」(三菱重工労組)などの決意表明があった。

総合重工では退職金にも取り組む

賃金以外では、「一時金」、「退職金」、「労働時間・休日・休暇」、「諸割増率関連」、「労働災害付加補償」を主要項目として取り組む。退職金では、総合重工では、川重労組、住友重機労組、日立造船労組が、中期ビジョンで掲げるガイドラインの「60歳・勤続42年・高卒、2,200万円」に未到達なため、到達に向けて改善要求する方向だ。休日・休暇では、1,800時間台の実現に向けて休日増などの要求を業種別部会ごとに設定。震災対応の経験を踏まえ、ボランティア休暇の制度内容について点検していく。

基幹労連は2月8日に開く中央委員会で最終的な春闘方針を決定する。