物価上昇への対応をめぐり討論/基幹労連定期大会

(調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄金属の労組でつくる基幹労連(内藤純朗委員長、24万3,000人)は9月4、5の両日、都内で定期大会を開き、向こう2年間の運動方針を確認した。内藤委員長は、「08年度の過年度物価上昇率は1%強程度と言われており、予測の範疇だ」などと述べ、09春闘では2年サイクルの労働条件改善交渉の下で中小組合の格差改善と一時金を中心に取り組む考えを表明したが、討論では物価上昇への対応に関する意見が相次いだ。

物価上昇幅は予測の範疇

内藤委員長はあいさつで、最近の物価動向を、「景気が悪化しながら物価が上がるという最悪のシナリオ『スタグフレーション』の懸念さえ出てきた。しかも、その物価上昇は、輸入物価の上昇がそのまま国内物価を押し上げるという、いわゆるコストプッシュ型で、これまで経験してきた需給バランスによるものではない」と説明。そのうえで、「物価上昇の中心品目は燃料や食料という生活必需品であり、私たちの生活を直撃している。統計によると基礎的支出では3.7%の上昇、年間9回以上購入する品目に限ると5%を超える上昇になっている」などと述べ、特定品目の高騰による生活への影響に懸念を示し、自公政権を「有効な手を打つことができない」などと批判した。

09春闘(AP09)の取り組みと物価の関係については、「現状では08年度の過年度物価上昇率は1%強ではないかとの予測がある。その上昇幅は、昨年立てた見込みを若干上回っているが、動向予測の範疇にある」などと指摘。「AP(アクションプラン)09は、『個別年度』の取り組みを徹底したい。2年サイクルの労働条件改善方式を適用し、個別年度としての成果をしっかりと求めるべきだ」と訴えた。

基幹労連は、2006年の春闘から全体で2年サイクルの労働条件改善交渉に臨んでおり、中間年は総合(大手)各社などで賃金交渉は行なわず、一時金と業種別(中小)組合の格差改善の取り組みが柱となる。中間年にあたる09春闘では、この方式に沿って取り組むとの考えを改めて表明した格好だ。

物価高騰への対応について発言が集中

討論では、春闘での物価高騰への対応について発言が集中した。「足下の物価上昇は生活を直撃し、近年例をみない急騰。実質賃金維持と生活防衛の観点から個別年度における賃金改善の是非について議論を求める声が強まっている」(JFEスチール労連)、「2年サイクルへの移行の背景に、成熟社会に移行し、物価の動きも落ち着いたとの見通しがあった。しかし、現在の物価は落ち着いたという状況にはない。全国消費者物価上昇率が、日銀が物価安定の目安にする2%を超える非常事態のなか、2年サイクルが本当に働く者にとっていいのか再度検討して欲しい。組合員からは、『2年サイクルの枠組みに固執し、(09春闘で)賃金の取り組みを行わないのか』との厳しい意見もある」(川重労連)、「職場は現下の物価動向に非常に大きな関心を抱いている。(09春闘では)引き続き物価動向に注視し、取り組みに当たっては職場の実態を踏まえた誤りのない対応を図って欲しい」(住重労連)など、09春闘の要求に物価上昇分の賃金改善を盛り込むことを求める声が相次ぐ一方、「基本年度となる2010(春闘)に向けては、実質賃金を維持するとの姿勢の下、消費者物価等の情勢を注視し、組合員の期待の大きい狭義のベースアップに取り組むか否かについて産別の的確な見極めを求める」(新日鐵労連)「09(春闘)は2年サイクルの個別年度の取り組みで、格差改善や年間一時金が中心となるが、10(春闘)は今後の物価動向を注視しながら、賃金改善におけるベースアップ要求を十分、視野に入れなければならない」(神鋼連合)など、2010年度の基本年度にベアも含む賃金改善を検討すべき、との意見も出された。

賃金改善はベアの必要性も含め2010年に

答弁に立った神津里季生事務局長は、「(物価上昇は)職場の非常に大きい関心事だし、どうリードしていけばよいか非常に難しい内容を含んでいる」としながらも、「2年サイクルに取り組んで3年が経過し、(09春闘は)2回目の2年サイクルの後半を完結する位置づけ。これはわれわれの大きな構築物だし、08(春闘)でも立派な成果を出した。もし、このどこかを変えるなら、非常に慎重に相当な議論を要することを改めて認識して欲しい。物価は生活と直結しているので十分に注視していかねばならないが、今の情勢認識では、先ほど申し上げた(個別年度の対応を行う)ことを基本に取り組む」などと述べ、2年サイクルでの労働条件改定方式の対応に理解を求めた。そのうえで、「2010(春闘)でどういう取り組みを考えるかは、その時点での情勢を踏まえ、狭義のベアが必要かどうかもしっかり見極めていきたい」と話した。

ただし、09春闘での格差改善の取り組みにあたっては、「物価との関係が全く無関係かどうかもわかりやすく表現していく必要がある」と指摘。「デフレの状況がかなり続いた下、(各単組のこれまでの交渉のなかで)制度の変更、条件の改悪、水準の見直しがもしあったのなら、足下の物価動向を格差改善との関わりでどう捉えていくかの視点も必要になる」と補足して、物価上昇の目減り分を格差の改善原資として求めることに含みを持たせた。

このほか、大会では、業種別組合に対するサポート体制を強化する「業種別センター」を新設や、小規模組合へのフォローを強めてコミュニケーションを密にすることなどによる組織の強化、企業内最低賃金の締結促進・水準引き上げ、非正規労働者の安全確保と技術・技能伝承、パート労働者の組織化と派遣労働者の正社員化の取り組みなどを掲げた新運動方針を確認。役員選任では、内藤委員長、神津事務局長らを再任した。