CO2排出削減目標に懸念の声/基幹労連定期大会

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄金属の労組でつくる基幹労連(内藤純朗委員長、24万9,000人)は3,4の両日、兵庫県神戸市で定期大会を開き、「2010,2011労働条件改善の基本方針」を確認した。内藤委員長は「苦しい時こそ人への投資が一層大切になるとの観点に立って取り組み方針をつくる」などと述べ、来年の春闘では同産別として3ラウンド目になる2年サイクルの労働条件改善に取り組む考えを表明した。議論では、民主党がマニフェストで打ちだしているCO2排出削減目標を懸念する発言が続出。今後、同党に対し、働きかけを強める姿勢を鮮明にした。

苦しい時こそ「人への投資」が大切

基幹労連定期大会

基幹労連の「2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)」は、初年度は大手が中心になって賃金などの主要労働条件を集中的に交渉し、2年目には一時金や企業・業種間の格差是正などの交渉を重点的に行う取り組み。06春闘から始めており、09春闘までの2ラウンドは、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げ、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に、従来型のベースアップ要求ではなく、月例賃金の改善を求めてきた。

冒頭、内藤委員長はあいさつで、「(AP10,11も)私たちの理念である『好循環』『人への投資』という考え方をベースに取り組みを進めることになる。厳しい環境にあっても『好循環理論』は揺るがない。苦しい時こそ人への投資が一層大切になるとの観点に立って取り組み方針をつくる」と訴えた。

労働界全体で複数年の春闘を

さらに、連合の春闘への関わり方についても「2年サイクルの労働条件改善の考え方は、労働界全体で検討しても良いのではないか」と言及。「例えば『2~3年ごとに連合が旗を振る国民春闘を組織して全体の底上げを図り、その中間年では産業別組合ごとの課題克服にそれぞれが注力する』という方式はどうか。潜在成長率が1%を切ろうという低成長時代にあって、このような考え方も検討の俎上に載せるべきだ」と述べ、連合春闘の見直しを提案した。

春闘のあり方については、連合の髙木会長が来賓あいさつで、「自動車総連の大会でも来年の春闘の話があった。基幹労連は来年の春闘が主たる労働条件について取り組む年になる。大変厳しい環境だが、傘下の組合員の生活と権利がみなさんの運動にかかっていて、そのことが日本の多くの労働者に大きな影響を与えることを十分認識して欲しい」と訴えた。

春闘では慎重姿勢を求める意見が

討論では、来年の春闘について「足元では生産量も徐々に回復してきているものの、その水準は未だ低く最悪期を脱したに過ぎない。AP10は先行き不透明で予断を赦さない状況のなか、慎重かつ的確な対応を求める」(新日鐵労連)、「日本経済は本格回復には至っておらず、2010年には二番底があるとの見方もある。操業や設備投資の縮小、雇用調整等未だ継続して実施されている企業も多く、AP10はAP09以上に厳しい」(住金連合会)、「今は組合員の雇用(維持・確保)のために、賃金減額などの労務費圧縮をはじめ、収益改善諸施策に努力している状況」(日清労組)などの慎重姿勢を求める意見が出された。

また、神鋼連合は、一時金の業績連動方式について、「中期計画と連動して水準を定めた業績連動の算式が存在しない想定外の状況にある。2010年の年間一時金は要求交渉も視野にいれて取り組んでいかなければならない」としたうえで、「生活を考慮した要素の必要性を経営に粘り強く訴えていくことが極めて重要」と述べ、一時金が生活給となっている実態も踏まえた対応を求めた。

民主党の地球温暖化政策をけん制

一方、内藤委員長は、支持政党である民主党への政権交代について、「初めて政権与党を通じた政策実現活動を行うことになるが、これまでと同じように『私たちの政策の正当性を行政に訴える』『組織内議員や国政フォーラムを通じて政権与党内への政策浸透を図る』活動を繰り返す以外にない」とのスタンスを説明。そのうえで「地球温暖化の防止についても、具体的政策展開の際には働く者、生活する者の意見を十分考慮し、国際的公平性の中で二酸化炭素の削減に有効なものにする必要がある。過度な防止政策によって産業発展が阻害され、国民生活が疲弊し、挙句の果てに二酸化炭素は減らなかった、では立つ瀬がない。そうならないように、新政権と密接な連携を図っていきたい」と述べた。

基幹労連は8月18日に民主党の直嶋正行政策調査会長に地球温暖化対策についての要望書を手渡すなど、CO2の排出削減問題に危機感を強めている。内藤委員長のあいさつは、この問題に対する民主党の動きをけん制した格好だ。

CO2排出削減目標を不安視する意見

実際、討論でも、鉄鋼労組を中心にCO2の排出削減問題に対する不安の声が相次いだ。「日本の鉄鋼業は世界最高水準のエネルギー効率を実現しており、さらにCO2排出削減を図るべく、取り組んでいる。しかし一方で、その研究開発や実用化には一企業で耐えうる以上の莫大なコストを要する」(JFEスチール労連)、「CO2削減を単純に減産で進めた場合、国内産業の空洞化、競争力低下、それに応じて国民への負担増、また働く者の労働条件や雇用環境の悪化でわれわれの生活が悪化・制限されることも考えられる」(住金連合会)、「地球温暖化対策は国家的課題でもあり、地球規模での対応が必要なことは言うまでもないが、今後、我々の産業に与える影響が大きくなることが想定される」(神鋼連合)などの意見が出される一方、三菱マテリアル労連は「民主党のマニフェストと基幹労連のもつ政策は、すべてが一致しているわけではない。私たちの政策の正当性と実現性を高めるためには、国政レベルでの浸透や地方議員を巻き込んだ政策論議が必要だ」として、政権交代後の民主党との向き合い方などに注文をつける発言もあった。

答弁した神津里季生事務局長は、「地球温暖化対策は、目下の動きのなかでの最重要事項といっても過言ではない。間違っても京都議定書の失敗を拡大させるようなことになれば、民主党自身の足かせにもなると警鐘を鳴らしていく必要がある。世の中の表面の流れに流されてしまうと、とんでもないことになるということを肝に銘じて取り組みを強化していきたい」などと説明した。

(調査・解析部)
2009年 9月9日